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34:2日目 真実を追え

「このスケルトンが、キミのじいさん――英雄フォール・ブラッドレイだったって?」


「はい。この剣は間違いなく祖父の物です」

 ――それに、スケルトンのあの強さがハルには祖父のもののように思えた。


 三十年前、ソシガーナの巨大ダンジョンは魔物が溢れて暴走寸前だった。

 事態を重く見た王都は最強の騎士、フォール・ブラッドレイを派遣。選りすぐった三人の冒険者と共に迷宮の主――邪毒竜ベイモスを倒し、ダンジョンコアである宝珠を王都に持ち帰った。

 しかしフォールだけは最後の戦いで竜のブレスから仲間を守り名誉の戦死を遂げた――それが、人々に語られている英雄譚だ。

 

 この骨がフォールであるならば、なぜこんな森の片隅に埋められていたのか?


「キミはどうしたい? ナイト君」


 ハルは祖父の剣の柄をぐっと握りしめた。

 ずっと目標としていた英雄であり、誇るべき祖父でもあるフォール・ブラッドレイ。だからこそ――

「できることなら、祖父の死について、英雄隊について、真実を知りたいです。でも……」


「でもなんだよ」


 ハルが苦笑する

「でもそんな事できっこないですよね。三十年も昔の事ですし」


「それはクエストになるな」

「え?」


「ちょうどキミの目の前にどんなクエストも受けちまう女がいるんだが」

「ジーナさん……」


「やれるだけはやるさ。まあ、でもあんまり期待はするな」


 クエスト受諾

 ■英雄の骨の真相を追え

 ダンジョンで戦死したはずの英雄の骨が森で見つかった。その真実を探れ。

 報酬:なし

 発注者:ハル・ブラッドレイ


 二人は骨を元の場所へ埋め直した。

「お祖父様、少しだけ待っていてください。必ず故郷へお連れしますので」


〜〜〜


 ジーナたちが街へ戻る頃には、空には重たい雲が垂れ込めていた。何か良くないことが起きそうな、そんな空だった。

 南門をくぐり、通りに出ると女戦士のビエラと狩人のジェシーに鉢合わせた。ビエラは無くしたと言っていたビキニアーマーを着ていた。どうやらボーヤーは素直に謝って返したらしい。


「どうしたお二人さん、そんなに急いで」

「あんたが散歩に行ってる間に、イレブンさんのところに連絡があったのよ」

 ディアナを攫ったという者から手紙が届き、今日の夕刻に百万ゴートを街外れの樫の大木まで持ってこいという。

「あたしらが今から見張って、のこのこ金をとりに来た奴を捕まえるから。あんたは邪魔しないで」

 女冒険者達はそう言い残すと、いそいそと樫の木に向かっていった。


「さすがにのこのこは来ないと思うけどな」

「私たちはどうしますか?」

「そうだな。イレブンのおっさんの方を見張るか」


 二人はイレブン氏の邸宅近くの路地で時間を潰した。

 ジーナが二本の串焼き肉と、三枚の芋チップスを食べ終わる頃、邸宅から袋を抱えたイレブン氏が姿を見せた。

 

「あのおっさん、なんでホムンクルスを取り戻したいんだろうな」

「それは……」

 ハルはディアナの粗末な寝床を思い出した。彼には愛情めいた思いがないのは明らかだ。

「やはり高価なものですし、家事をしてくれないと困るから、でしょうか」

「まあ、そうだよな……」

 ジーナは路地から静かに飛び出すと、イレブン氏の跡をつける。ハルも後に続いた。

 そして、イレブン氏が門への近道である人気の無い路地に入った瞬間――背後から黒づくめの男が近づいた。棍棒のような物を手にしている。


「ジーナさん!」

「おう、まかせろ!」


 声に気がついたイレブン氏が振り向いたのと同時にジーナの黒いムチが伸び、男の腕を打つ。

 武器を取り落として焦る男を、ハルが組み伏せる。

 

「わしを襲おうとしたのか」

「この人に見覚えはありますか?」

 ハルがフードを剥ぎ取ると、若い男の顔が現れた。思わぬ冒険者の乱入に怯えている、ただの市民に見える。

「初めて見るな」


「脅迫の手紙を送ったのはお前だな」

 観念したのか若者は素直に頷いた。

「しかしホムンクルスを攫ったのはお前じゃないよな」

「当たり前だ。僕は彼女を愛していたんだ」

「ほう。ナイト君の恋敵の登場じゃないか。……というわけでイレブンさん、とりあえずその大金を持って家に帰っていいですよ。ぶっそうですから」

「とんだ迷惑だ。早くディアナを見つけてくれよ」

 イレブン氏は帰っていった。


「さて、衛兵に引き渡す前に教えてくれ。ディアナとの関係は?」

「関係ってほどじゃない……。彼女が庭掃除をしているのを見かけて、塀越しに話しかけたのがきっかけさ。そしたら彼女、とびきりの笑顔で挨拶してくれて。それから度々話かけてたんだ」

「さっき彼女を愛してるって言ってましたよね」

「そうさ……僕なんかを受け止めてくれる女性は彼女だけだ。だから何度も愛の告白をしたんだ! だけど彼女は、愛の意味を知らないって言うんだ」

 ディアナが愛の意味を知ろうと思ったきっかけはこの男の言葉だったのかもしれないな、とハルは思った。


「それでなぜ、こんな事を?」

「あいつは彼女をモノのように扱っていたんだ。前から許せなかった。今が思い知らせる好機と思った」

「だからディアナの失踪を利用して、脅迫を捏造してイレブン氏をおびき出した?」

「そうだ。邪魔しやがって」

 ハルはため息をついた。

「君は間違ってるよ。君がディアナを愛しているなら失踪を知った君がすべきは彼女を探すか、無事を祈る事だった。それを利用してイレブン氏を叩きのめす事じゃない」

「……」


 やがて、ジーナが呼んだ街の衛兵達がぞろぞろとやってきて男を連行していった。


「さて、この後はカリームの見舞いに行くか。約束したからな」

「お見舞いはジーナさんだけで行ってあげてください」

「おいおい。来てくれないのか」

 ハルの辞退を想定していなかったジーナは焦った様子だ。

「私は樫の木で待ち伏せしている二人に事情を説明してきます。待ちぼうけさせるのは気の毒ですからね」

「あ、おい……」

 ハルは容赦なくすたすたと行ってしまった。


 一人になったジーナは頭をかきながら途方に暮れる。

「まいったな。苦手なやつの見舞いに一人で行けってか……」

 やがてジーナは覚悟を決めると、カリームの病床へと足を向けた。




ジーナのクエストジャーナル


■闇ポーション販売事件

流行り病の予防ポーションが闇ルートで販売されているという情報が入った

闇ルートをつきとめ首謀者を捕らえるか、不可能な場合は殺害せよ

報酬:10万ゴート

発注者:ギルドマスター


■派生クエスト:ボーヤーの淫欲の呪い

愛の神パクマンの司祭オリビアが、幻術師ボーヤーに淫欲の呪いをかけて操っている。

ボーヤーの呪いを解け

報酬:なし


■子豚盗難事件

農場の柵が破壊され子豚が盗難されている

子豚泥棒を捕らえるか、不可能な場合は殺害せよ

報酬:5万ゴート

発注者:ピギー牧場


■消えたホムンクルスのディアナを探せ

報酬:100万ゴート

発注者:イレブン氏


■英雄の骨の真相を追え

ダンジョンで戦死したはずの英雄の骨が森で見つかった。その真実を探れ。

報酬:なし

発注者:ハル・ブラッドレイ


完了済み

■ギルドのポーションの在庫数を数えよ

報酬:3000ゴート

発注者:ギルドマスター


■なくしたハンマーを探せ

報酬:なし

発注者:トラビス



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