10.ドレスフラワー
ドレスフラワーは、まるでドレスを身にまとったかのように見える花のモンスターだ。
薔薇を逆さまにして、蔓が丸まってできた頭部がある。雪だるまのようなイメージだろうか。それがふわふわと、浮遊するように花畑を漂っている。
それを見つけたのは、私達である。キャンプ場に滞在して三日目。サナティスの特訓により、カレーライスの調理も朝飯前になったころだった。
「先ずは、リルの魅了をかけて確定ドロップにすること。どのくらいで倒れるからまだ分からないから、なるべく威力の低い攻撃を心掛けたほうがいいわね」
サナティスのアドバイスを聞いて、私はスマートフォンを操作する。
武器にはそれぞれ攻撃力というパラメーターが存在しているため、なるべく低いものを選んでブックマーク。そうすれば、スマートウォッチの方で操作をして装備をすることができる仕組みだ。
この辺りの花は背丈が高いものだったのが幸いしたのか、まだドレスフラワーは私達に気が付いていない。季節外れのひまわりだって、私達に注目なんかしていない。
花をかき分けて注意深く接近し、私は自分の存在をアピールするように、浮遊するドレスフラワーの前へと躍り出た。
「いえーい!」
ファーストコンタクトで魅了してくれれば楽であったけれど、このモンスターはそうはいかなかった。
こちらを見ているのだろうか。蔓の隙間が目のようになっているのだろうか。そのぽっかりと間漆黒の穴が、こちらをとらえた瞬間――。
「うわっと!?」
大量の粒がその穴から飛び出してきた!
「あ、あれはまさか!?」
「知っているの、アンミィ!?」
端から見ていた二人の会話。
「あれはシリカゲル。まさか、ドレスフラワーはドライフラワーだったなんて」
そんな馬鹿な。
「いや、だからって自分を乾燥させたシリカゲルを吐き出して、何がしたいっていうの?」
「戦闘態勢に移行したんやないかな。ほら、乾燥したまんまやと戦闘力がないから、シリカゲルを吐き出して水分を取り込んでいるんや」
そんな馬鹿な。……と思いつつも、ちょっと花びらに艶のようなものが出てきた気もする。
「リル、触れないように気ぃつけや! 潤いが奪われるかもしれへんで!」
「いや、めっちゃ浴びてるんですけど」
あ、指先にささくれができた。ドレスフラワー許すまじ。せめて、せめて顔だけは守らないと!
「そうか、そうやったんや。あれは、相手を乾燥させてドレスを似合わなくさせる悪魔の攻撃なんや! だから、世の女性は男を討伐に向かわせる!」
「な、なんだってぇっ!?」
サナティスの叫びが、花畑に響き渡った。
「……そうやって乾燥させてくるんならっ! サナさん、少しこいつの注意を引きつけて!」
「なんで私なのよっ! 私は、あなた達よりも乾燥が大敵なのよ!」
悲痛な叫びを受けて、対応をアンミィに任せた。
「てか、こいつどんだけシリカゲルを吐き出すんや? この花畑を乾燥させて、ドライフラワーにして売り出すんか?」
「そういうアンミィは、こういうドライフラワーを買ったりするの?」
「ミイラを家に飾ってもなぁ」
ドライフラワーに謝れよ。
なんて、突っ込みをしている間に準備は完了だ。
「くらえ、必殺の魔法。ウォーターシュプール!」
魔法陣からの噴き出す水の流れは、またたく間にドレスフラワーを包み込んでいく。するとどうだろう。水の流れが収まったときには、どこか満足そうに佇み、一切の動きを止めていたのである。
「潤いは、世界を救う」
「格好つける理由がどこにあんねん」
そんなこんなで、無事にドレスをゲットである。




