プロローグ
この世界には、一人の神様がいる。
神様を一人、なんて表すことに違和感があるかもしれないけれど、実際に会って、会話をした私には、彼のことを表す際にどうしても、一人と数えてしまいたくなってしまう。
私の家は代々、その神様に仕える家で、代弁者としての役割も担っている。この度、めでたく兄が代を受け継ぐこととなって、私もついでにと、彼の部屋を訪れることとなった。
特別な日――と言っても、彼の出身である日本の記念日など日にしか入ることの出来ない彼の部屋。私たちの暮らす大きな家の片隅にあって、間取り的にはリゾートホテルみたいな、ちょっと豪華な部屋だったと記憶している。
神聖な場に行くことに、若干緊張しているのだろうか。心の中も、なんだか硬くなっている気がする。
「入りますよー」
兄がドアの向こうに声をかけ、ドアノブを回す。
そこで待っていたのは――。
「リルちゃん萌え」
私の名前を呼びながら、私が写ったポスターを拝む一人の青年だった。
……軽い気持ちでモデルを始めたら、とことんまで神様に推されている件。
「ヤノタ様ー。本人が居るんですから、ポスターじゃなくてこっちを見てくださいよ」
「いや、見れない。眩しい。幼い頃からその鱗片があったけど、もうだめ。視界に入れたら浄化される」
あんたは邪神かよ。
まぁ、邪神ではあるのかな? もっと位の高い神様命じられて、あるゲームをしているらしいし。
そのゲームとは、誰が一番陣地を拡大できるのか、というもの。広い宇宙を進むごとに用意された画用紙が黒く染まっていき、すべて塗りつぶせたらゴールなわけ。それを十三人で競っているそうなのだけど……。
「リルの可愛さ、美しさは解かりますけど、一応は代替わりなので、ちゃんと言祝をお願いします」
「あー、カラトももうそんな歳か。何代目だっけ?」
「十七代目です」
壁にかけられた画用紙を目を移す。半分くらい、と言ったところかな。神様がこの世界に現れてから、それだけの年月が経った、ということでもある。
当時の国王と、生活を豊かにする計画とを引き換えにした世界改変。それによって、私達の世界は神々の遊び場のような様相へと転じた。
モンスターが現れ、それを倒せば様々な物が手にはいる。日本にありふれた娯楽のようなものから、生活必需品、武器や防具、果ては家やロケット、惑星まで。
つまり、モンスターを倒して住むことのできる惑星を増やし、画用紙を染め上げていこう。って訳だね。
「と言うことは、十七代で折り返しか。はぁ、染め上げたら願いが叶うっていうから、一生リルたんを存在させられるようにしたかった」
「モンスターから不老不死の薬とか手に入らないんです?」
「確かにドロップするけど……。あれは強いからなぁ。リルたんにそんな危険な真似はしてほしくないなぁ」
「でも私も十七だし、旅に出ると思いますよ」
「あぁ、老後の資金稼ぎ。今のうちに蓄えておかなきゃだもんね」
そんな世界のため、現王国は治安維持の統治をメインとしていて、社会保障的な仕事は一切していない。すべて、自己責任で賄われてしまっている。
六歳から十五歳までの教育期間で知識を身に着け、十六歳で実習。そして、社会の荒波に放り出される。私も、ついにそんな歳になったってこと。
「……ヤノタ様が養ってくれたら、早いんですけどね」
「養ってあげたい。とても養ってあげたい」
血の涙を出されると、流石に引いちゃうからね?
「まぁ、リルは魅了のレアスキルを得られたし、何とかやっていけますよ。それより、言祝を」
「お兄ちゃんは冷静だなぁ。私が心配じゃないの?」
「心配に決まってるだろ。だから、そのための対策もしたからな」
「ほう、カラトも手を打ったか。……あ、いや、もって言っても俺は何もしてないよ? 個人を特別扱い出来ないし」
「写真集を買い漁るのは、特別扱いではない?」
「……」
黙らないでよ。
「汝、その存在は我が物なり。発する言葉は我が物なり」
「はっ。ありがたき幸せ」
あっさり終わらせやがった。
「ではついでに、リルにも言葉を授けよう」
「いや、ヤノタ神、それは特別扱いに過ぎるので――」
「このゲームを早く終わらせて、俺と一緒に暮らそう!」
「給料三ヶ月分の指輪をくれたら考えます」
「……神様に給料ない。自分で作り出しちゃうから。……カラト、ちょうだい?」
「嫌ですよ。なんで妹をやるために、給料をやらなきゃならないのです」
「俺の言葉はお前の言葉だろ!」
「そういう戯言は聞く気ないから」
「なんだとー!?」
そんなやり取りを聞き流しながら、私はそそくさと部屋を出た。せっかく、これから新生活が始まるのになぁ。こんな始まりって、どうなの?




