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世界は、彼女の解釈で転がる  作者: 白澄


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第8話 少しずつ、大きくなる

 それから私は、毎日スキルを使って練習をした。


 朝。


 母が起きる前。


 家の中が、まだ静かな時間。


 外はまだ薄暗くて、


 鳥の声も、今日は少ない。


 私は床に座り、


 丸いものを一つ、前に置く。


 石ころ。


 木の器。


 糸巻き。


 どれも、家にあるもの。


 新しいものじゃない。


 昨日と同じ。


 今日も同じ。


(中心)


(等距離)


(転がる)


 ――ころ。


 最初は、うまくいかない日も多かった。


 昨日は動いたのに、今日は動かない。


 さっきは転がったのに、次は止まる。


(……あれ?)


 何が違うのか、よくわからない。


 でも、やめなかった。


 何回もやらない。


 長い時間もしない。


 ただ、


 「今日はここまで」


 そう思えるところで、終わりにする。


 それを、毎日。


 気づいたら―― 動く日が、増えていた。


 転がるのが、当たり前みたいになっていた。


(……あ)


 そのことに気づいた朝、


 胸の奥が、少しだけくすぐったくなった。


(できる日が……増えてる)


 楽しい、というより。


 うれしい、というより。


 「ちゃんと続いてる」


 そんな感じだった。


(今日は、いつもより大きなものにしてみよう)


 家の周りを、少しだけ歩く。


 道ばたに落ちている石。


 いつも使っている石ころより、少し大きい。


 両手で持てるくらい。


 重さも、はっきりわかる。


 昨日までなら、


 最初から選ばなかった大きさ。


(……ちょっと、大きすぎるかな)


 抱えてみる。


(お……重い)


 腕に、ずしっとくる。


 石ころとは、ぜんぜん違う。


(でも……)


(できるかどうか、じゃない)


(できなくても、大丈夫)


 私は、そっと地面に置いた。


 深呼吸を一つ。


(いつも通り)


(中心)


(等距離)


(転がる)


 ――ごと。


 音が、違った。


 石が、ほんの少しだけ、動く。


 たった、それだけ。


 でも――


(……あ)


 息が、止まる。


 浮いていない。


 派手でもない。


 それなのに。


(昨日より……大きい石が、動いた)


 胸の奥が、じんわり温かくなる。


 怖さは、なかった。


 びっくりも、少しだけ。


 それよりも。


(……できた)


 次の日。


 また、次の日。


 使うものを、少しずつ変えた。


 石ころ。


 瓦。 


 木の器。


 距離は、短いまま。


 でも、


 ものが変わっても、


 大きさが変わっても。


 失敗しにくくなっていた。


(……あ)


(前より、迷わなくなってる)


 力が増えた、という感じじゃない。


 頭の中で、


 言葉を探さなくなった。


 呼びかけると、


 ちゃんと返ってくる。


 そんな感じ。


(スキルは……ちゃんと、聞いてる)


 急がなくていい。


 焦らなくていい。


 私が呼びかけた分だけ、


 返事をしてくれる。


 毎日、少しずつ。


 転がせるものが増えるたび、


 世界が、ほんの少しだけ近づいてくるような感覚がした。

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