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33/52

33:2日目 思わぬ強敵

 小屋を走り出た二人は、大ヤナギの根元で立ち止まり息を整えた。

「はぁはぁ。どうしますか、もうあそこには戻れないですよ」

「すまない。やはりあたしはあそこだけはダメだった」

「まあでも、手がかりになるような点も見られませんでしたが……」

「待て。何か聞こえる」


 それは陰鬱な歌のようだった。

 怒りに燃える屍術師アルテアの、死を使役する呪文の詠唱だ。 

「ババァ、どうあっても逃したくないみたいだな」

「しかし、ここには動かす死体なんてありませんよ」

 その時だった。

 ヤナギの根本の地面が割れた。

 土にまみれた骨の腕が突き出す。

 それはがっしりと大地をつかみ、自らの身体を引き上げる。

 左手に剣を握りしめた、スケルトン・ウォリアーだ


「朽ち果てろ、ジーナ! そしたらあたしのペットとして永遠に飼ってやる!」

 理性を失ったアルテアが命じると、骨は恐るべき素早さで二人に向かって剣を横薙ぎに振るう。

 ハルの盾が間に合う。

 しかし、ハルの顔は蒼白だった。

「こいつ、強い!」

 彼の腕は震えていた。

「うぉぉぉ!」

 叫びながら気力を振り絞り繰り出した一撃は、骨戦士の剣でやすやすと捌かれる。

 

 スケルトン・ウォリアーの強さは、生前の力に左右される。

 騎士団最強級のハルに匹敵――いや、それ以上か。

「ジーナさん、こいつの生前は英雄級の戦士です!」


 しかもハルはアンデッドとの実戦経験がなかった。

 骨なので刺突は効果が薄い。

 その上疲れを知らないので持久戦は不利となる。

「ナイト君、剣を叩きつけろ! 斬るんじゃなくて砕くんだ!」

 そもそもハルは防戦一方で一撃を与える余裕もない。

 ジーナはほくそ笑むアルテアを見る。術者を倒しても骨は止まらない、という余裕か。やむなくポケットからムチを取り出す。

 神業がかったコントロールで、スケルトンが剣を握る左手への一撃。しかし、痛みを感じない骨戦士が武器を取り落とすことはなかった。

 猛攻は止まらず、ハルがついに膝をつく。

 万事休す。


「ちっ。これだけは使いたくなかったが」

 ジーナは右下のポケットのさらに裏の隠しポケットから銀色に輝く鍵を取り出す。

 その鍵はそれ自体が宝物(ほうもつ)のようだった。持ち手には微細な彫刻が施されており、中央には王家の紋章が輝いていた。

「鍵師ジーナが、魔鍵に命ずる。王家との契約に基づき、その力を示せ」

 ジーナがより強く輝いた鍵をスケルトンに向ける。 


「この世の理を封ぜよ――“封鎖(シール)“」


 迸る魔力。

 時間が止まったかのように、スケルトンの動きが停止する。


「決めろ、相棒」


 立ち上がったハルの、必殺のダウンスイングが動かぬ標的を砕く。

 鍵の魔力が途絶え、骨は力無く崩れ落ちた。


 ジーナは脚の力が抜けてしまったかのようにへたりこむ。ハルが慌てて駆け寄るが、彼女はそっと静止した。

「……大丈夫だ」


 屍術師の姿はすでになかった。


「ジーナさん、さっきのは一体」

 ジーナは苦笑を浮かべながら、ハルに銀の鍵を見せる。

「王家の紋章……!」


「まだ言ってなかったと思うけど、昔王族の坊ちゃんを助けたことがあってね……礼にもらったんだ」


「ひょっとして領主のジャスティン王子ですね」


「ああ、そうだ。そのありがたいお情けで、魔人のあたしはこの街で冒険者ヅラをさせてもらってるわけだ」


「それ以上ですよ! 王家の紋章が入った秘宝が下賜されるなんて、騎士団にいてもめったに……いや聞いたことがないですよ!」

 ハルは興奮していた。


「こいつは便利な代物だが、なるべく使ったり表に出したりしないようにしてるんだ。なんか……すがって生きたくないんだ」

 ジーナが肩をすくめる。

「まあ、もうすでにいろんなものにすがってるけどな。まあ、つまんない意地だ」


「それに別の問題もある。こいつはあたしにしか使えない術式が組み込まれているが……あたしの本来の魔力なんてゴミみたいなもんだ。だから、あたしの“魔”の側から引き出す。……そうすると、なんだか少しずつ人間じゃなくなってくる気がするんだ」

 ジーナの瞳の奥に少しだけ恐怖の色が見えた。


「わかりました。私がいる限り、もうジーナさんにそれは使わせません」

「バカ。お前が勝てないから使ったんじゃないか」

 軽口で返すジーナだが、瞳の中の怖れは消えていた。


「それにしても、あの骨。強さが異常だろ。何だったんだ」

「そうでした。実は気になっていたんですが、王都騎士団の剣技に似てたんですよね」

 ハルがスケルトンの剣を拾った。


「騎士様がこんな薄気味悪いところに眠ってるわけがない。昔、戦でもあったって話も聞かないし……おい、どした」

 

 剣を見つめるハルが微動だにしていない。


「ジーナさん。こいつは……いや、この人はお祖父様かもしれない」


「は?」


「間違いないです。私の祖父――英雄フォール・ブラッドレイの剣です!」

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