平民になりたい男爵と、阻止したい国王
・ヴァルキリー男爵夫妻
家名はカントリーサイド。
一族揃って権力欲が無く、平民になりたがっている。
約100年前に先祖の功績で爵位を得たが……。
そこは王宮、謁見の間。
人を見下ろせる高さに玉座二つと、玉座の前に二十段ほどの階段、そして玉座から入り口の大扉まで幅10mほどの紫色のカーペット。
カーペットを踏まない位置に、貴族各家当主(及び代理)が並んでいた。玉座に近い程に高位が、入り口に近い程に低位が。
中央に用意された椅子が二つ、座るのはヴァルキリー男爵と、その夫人。
本来ならば椅子が用意されることはなく、王族を前に跪くものだが・・・。
国王と正室が玉座から彼らを見下ろ……
……しておらず、階段の前で男爵夫妻に対し、土下座していた。
貴族家当主たちの前で王国のトップ二人が男爵夫妻に頭を垂れる、これまた本来ならば決してあってはならないことだった。
方や、顔をほころばせている、男爵夫妻。
方や、まるで死刑判決を前にしているような面持ちの、国王夫妻。
「いやぁ、喜ばしい事ですね、両陛下。私たちの爵位放棄を認めて下さるとh……」
「いや待て男爵!それを認めてはおらぬ!!」
男爵当主が喜色と、少しばかりの怒気を含めた声色でそう言えば、言い終わる前に国王がそれを否定した。
「それはおかしな話ですね、ねぇ王后陛下?」
「いえ……その……」
国王の否定に対し夫人が王妃に確認を入れ、王妃は顔面中に冷や汗を滲ませていた。
王后に施されていたのは、隣国から取り寄せた耐水性の高い化粧品なのだが、そろそろ落ちそうだ。
『得るのは百年、失うは一瞬』
この国に伝わる言葉だ。何に対してもそうだが、爵位に関してはこれほど当て嵌まる言葉も他に無いだろう。
故に貴族は何を犠牲にしようとも爵位を維持する事に全てを尽くす。
だからこそ、ヴァルキリー男爵とその一族の異常さが際立つ。
話を戻すが、事は1週間前、そして100年前に遡る。




