2.ハウススモーキー ①
川の上を漂うように、人のような姿に固まった煙。見た目はずんぐりむっくりとした力士のようで、その構えはおそらく……。
「あれ、不知火型だっけ?」
「そうね。カラトなら詳しいのだけど、多分、あれは不知火型ね」
そうしたポージングで、川の上を漂う煙はなかなかシュールだ。
「リルの家では、神事で相撲を取るんやっけ?」
「そうだね。毎年春になると、各地の猛者が集まって取組をして、それをヤノタ様が見るって感じ」
今は冬だから、今頃は選抜するための取組をしている頃だろう。
「それより、寒いねぇ。川だから、底冷えってやつ?」
「リルは身体に気をつけなさいよ。風でも引いてモデルの仕事に穴を空けたら収入が減るのだから」
「そうなったら、アンミィに動画の配信ペースを早めてもらおう」
「そんなに簡単にクリアできるレトロゲーム、ウチはやってへんねん」
ノーヒントで鬼畜ゲームに突撃するのが売りなのだ。モンスターからドロップするのは、日本にあったものが多く参照されている。ゆえに、ゲームも然り。
「じゃあ、サクッと倒しちゃって良い感じの家を集めるしかないね。とりあえず、手分けして倒していこうか」
私の声に二人は頷いて、それぞれの方向へ散っていく。私は先ず、周囲を見回した。
森に囲まれていて、上流である山までは、まだまだ距離がある。石で埋め尽くされた河原は歩きにくいが、平坦なのは救いだろう。
川の水深は、そこまで深くなさそうだ。実際に入るとなると、それこそ風邪を引いてしまうだろう。遠距離武器で攻撃するのが得策、かな。
そうすると、魅力の出番はあまりなさそうだ。
動きやすさを重視したジャージとスニーカーを濡らさないように気を付けながら、私は川辺りに立って弓を構える。
さぁて、ハウススモーキーはまだ未体験のモンスターだ。どれくらい攻撃を与えれば、倒れてくれるかなっと。
放たれた弓は、その頭部を通過した。ヘッドショットは動物型のモンスターなら比較的一撃で倒すこともある攻撃なのだけど――。
「さすが煙。手応えがない」
弾かれるわけでもなく、ただ通過していく矢。ダメージを与えているかどうかも分からない。
そもそもモンスターは一般的な生物ではなく、ダーマ粒子というものの集合体なのだそう。だから普通の生物のように切っても切断されたり、血が出たりはしない。ただ、ダメージを蓄積していって、その身体を崩壊させるしかないのだ。
「動物型のモンスターなら、もう少し反応を見せるんだけどなぁ」
吠えたり、表情を変えたり。そんなリアクションから、ダメージを与えているかどうかを予測する。それがモンスターとの戦い方。
なのに、ハウススモーキーはゆっくりとどちらに身体の前面を向けて、ゆっくり近寄ってくるだけ。
もう一度、矢を射出する。
反応はない。
「もしかして、魔法を使えってこと?」
離れた場所にいるアンミィと、モンスター狩りに慣れたサナティスを見る。……さすが、ここの情報を得た人物と年の功だ。
「それ、真っ先に言うことじゃないの?」
と文句を垂れながらも、道中で無駄話をしていたのは、主に私のせいなんだなぁ。
プリンは滑らかで柔らかいものよりも、硬くて気泡が浮いているようなものの方が美味しいとか、とんかつはヒレよりもロースの脂身を味わいたいとか。好きなように好きなものの話をしていたのを憶えている。
むしろ、それしか憶えてない。
「とんかつにソースをかけずに食べるのを、変わってるとか言いやがって……」
そんな、ちょっとイラッとしたことを呟きながら、私は腕に着けたスマートウォッチを操作して弓矢をスマートフォンに格納する。そして、杖を取り出した。
こういったものは、すべてダーマ粒子のお陰だという。
それは、存在する全てのものを構成する粒子であり、神様はそれを操作する力を持っている。神が与え給うたスマートフォンも、それを操作できる端末、みたいたところか。
だから、スマートフォンで買ったもの現実に出現させられるし、こうして仕舞うことも取り出すことも出来る。
手にした杖にもある細工がなされていて、それは魔法を使う上での最低条件だ。
杖の先端にはダーマ粒子発生装置が取り付けられている。なので、杖を振って魔法陣のように空中や地面に特定のマークを描けはば、魔法が発動するって仕組みというわけ。
「とんかつはっ、ほんのり感じる塩コショウの味が最高なんだからーっ!」
魂の叫びを発しながら、私はマークを描いて炎の玉を出現させる。それが、一直線にハウススモーキーに飛んでいく最中――。
ハウススモーキー、ピタリと動きを留めていた。
「当たる前に魅了が効くのかよっ!」
しかも一撃で倒せたという。ほんと、使い所が難しい、強力なスキルだよなぁ。




