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世界は、彼女の解釈で転がる  作者: 白澄


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第20話 待機する才能

 試験会場は、思っていたより静かだった。


 石造りの広間。


 高い天井。


 壁には古い紋章が刻まれていて、声を出すと吸い込まれるように消えていく。


 ここが――


 オルビス高等技術院の、入学前試験会場。


 私は、与えられた番号の場所に立っていた。


 周囲には、同じくらいの年の子どもたちがいる。


 でも――


 雰囲気が、街とはまるで違った。


 少し離れたところでは、


 腕を振るたびに風を巻き起こす男の子がいる。


 別の場所では、


 手のひらに小さな炎を灯して、何度も形を整えている女の子。


 床に水を広げ、それを刃のように薄く保とうとしている子もいた。


(……すごい)

 誰も、無駄な動きをしていない。


 遊んでいる人も、ぼんやりしている人もいない。


 みんな、自分のスキルを「出して」いる。


 強さ。


 大きさ。


 派手さ。


 そういうものを、少しでも磨こうとしている。


 私は――


 小さく息を吐いて、足元を見た。


 石畳の隙間に、


 丸みのある小石がいくつか転がっている。


 私は、それを一つ拾った。


 そして、


 もう一つ。


 さらにもう一つ。


 並べる。


 距離を測るように。


 関係を見るように。


「……なにしてるの?」

 隣にいた女の子が、首をかしげて聞いてきた。


「練習、です」


「え? それ?」

 小石を指さされる。


「それ、武器にもならないでしょ」


「はい」

 私は、正直に答えた。


 女の子は、少し困った顔をして、


 すぐに自分の炎に意識を戻した。


 私は、気にしない。


(ここで、壊す必要はない)


 今は、どんな人がいるのか。


 どんなスキルが、どう使われているのか。


 それを見る時間だ。


 石を、指で軽く転がす。


 ――ころ。


 音は小さい。


 でも、私には十分だった。


(中心は、どこ)


(これは、一つの塊)


(それとも、関係の集まり)


 答えは、まだ出さない。


 ただ、考える。


 そのとき――


 広間の上方、回廊の影に立つ一人の男の視線を、私は知らない。


 アルケイン・ヴァロスは、


 腕を組んだまま、会場を見下ろしていた。


 剣。


 炎。


 水。


 風。


(例年通りだ)


 どれも優秀。


 どれも、将来は安泰だろう。


 ――だが。


 視線が、ある一点で止まる。


 誰よりも地味な場所。


 誰よりも静かな動き。


 小石を並べている、小さな少女。


(……出力を上げていない)


 いや。


(上げる必要がない、と判断している)


 アルケインは、表情を変えない。


 だが、内心では、確かに思っていた。


(この待ち時間で、“何を出さないか”を選んでいるのは

 彼女だけだ)


 やがて、


 鐘の音が一つ、鳴り響く。


「――これより、入学前試験の説明を行う」


 会場の空気が、ぴんと張り詰めた。


 私は、小石を拾い、


 そっと元の場所に戻す。


 試験は、まだ始まっていない。


 でも――


 世界はもう、静かに動き始めていた。

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