6. 街へ行こう(4)
無事に道具箱を手に入れた後、ベラ姉が私にと糸と布を買ってくれた。私のお金は全て道具箱に使ってしまって、それでとても満足していたけれど、確かに糸と布がないと使えない。こちらもシェラフさんが他よりもかなり安く売ってくれた。
そんなことをしていると、先生とリックたちが合流してきた。私の腕の中にある道具箱を見て、先生が目を見張っている。そしてベラ姉から話を聞くと頭を下げ始めたから、きっと本当に高いものなのだ……。
でも先生もそれを返しなさい、とは言わないで、頑張るのよ、とだけ言ってくれた。その言葉に私はしっかりとうなずいた。
そして先生がシェラフさんから昨日の代金を受け取り、次の作品をつくるための糸と布を買ったら今回の目的は達成だ。もう家へと帰る時間になってしまった。
「まだいろんなところ、見てみたかったです」
「また今度来た時に見て回ればいいわ。
アンも手伝ってくれるのなら、きっとまたすぐに来ることになるから」
「てつだいます!」
「僕も!」
元気よく手を挙げる私とリックにみんなが笑っていて、優しく頭を撫でてくれた。
帰りは再び4人で馬車の中へ。そこで先に馬車に載せていたというリックが買ったものが目に入った。
「それ、木剣?」
「そう!
ジャン兄につれて行ってもらったところで、すぐにこれがいいって思って!」
「リックは本当に剣が好きなんだね。
気に入ったものを見つけられたようで良かった」
「うん!
もっと強くなってアンたちをまもるんだ!」
「頼もしい。
まったく、ルークも少しは見習わないと」
「うう……」
ルーク兄が優しくリックを見てそう言う。ルーク兄はあまり剣が好きじゃないって言っていたけれど、きっと嫌いでもない。良かったね、という言葉は気持ちがこもっていた。ロット姉の言葉にはからかいが含まれていたけれど。ほんとう、ロット姉とルーク兄も中がいいよね。
「ねえ、リック。
それ見せてもらっていい?」
「うん」
リックが大切そうに持っている木剣を私へと渡してくれる。それは見た目通り重い。けれど、木目がとてもきれい。じっと剣を見ていると、横からリックが剣を取る。
「い、いくらアンでも、これはあげられないよ」
「そんなこと思ってないよ!」
「ならいいけれど……。
アンはなにを買ったの?」
「これ!」
リックが素敵なものを見つけたように、私も見つけたのだ。とっても素敵なものを。これ! とリックの目の前に大切に持っていた道具箱を差し出すと、リックがまじまじとそれを見つめる。
「きれいだね……。
それに、なつかしい?」
「リックもそう思う?
ひとめでこれ! ってきめたの」
「うん、きっと僕でもこれをえらぶかな」
「リックはほかのものを見ていないのに?」
「うん」
「だめだよ!
これは私のだから、リックにもあげられない!」
大切にそっと、でも急いでリックの手から道具箱を取り上げる。きっと私とリックの好みは似ているから、リックも欲しくなってしまうかもしれないもの。
「とらないもん……」
そんな私たちの様子を見守っていたロット姉とルーク兄が途端に笑いだした。どうして急に笑い出したのだろう、と首を傾げる。
「もう本当、二人ってそっくり!」
「うんうん。
そのやり取り、さっきアンとリック逆にしてやっていたよね?」
2人の言葉に、思わずリックと顔を見合わせる。確かにそうかも。でも。
「「だってふたごだもん」」
それは決して切れない絆。生まれたときからずっとそばにいた片割れ。きっとリックだってそう思っている。そんな私たちの様子に、ロット姉とルーク兄はまた笑う。二人だってそっくりだと思う。
「ロット姉とルーク兄はなにをえらんだの?」
そっか、この中で一人別のところに行っていたリックは2人が何を買ったのか知らないんだ。ロット姉とルーク兄はそれぞれ選んだ本を取り出して、リックへと見せていた。いいよって言ってくれたら、読み終わった後に貸してもらおうかな。
そんな会話をしながら、疲れたのかいつの間にか眠ってしまっていたよう。家に着いたよ、とゆすられたことで、ようやく馬車が止まっていたことに気がついた。
***
家に帰ってきてからは、私とリックが一緒に過ごす時間が徐々に減ってきていた。私は刺繍、リックは剣に、それぞれ時間をかけ始めたからだ。まだまだきれいに刺繍できないけれど、最初にリボンに刺繍したものより少しだけきれいにできるようになってきた。
目標は売る用の服に刺繍する許可をもらうこと。それとは別で、空いた時間にはどんな模様を刺繍したいか考えるのも楽しい。それを剣をふるうリックを見ながら考えることも日課になりつつあった。
ジャン兄はたまに村の人に呼ばれて狩りの応援に行くことはあるけれど、その回数は多くない。ここぞとばかりにリックがジャン兄に練習をせがんでいるのだ。そこにたまにルーク兄が混ざる日もあった。それをロット姉と一緒に見学することも楽しみの一つとなっていた。