3.ハウススモーキー ②
アンミィのスキルは『スイッチ』という。
私がスマートウォッチを操作して武器を切り替えたのに対し、『スイッチ』のスキルを持つ彼女は、自分の意思だけでスマートフォンから武器を取り出し、自由に入れ替えることができる。
サナティスのスキルは『行動範囲拡大』という。
空を飛ぶこともできるし、水の上をスケートを滑るように移動することだってできる。もちろん、水の中でだって活動可能だ。
それに対して私の能力は、モンスターに効果が表れなければ、ただただ左目が黄色のオッドアイ。というだけ。
「ふっ。私の真価は、もっと強い奴と戦うことで発揮されるのだ!」
自慢の艷やかな髪を後頭部でまとめて、ポニーテールを棚引かせながら魔法を発動し続ける。
ハウススモーキーを倒し始めて、どのくらい経ったのだろう。アイテムがドロップしたときには、スマートフォンから通知のメロディが流れるはずなのだけれど……。
「……できれば、多数を一撃で葬り去るようなスキルが欲しかった」
意外と、強力なモンスターを狩る機会ってないんだよね。おまけに私は、まだまだルーキーなのだし。
「アンミィ、ドロップしたー?」
ハウススモーキーからは攻撃してこないのをいいことに、私は攻撃の手を止めてアンミィに向かって声を張り上げた。
「まだー。なんや、渋いなぁ。これなら一軒でも手に入ったら御の字とちゃう?」
「でも、なるべく良い家が欲しいよね!」
「二人ともー。できれば浄化設備やら発電設備やらを備えたものを狙いなさいよー。後付は結構、お金がかかるわよ」
所謂、ダーマ粒子を活用して発電したり、汚物を浄化したりという機能を備えた家だ。その手の家を買うとなったら、目ん玉飛び出るくらいお金がかかるし、設備だけだってなかなかのもの。
ローンと言う選択肢もないわけじゃないから、最悪買うのも手なのだけど……。
「まだまだ、諦めるほど老け込んでないからね」
そう意気込みを口にして、私は再びハウススモーキーと向き合った。
私のスキル『魅了』には、もう一つ強力な能力が備わっている。それは、魅了状態の敵に対してウィンクをすれば、ドロップが確定になるというものだ。
だからこそ、魅了が効いて直後に一撃で倒されてしまうハウススモーキーとは相性が悪い。
魔法発動によって魅了が効果を発揮した瞬間に、攻撃が命中するまでの間に、ウィンクをしてドロップを確定にしないとならない。
私は決意を新たに魔法陣を描く。
「今――、ぎゃぁぁぁっ!? 水が目に入ったんだけどぉぉぉっ!?」
魔法によって巻き上げられた川の水による攻撃!
畜生。これがミカンの皮の汁だったら大変なことになっていたぜ。と、端から見たら恥ずかしいほどに頭を振るっていたことをなかったことにするように、私は神妙な顔をした。
「リルー、サングラスでもしておけばええんやないの?」
「私の恥ずかしい姿をみないでよ!」
そもそも、サングラスなどで目を塞いでしまうと、魅了すらも効果がなくなってしまう。そのせいか、目が良いのが自慢なのだ。
気を取り直してもう一度トライ。息を整え、タイミングを頭に思い浮かべる。魔法を発動して、……今だっ!
「……あれ、ドロップしない?」
おかしいな。確かにウィンクをした筈なのに、ドロップを示すメロディが流れない。
「もしかして、目の前の魔法陣が邪魔になっているんじゃないかしら」
私を見守っていたサナティスからのアドバイス。
「……魔法陣からのひょっこりウィンクって、そんな一発芸を私にしろと?」
「……家を手に入れるためなら、解るわよね?」
私はこの日、クールで美しいという自身の築き上げたモデル像を、自らの手で打ち砕いた。




