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4:ギルドマスター

  ソシガーナの冒険者ギルドマスターであるメイリィは、現役時代の冒険者としての技量はともかく野心に溢れた人物だった。

 しがない偵察員にすぎなかった彼女がこの街にやってきた時、すでにダンジョンは英雄たちにより攻略済みで未曽有の不景気が訪れていた。

 冒険者の誰もがこの街に見切りをつけ、ある者は立ち去り、ある者は酒場で無為に過ごしていた。

 そんな中、メイリィはうまく立ち回った。

 古参の前任者たちに媚びへつらい、時には汚れ仕事も引き受け、落ち目の冒険者ギルドの幹部として収まった。

 新たな領主として王族が赴任してきた時が彼女の転機となる。

 他の幹部達に相談することもせず、街の治安を冒険者ギルドが引き受ける契約を領主と結んだのだ。

 これにより街にあぶれた冒険者たちは一応の職を得、領主も衛兵たちに高額の給金や訓練費用を支払う必要もなくなり万事良しとなる。

 こうしてメイリィは新生冒険者ギルドのマスターとして収まり、反対派の幹部たち全員を更迭した。


 メイリィはいつも特別あつらえの黒塗りの馬車に乗って出勤する。

 馬車には金色に輝く巨大な鈴がぶら下がっており、路面を走ると威圧するかのように音をまき散らした。

 冒険者ギルドの1階ホールでだらしなくたむろしている冒険者たちは鈴の音が聞こえ始めると居住まいを正す。

 彼女はこの街の冒険者界の絶対君臨者なのだ。

 

 メイリィはホールに堂々と入場すると、軽く手を振り上げ出迎えた冒険者たちに挨拶の意を示すと階段を上がる。

 老朽化した冒険者ギルド本部の建物だが、2階の廊下の奥の扉だけは新造で黄金色に輝いていた。

 ギルドマスターはその扉を開き、豪華な執務室に入る。

 塵一つ落ちていないことを確認して満足そうな笑みを浮かべると、執務机のふかふかのソファに身を沈めた。

 メイリィが座ると執務机越しにギリギリ顔が見えるか見えないかの状態となり、赤毛のツインテールだけが揺れていた。

 そう、彼女の姿は身長は100㎝にも満たない幼子のようだった。


「もう少し椅子を高くしないとダメですわね……」

 メイリィは一生懸命手をのばすと、なんとか机の上に置いてある卓上の鈴を手に取って鳴らす。

 その鈴は馬車のものと同じ意匠のミニチュア版だった。


「おはようございます ギルドマスター」

 鈴の音を聞きつけ、おそらく三十代の精悍な執事が恭しく執務室に入ってくる。


「おはよう ミルミドン。先月の利益はどうなっていて?」

「はい 流行り病の予防ポーションの販売は順調で、金貨がなだれ込んできております」


 抜け目ないメイリィは流行り病というピンチもチャンスに変える。

 王都から支給された予防ポーションの「普及活動」を冒険者ギルドに一任するように領主に取り付けたのだ。

 ギルドはポーションに「適正な手数料」を乗せて住民へ販売する。

 しかもこのポーションは2回接種しないと効果が薄いと喧伝したため売り上げも2倍となった。


「目下の問題としては、冒険者たちも流行り病により倒れる者も多く人手が切迫しております」

「ふむ」

 当然ギルドの冒険者達には無料でポーションを2回飲ませているが、流行り病にかかってしまう者は後をたたなかった。

 この事実については「ポーションの効果で症状は軽減されている」と説明するようメイリィは指示していた。


「その代わり、本日王都より騎士団を一時追放処分となった冒険者ハル・ブラッドレイ殿がやって参ります」

「おお、そうでしたわね」

 処罰を受けた身とはいえ、この冒険者ハルはそこらの有象無象とは格が違う。

 三代にわたる騎士の家柄で英雄の血筋。

 いつか彼が王都へ返り咲く事も踏まえると、特別扱いをしておいて損はないだろう。

 精霊剣士のカリームと並んでソシガーナ冒険者ギルドの2枚看板となってもおかしくない。

 ギルドの名声が上がれば、ギルドマスターであるメイリィへの王都からの叙勲、ひいては爵位を与えられることも夢ではない。

 小さなメイリィの大きな野望は留まることを知らなかった。


「彼とはこの後、会うといたしましょう」

「かしこまりました。続きまして衛兵詰め所から連絡が入っております。昨夜ジーナが確保した殺人犯の男からやりすぎだとギルドに苦情が入っているとか」


 またジーナですか。

 メイリィはあきれたように首を振った。

 ジーナのような魔との混血は本来この街を大手を振って歩けるような立場にはない。

 領主であるジャスティン王子の計らいもあった事だが、このメイリィが配慮に配慮を重ねた結果、白金級(プラチナ)冒険者などという分不相応な位階を与えられたのではないですか。

 それでギルドマスターへの敬意のひとつでも感じられればまだ可愛げがあるのですが。

 ジーナときたら傍若無人の迷惑行為を働き、結果その後始末がわたくしの余計な仕事として降りかかってくるといいますのに……


「それと……先ほど新たなクエストが入ってきております」

「あら今クエストは渋滞中でしょ。猫探しとかつまらないクエストなら後回しにしてちょうだい」

「いえ、探すのはネコではありません。とにかくこちらをご覧ください……」


 メイリィは一読すると、これは最優先事項クエストであると決定した


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