第11話 価値を知る者
―王都オルビス高等技術院・会議室 ―
円卓を囲むのは、王都でも指折りの顔ぶれだった。
高等技術院の教員たち。
神殿の記録官。
そして、数名の高位貴族。
「さて」
落ち着いた低い声で、ひとりの男が口を開いた。
「今年の子どもたちは、どうだい」
神殿の記録官が、待っていましたとばかりに頷く。
「ええ。今年は当たり年ですよ。勇者の適性を示した子もいましたし、稀少なスキルも複数確認されています」
「ほう」
男は、わずかに口元を緩めた。
「それは楽しみだ。来年のオルビス高等技術院は、賑やかになりそうだね」
「まったくです」
記録官は誇らしげに続ける。
「今年は特に、“理屈が通る”スキルが多い。正しく育てれば、国の中枢を担う人材になるでしょう」
円卓の空気が、ほんの少し和らいだ。
――そのとき。
「あ、ただ……」
記録官が、思い出したように言葉を濁す。
「一人だけ、少々変わったスキルがありまして」
「変わった?」
「はい。中心があり、等距離で巡っているモノを扱うことができる。です。」
その言葉に、
男の視線だけが、わずかに鋭くなった。
「……それはスキルなのか?」
「ええ。世間的には、いわゆるゴミスキルですね。意味がわからないんじゃ使えないですからね。」
記録官は軽く肩をすくめる。
周囲の大人たちが、どっと笑った。
「中心があって、等距離が巡っている物...なんだそれはっ!!あははっ!!」
「あはは、生涯使えないスキルをもらう事があるのか!」
笑い声が、円卓に広がる。
――だが。
男の思考は、その喧騒の中で、静かに跳ねた。
(中心)
(等距離)
それは、形ではない。
素材でもない。
(“定義”だ)
世界を、どう切り分けるか。
何を、同じものとして扱うか。
(もし、それを本人が理解し始めているなら)
(このスキルは――)
男は、内心で息をのむ。
(危険なほど、伸びる)
「……その子の名前は?」
記録官は、わずかに驚きながら答えた。
「セントラという子です。貧困地区の、小さな街に住んでいます」
男は、静かに笑った。
「ありがとう。もう、十分だ」
円卓の誰も、その言葉の意味を理解していなかった。
――行く価値がある。 いや、行かねばならない。
(どうか、このまま気づかずにいてくれ)
男は、胸中でそう呟いた。
*
――そして。
男の脳裏に、つい先ほどの光景がよみがえる。
暴走する馬車。
悲鳴を上げる群衆。
転び、動けなくなった子ども。
あの瞬間。
“ありえない動き”で、
馬車の車輪は転がった。
(中心)
(等距離)
理屈は、通っていた。
だからこそ――
「……やはり」
男は、小さく確信する。
「君だね」
あの場にいた、
怯えながらも目を逸らさなかった小さな少女。
――価値を知る者が現れたとき、
才能は、初めて“運命”になる。
そうして。
世界は、静かにつながり始めていた。




