5.お仕事
荒野を抜けて辿り着いたの、青々とした海が美しい海岸線だった。
この辺りは海水浴場として栄えていて、近くにある街は専ら、その全てが宿として機能している。こんなところにやってきたのだから、私の仕事はもう、一つだけだろう。
「やぁ、遅れずに来たね」
街の入口に新車を停めて、出迎えてくれた男性に笑顔で手を振る。
「やっほー。ユートさん。みてみて、新車。家も手に入れたよ」
「良いね。後は何処に家を置くかだけど、出来れば事務所の近くがいいかな」
「えー、事務所って王都にあるじゃん。あんな都会、私の実家のことを考えたら賑やかすぎて、ちょっといや」
私の実家は空に浮かぶ小さな島に構えているため、あまり賑やかな所は得意とはならなかった。
「久しぶり、ユート」
「サナティスもお元気そうで。どう、カラトとはうまく行ってる?」
「お陰様で」
ユートは私の兄であるカラトの幼馴染で、彼もモデルをしていた。そしてマネージャーへの転職を気に、親友の妹をスカウトしたのが、私がモデルを始めた経緯である。
そして、兄にサナティスを紹介したのも彼。
「アンミィも、頑張ってるね」
「ユーさんが配信環境を提供してくれたお陰や。ほんまに、おおきにな」
と、色々と私達に影響を与えた人物である。物腰は柔らかくて、爽やかなイケメン。それでいて実力もあるのだから、事務所内での地位も高い。
この世界のモデルは、基本的に自分で狩りをして衣装を集めている。それで、手に入れた衣装はどこにいるモンスターを狩って得たのか。そうして出現場所近くの街をアピールするのが仕事なのだ。
私はまだその仕事が出来ていないから、ハンドメイドの衣装を来て撮影をし、デザイナーの手助けをする見習いの様なものなんだけど。
「じゃあ、あとは任せるわね。三日間、だったかしら」
「うん。予定ではそれで終わり。そのころに迎えに来てくれたらいいよ」
「ほんなら、うちらは情報収集に勤しんでおくからな」
そう言い残して、アンミィとサナティスは輝く新車で去っていく。ここからは別行動だ。再会したときに、金になるか実力アップに繋がる話を持ってきてくれることを祈ろう。
手を振って見送り、ユートに案内されて街を進んでいく。
ホテルのような建物があったり、レストランやバーがあったり。所々に建つ一軒家にしても、それら全てが一棟貸しの宿となっている。受付は街の入口にあって、既にチェックインは終えてきた。
「今回は水着の撮影ね。戦闘シーンもあるから、気をつけるように」
「怪我を?」
「ポロリを」
私は胸を張って、自慢のプロポーションを見せつけるようにした。まぁ、野暮ったいジャージ姿じゃ、その威厳も感じられないのだけど。
「私服にはなるべく文句を言うつもりはないんだけど、流石にもう少しお洒落をしたら? 撮影に使った衣装とか、貰ってるんでしょ?」
「貰ってるけど、汚したくないもん」
「華やかな衣装で戦ってこそのモデルでしょうが」
ぐうの音も出ない。
「で、でもお洗濯とか大変だよ?」
「事務所のクリーニング施設なら無料」
そう言えば、そんなところもあったっけ。都会に抵抗感があって、寄り付かなかった弊害か。
「でも、そんな姿で街を歩いたら目立っちゃうし」
「モデルなんだから当たり前」
目立ってなんぼの仕事ですよねー。
「……ジャージの仕事とか、ありません?」
「オフを仕事に持ち込まないの」
ずっとオフでいられたら楽なのだけれど、そう入ってはいられないタイミングに来ているのかもなぁ。私ももう、研修期間が終わってモンスター狩りデビューも果たしたのだし、本格的にモデル業に力を入れるのもいいだろう。
スマートフォンを取り出して、アンミィにメッセージを送る。
「決めた。自分で衣装を獲得して、先ずはそれを着て歩く」
「お、本格的なデビュー戦というわけだね。どんなテーマの衣装にする? カジュアルなパーカーとか、今結構ブームらしいよ」
確かに、流行を追うのもいいだろう。けれど、ここは自分を一気に変えるチャンスでもあるのだ。野暮ったいジャージからのレボリューション。それを果たすために、私は――。
「いや、いっそドレスにしてみようかと」
「……神主の一族というこの世界の人間におけるナンバーワンVIPがドレスを着たら、それはもう、社交界デビューなのでは?」
……あれ、別の意味で話題になる?




