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3. 街へ行こう(1)

「アン、リック、こっちへいらっしゃい!」


 今日は皆家にいる日みたいだけど、街にものを持ち込む日が近いみたいでどこかバタバタとしていた。家からは布物を、ジャン兄は以前狩りでとってきた獣の素材を売りに行くことになっている。当日は近所の方から馬車も借りてきて、詰め込むみたい。前回街に行ったときは私たちは幼いからとお留守番だったから、街で何をしているかはよくわからないけれど。


 そんな準備に追われているある日、ベラ姉が珍しく弾んだ声で二人で遊んでいた私たちを呼びに来た。


「どうしたの、ベラ姉」


「いそがしいんだよね?」


「ふふ、素敵なプレゼントがあるの。

 行きましょう」


 そういってベラ姉に連れられて部屋に入ると、すでにほかの皆も集まっていた。と言ってもジャン兄はロット姉に腕をつかまれているから、無理に連れてこられたのだろう。その手には何か持っているし……。


「それで、どうしたの?

 急にロット姉にここに来て、とだけ言われたんだけれど」


「実はね、アンとリックの服が完成したの」


「服?

 それでどうして俺まで?」


「いいから、いいから」


 ちょっと待っていて、とロット姉がどこかへ行く。先生は私たちの様子をただほほ笑んで見守っていた。


「じゃーん!

どう?

 私としては過去最高の出来なんだけれど」


 そう言ってロット姉が持ってきたのは、先日ベラ姉がもらってきた布で作られた二着の服。私とリックの服だ。


「わあ、素敵……」


「それ、どうしたの?」


 布だけでも元から素敵だったのだけれど、ところどころに精緻な刺繍が施されている。私のはワンピース、リックのはベストとズボン。刺繍はお揃いみたいだ。


「ロットが頑張って服を作ってくれて、私と先生で刺繍してみたの。

 せっかくだから、とっておきの一枚を、って」


「二人とも、着てみたらどう?」


「う、うん。

 ……本当にいいの?」


 きっとこれを店に持ち込めば高く売れる。それなのに、私たちが着てしまっていいんだろうか。そう不安になり尋ねると、優しい笑顔でうなずかれてしまった。リックには行こう、と手を引かれて、私たちは着替えに行った。


 実際に腕を通してみても、やっぱり今までとは違う。服もかわいいし、何よりもこれをロット姉、ベラ姉、先生がつくってくれたということが嬉しかった。横を見るとリックも嬉しそうにしている。


「着替えてきました」


「どう、ですか?」


「まあ、素敵じゃない」

「大きさもぴったりみたいで良かった」


 褒められてすっかり嬉しくなっているところで、我慢の限界だったのかジャン兄が声を上げた。


「服はいいが、どうして俺たちまでここに?」


「もう、そう急がないでよ。

 実はね、服を作って余った布でリボンをみんなの分作ったのよ。

 アンがね、初めて刺繍をしたの」


 そう言ってベラ姉がみんなにリボンを手渡していく。ほらここ、と私が刺繍したところを言いながら渡すの、恥ずかしい……。ベラ姉がしてくれたところに比べたら、全然だってわかっているから。


「アンが?

 すごいじゃないか」


「わあ、ありがとう!

 大切にするね」


「リックはほら、ここに結べばいいわ。

 アンもね」


 そう言ってベラ姉が私とリックの首元にリボンを結んでくれた。ロット姉は髪につけることにしたみたい。ジャン兄とルーク兄は手首に巻いてくれている。初めてのお揃い。それがとても嬉しかった。


「アンには刺繍の才能があるかもしれないわね。

 この歳で、初めてでここまでできていれば十分すごいわ」


「……、ベラ姉みたいになれるかな?」


「私?

 きっとすぐに追い越されてしまうわよ」


「そうだ、今回はアンとリックも一緒に街に行かない?

せっかく素敵な服も手に入ったのだから」


「街に行ってもいいの⁉」


 私よりも先に反応したのはリック。その目は輝いている。でも私も行ってみたかったから、本当に行けるのなら嬉しいけれど。


「ええ。

 でも私かベラ、ジャンの傍から絶対に離れないと約束できるなら、よ。

 街は人が多いからはぐれてしまうかもしれないの」


「できます!

 ね、アン」


「できます」


「あら、いいお返事。

 そうしたら、今回はみんなで行きましょうか」


 本当に街に行ける! 今回もお留守番だと思っていたから嬉しい。行くための準備も手伝ってもらうわよ、という先生の言葉にも元気に返事をすると、良かったわね、とベラ姉に頭を撫でられた。ちなみにリックはジャン兄に撫でられていた。最近剣を教えてもらっているからか、リックとジャン兄の距離が縮まっている気がする。やっぱり、ちょっとだけ寂しいや。


***

「忘れ物はないかしら」


「大丈夫だと思います」


「それじゃあ、4人は馬車に乗り込んで。

 ジャンは付き添いよろしくね」


 馬車のほとんどは荷物が占めている。その中のわずかな隙間に私とリック、ロット姉とルーク兄が乗り込んだ。ベラ姉と先生は御者席、ジャン兄が馬に乗っている。ここから街までは大体半日。今日は街に着いたらお店に持ち込んで、街で一泊して明日お金を受け取りつつ必要なものを購入して帰ってくる、という予定らしい。


 とっておきの服は街が近づいたら着よう、ということで今はまだいつもの服。だけど、もう着るのが楽しみだ。そして、街も。


ルーク兄やロット姉に相手をしてもらいながら、馬車は無事に街へたどりついた。いそいそと着替えを済ませて、馬車から降りると、まだ街のはずれだというのにすでにいつもよりも多くの人でにぎわっている。これは油断すると本当に迷子になる。そう思ってベラ姉の手をぎゅっと握ると、しっかりとにぎりかえしてくれた。


「そしたらまずは売りに行きましょうか。

 ジャン、あなたの方は任せて大丈夫?」


「ああ」


「リック、あなたもジャンの方についていく?」


「いいのですか?」


「ええ、もちろん。

 そうしたら、私とベラ、ロットとアンが服飾店に、ジャンとルーク、リックは素材店の方にお願いね。

 また夕方に、いつものところで落ち合いましょう」


 先生が指示を終えると、さっそく分かれて行動することに。私も片手はベラ姉とつなぎつつ、持てる分だけ荷物をもって先生後をついていった。


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