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『ありがとう』の花

掲載日:2025/11/09



動物霊園の朝は、驚くほど静かだ。


鈴木は毎日、焼かれた骨を集め、灰を整え、骨壺を並べる。


どれも小さく、あたたかさを失っていて、けれど不思議と穏やかな香りがする。


彼の仕事は、骨を「花」に変えることだった。


――といっても、もちろん比喩ではない。


灰の中に宿った『ありがとう』が多ければ多いほど、翌朝そこに小さな花が咲くのだ。


ある日は白い花。

別の日は紫の花。

形は決まっていない。


犬なら風のようにひらひらと、猫ならしなやかに。

ハムスターは丸く、鳥は空色に。


彼はそれを「骨の花束」と呼んで、遺族の手にそっと渡す。


「この子の『ありがとう』です」と言うと、たいていの人は泣きながら微笑んだ。


けれど、ある日ひとつだけ、花の咲かない骨壺があった。


中には、老犬の骨。

持ってきた老人は、無言で線香を立て、ただぽつりと呟いた。


「……あいつには、もっと怒鳴らずにいてやりたかった」


その夜、鈴木は仕事場に戻り、静かに骨壺の前で手を合わせた。


「……あなたの飼い主さん、ちゃんと後悔してますよ」


灰の中に手をかざすと、指先に温もりが灯った。



―――

翌朝。


小さな青い花が咲いていた。

けれどそれは、今までに見たことのない形をしていた。



まるで――空に向かって、尾を振る犬のように。


老人が再び霊園を訪れた時、その花を見て、息をのんだ。


「……こいつ、俺を許してくれたのか」


鈴木は微笑んだ。


「いいえ。きっと、まだ一緒に歩いているんですよ」


風が吹いた。

花が小さく揺れた。

まるで、「そうだ」と言うように。




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