『ありがとう』の花
動物霊園の朝は、驚くほど静かだ。
鈴木は毎日、焼かれた骨を集め、灰を整え、骨壺を並べる。
どれも小さく、あたたかさを失っていて、けれど不思議と穏やかな香りがする。
彼の仕事は、骨を「花」に変えることだった。
――といっても、もちろん比喩ではない。
灰の中に宿った『ありがとう』が多ければ多いほど、翌朝そこに小さな花が咲くのだ。
ある日は白い花。
別の日は紫の花。
形は決まっていない。
犬なら風のようにひらひらと、猫ならしなやかに。
ハムスターは丸く、鳥は空色に。
彼はそれを「骨の花束」と呼んで、遺族の手にそっと渡す。
「この子の『ありがとう』です」と言うと、たいていの人は泣きながら微笑んだ。
けれど、ある日ひとつだけ、花の咲かない骨壺があった。
中には、老犬の骨。
持ってきた老人は、無言で線香を立て、ただぽつりと呟いた。
「……あいつには、もっと怒鳴らずにいてやりたかった」
その夜、鈴木は仕事場に戻り、静かに骨壺の前で手を合わせた。
「……あなたの飼い主さん、ちゃんと後悔してますよ」
灰の中に手をかざすと、指先に温もりが灯った。
―――
翌朝。
小さな青い花が咲いていた。
けれどそれは、今までに見たことのない形をしていた。
まるで――空に向かって、尾を振る犬のように。
老人が再び霊園を訪れた時、その花を見て、息をのんだ。
「……こいつ、俺を許してくれたのか」
鈴木は微笑んだ。
「いいえ。きっと、まだ一緒に歩いているんですよ」
風が吹いた。
花が小さく揺れた。
まるで、「そうだ」と言うように。




