第24話 守れ、と言われた
第一試験が終わっても、
試験場の空気は、まだ緩まなかった。
石壁が撤去され、
広い空間がそのまま残されている。
床は白く、何もない。
遮るものも、隠れる場所もない。
受験生たちは、
自然と互いの距離を取りながら並ばされていた。
ざわめきは小さい。
誰もが、次を待っている。
試験官の一人が前に出る。
「第二試験の内容を告げる」
静かな声。
だが、はっきりと響く。
「課題は――防衛」
一瞬、空気が揺れた。
「指定された対象を、攻撃から守れ」
視線の先。
試験場の中央に、
小さな人形が設置されている。
木製。
軽く触れれば倒れそうな、
簡素な作り。
「攻撃は、我々が行う」
試験官が一歩下がる。
「火、水、風。いずれも術式によるものだ」
ざわ、と声が広がった。
「守りきれなければ終了」
「破壊は許可する」
その一言で、
空気が少し変わる。
「ただし、対象――人形には触れるな」
条件は、シンプルだった。
守れ。
壊してもいい。
だが、触れるな。
受験生たちは、
それぞれのやり方を思い描き始める。
炎を打ち消す。
水を弾く。
風を押し返す。
力のイメージが、次々と浮かんでいる。
――ただ。
トラだけは、動けなかった。
(……火)
(……水)
(……風)
どれも、形を保たない。
触れられない。
中心を取れない。
まとまりとして、扱えない。
胸の奥が、ひりつく。
(守れ、って……)
人形を見る。
小さい。
壊れやすい。
でも、その周りには何もない。
壁もない。
盾もない。
(どうやって……)
周囲では、すでに動き始めている者がいた。
剣を構える者。
術式の準備に入る者。
それぞれが、
「守るための力」を信じている。
トラは、足元を見た。
床。
何もない。
視線を上げる。
天井。
高い。
――ない。
使えそうなものが、
何もない。
胸が、少しだけ苦しくなる。
(私……)
(何を、見落としてる?)
試験官の声が、再び響いた。
「準備が整い次第、攻撃を開始する」
もう、考える時間は少ない。
トラは、人形から目を離さず、
じっと立っていた。
まだ、答えは出ていない。
でも――
ここで諦める気は、なかった。
第二試験は、始まったばかりだった。




