第23話 静かなる喝采(アルケイン視点)
観覧席は、異様なほど静まり返っていた。
第一試験。
破壊課題。
十数枚の石壁が並ぶ試験場で、
次々と火花や雷鳴が上がる。
剣で叩き、
炎で焼き、
雷で削り取る。
――いずれも、正攻法。
アルケインは腕を組んだまま、それらを見ていた。
表情は変えない。
評価も、口にしない。
(悪くない)
術式運用科向き。
騎装戦技科向き。
才能としては、十分だ。
だが――
(それは、“壊している”だけだ)
破壊とは、力の勝負。
壁の硬度と、出力の競争。
それ以上でも、それ以下でもない。
そのとき。
アルケインの視線が、
自然と一人の少女を捉えた。
小柄な身体。
武器なし。
詠唱もない。
――セントラ。
(……来る)
彼女は、壁を睨まなかった。
叩きもしない。
力を溜める気配もない。
ただ――
見ていた。
壁の下部。
円柱状の基礎。
構造。
(いい)
アルケインの喉が、わずかに鳴る。
(そこだ)
次の瞬間。
壁が――
一瞬、宙に置かれた。
(……っ)
砕けたのではない。
爆ぜたのでもない。
落ちた。
支えを失い、
重さを取り戻し、
重力に従って。
――ゴンッ!!
鈍く、確かな音。
観覧席が、どよめく。
「今の……何だ?」
「攻撃、したか……?」
「魔力反応が……」
アルケインは、
一切、声を出さなかった。
だが。
(よし)
内心で、短く、確かに弾む。
自然と上がる口角を必死に抑えた。
(そこを“対象”ではなく)
(“条件”として扱ったか)
出力はない。
術式もない。
あるのは――理解だけ。
壁そのものではない。
壁を成立させている前提を、外した。
(構造破壊)
(概念破壊)
(再現性……申し分ない)
技能解析科の理想形。
――いや。
(理想を、超えている)
アルケインは、ゆっくりと息を吐いた。
表情は変えない。
誰にも、悟らせない。
だが、胸の奥では。
(見ろ)
(これが、“選ばれない道”の力だ)
派手な炎もない。
轟く雷もない。
それでも。
最も確実に、
最も美しく、
最も再現性をもって――
壊した。
(……ああ)
(この子は)
(技能解析科の未来だ)
第一試験は、まだ続いている。
だが、
アルケインにとっては――
この瞬間で、
もう十分だった。




