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50:3日目 英雄の彫像

 ランドロスがジーナの眉間に狙いを定めたその時――爆音と共に小屋の扉が吹き飛んだ。


「なにっ⁉︎」


 ジーナとランドロスが同時に眼を向ける。


 吹き飛んだ扉と共に犠牲となった剥製達に詰められていた無数の羽毛が舞っていた。

 白い羽毛の層から現れたのは、黄金の鎧を纏った重騎士の姿だった。


「……ハル?」


 侵入者に反応したランドロスが即座に強弓を放つが、堅固な盾で空しく防がれる。

 黄金騎士は老人の攻撃を意に介さず、ただ歩みを進める。

 弓使いが重装騎士に距離を詰められて、できる事は何もない――しかし老獪な狩人はそう思わせていただけだった。

 老狩人の指先に番えられたのは、とっておきの爆裂矢だった。無論こんな距離で放たれれば、この小屋ごと全てが吹き飛ぶ。ジーナも、ハルも、ランドロスと真実も、すべて灰に帰す。


 その未来を断ち切るように、ジーナは最後の力を振り絞ることにした。


「あの馬鹿ナイトが……余計なことをしやがって」


 吐き捨てる言葉とは裏腹に、ジーナは笑っていた。


 腕の肉が千切れるのも構わず、強引に矢の磔から逃れると、震える指でポケットの魔鍵をつかむ。ここで取り落としたらもう後がない。

 

 「鍵師ジーナが、魔鍵に命ずる。王家との契約に基づき、その力を示せ」


 ジーナが詠唱を始めた時、ランドロスは爆裂矢の射出寸前だった。

 右手におさめた魔鍵が、信じられない程重く感じらる。それでもジーナは不格好に鍵を掲げた。


「この世の理を封ぜよ――“封鎖“(シール)


 禁忌の力が解放され、ランドロスの身体は時間が止まったかのように硬直した。それは雄々しく弓を構えた老英雄の彫像のようだった。

 

 危機が去った事を察したハルはジーナに駆け寄ると、慎重な手つきで矢を抜き始めた。

 

 「なんで来たんだよっ。もう相棒解消だって言っただろ」


 ハルは黙ったまま、ジーナの矢傷の処置を続けていた。


「……なんだ? ひょっとして怒ってる?」


「……ジーナさんが人の心を察することできたんですね……ええ、怒ってますね。私も言ったはずです。もっとジーナさんは自分自身を大切に扱ってほしいと」


「なんだそれ。あたしは承諾した覚えはない」


「じゃあ、私も相棒解消を承諾した覚えはないです」


 ジーナは限界だった。腹の底から笑いが込み上げてきて爆発した。これはナイト君に完全に一本取られた。傷が痛もうが笑いを止められなかった。


「よく怒ってる人の前で笑えますね」


 ハルもそう言いながら吹き出していた。


 二人はいつまでも、弓を構えたままのランドロスの足元で笑っていた。


〜〜〜


「それにしても、よくあたしの居所がわかったな」

 ジーナがランドロスの腕にロープを縛りながら尋ねた。


「これですよ」

 ハルは懐から片眼鏡を取り出して見せた。


「クリスが貸してくれました。ジーナさん、探知術石を使ったでしょ。この眼鏡で魔力解放した痕跡を追えるんですよ」


「あの少年め。そんな良いものを今まであたしに隠していたのか」


「ジーナさんに貸すと、絶対無くすか壊すからと言ってましたよ」

 ハルはさっと懐にしまい直した


「違いない。口を閉じて正解だな」

 ジーナは頷くと、ランドロスの腕をもう一度念入りに縛り上げた。

 

「……あたしがいなくなって、すぐに探しにきてくれたんだな。正直助かったよ……ありがとう」


「これに懲りたら、今後は守りのナイトを側に置いておいた方がいいですよ」


「ふん。そうさせてもらうよ」


 ハルが王都に帰るまでは共にクエストを解決していこう。そうでなければ、こいつはかえって無茶をしかねない。騎士団に返り咲くまでの限られた時間、何事もないように見張ってやらなければ――ジーナは自分の事は棚に上げてそう決めると、ランドロスの脚を強く縛り上げた。


「さあ行くぞ、ナイト君。全てにケリをつけて、街を救う時だ。道中、こいつからは、たっぷり話を聞かせてもらわないとな」



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