第22話 静かな破壊
試験場は多くあり、トラが案内をされた試験場は、想像していたよりも広かった。
半円状に並ぶ、石の壁。
一枚、二枚ではない。
十枚以上――いや、もっとある。
高さは人の二倍ほど。
厚みもあり、表面は魔術加工で補強されているのがわかる。
ただ壊すだけでは、歯が立たない。
「……多くない?」
誰かが、喉を鳴らすように呟いた。
受験生たちは、壁の前で等間隔に並ばされていた。
それぞれが、自分の担当となる壁の前に立つ。
――静かだ。
風の音すら、やけに大きく聞こえる。
誰も、動かず壁を見つめている。
失敗したらどうなる?
力が足りなかったら?
暴走したら?
頭の中で、最悪の想像がぐるぐる回る。
試験官の声が、低く響いた。
「第一試験。課題は単純だ」
一拍。
「――破壊せよ」
それだけだった。
合図はない。
開始の鐘も鳴らない。
だからこそ、動けない。
最初に動いたのは、剣を持つ少年だった。
深く息を吸い、踏み込む。
「うおおおっ!」
剣に、淡い光が宿る。
身体強化系のスキルだ。
――ガンッ!!
硬い音。
剣は弾かれ、少年は数歩後退する。
「……っ、硬っ」
だが、壁の表面には確かにひびが入っていた。
周囲が、ざわつく。
次に動いたのは、雷を纏う少女。
指を鳴らすと、空気が震えた。
「いけっ」
――バチン!!
雷光が走り、壁に直撃する。
轟音。
石の欠片が飛び散る。
完全な破壊には至らないが、
明らかに“削れている”。
「すげ……」
「さすが術式系……」
緊張が、少しずつ解けていく。
炎で焼く者。
重力で押し潰そうとする者。
それぞれが、自分のスキルをぶつけ始めた。
――ただ。
完全に壊せた者は、まだいない。
トラは、自分の前の壁を見上げていた。
近くで見ると、余計にわかる。
厚い。
重い。
そして――動かない。
(……壊す、か)
剣もない。
雷も出せない。
できることは、ひとつだけ。
(これは……)
壁の下部に、視線を落とす。
土台。
そして――円柱状の基礎。
(……中心、ある)
石の壁は、ただの板じゃない。
支えられて立っている“構造物”だ。
トラは、そっと息を整える。
(中心)
(等距離)
胸の奥で、感覚が噛み合う。
周囲では、派手な音が鳴り続けている。
剣撃。
雷鳴。
爆ぜる炎。
――だから。
誰も気づかなかった。
トラの前の壁が、浮いたことに。
「……え?」
誰かの声。
次の瞬間。
――ゴンッ!!
鈍く、重い音。
石の壁は、
“砕けた”のではなかった。
落ちた。
支えを失い、
重力に従って、崩れ落ちた。
一瞬の静寂。
次いで、どよめきが広がる。
「……今の、何だ?」
「爆発じゃない……?」
「壊した、というより……」
試験官たちが、同時に顔を上げる。
アルケインは、声を出さなかった。
(――やはり)
視線の先で、
小さな少女が、静かに壁を見下ろしている。
派手さはない。
だが。
それは、
剣よりも、
雷よりも、
よほど危険な才能だった。
第一試験は、まだ終わらない。
だがこの瞬間、
誰よりも強く印象に残ったのは――
何も壊していないように見えて、
一番確実に壊した少女だった。




