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29:2日目 お説教と謎解き

「ジーナ! この緊急事態にどこに行っていたんですの⁉︎」

 用事を済ませてのこのこ帰ってきたジーナは、怒れるギルドマスター・メイリィの執務室で説教されていた。

 そして哀れなハルも付き合わされていた。

「今朝一番でホムンクルス捜索の進捗を報告するよう伝えていたはずです。貴方がすっぽかしたせいで、わたくしがジャスティン王子の前で大恥をかかされたのですよ!」

「ごめん、ギルマス。トラビスからはちゃんと聞いていたけどあたしが忘れてた。あいつを責めないでくれ」

「そういう問題ではありませんわ! 一時が万事! 規律を守ってこその冒険者ギルドです。ましてや貴女は白金級冒険者。皆の模範として……」


一応神妙な顔で拝聴のフリをしているジーナだが、目下のところメイリィの上着に刺繍されている謎の文字列を解析するというゲームに取り組んでいた。


 この文字群は一見意味がないように思えるが、隠された謎が必ずあるはずだ。


 メイリィの説教はゆうに十分を越えていた。しかしジーナは密かに決意した。


 ――上着の文字の謎は、必ずあたしが解き明かす!  

 文字を並べ替えると、ジャス……ティン……領主のジャスティン王子か? もう一つの文字は……。


「ジーナ! 聞いているのですか?」


 ちっ、いいとこまで行ってたのに。


「聞いてますって。手がかりは集めてるよ。満腹トロルに、愛の神の神殿……」

「森の屍術師は当たったのですか? 可能性は低いですが、とにかく不気味な人物ですからね」 

 あの老婆に会うのが気が進まないので黙っていたのに、メイリィは抜け目がなかった。


「もちろん、この後行くとこでしたよ。なあ、ハル?」

「……え、ええ」

 嘘がつけないハルの顔には、『始めて聞きました』と書いてあるようだった。


メイリィはため息をつきながら、さらに持論を展開する。

「それに……魔物の線か、家出の線だけですか? 

換金目当ての線が抜けているように思われますわ」

「まさか。あのお人形は珍しいかもしれないけど、金にはならないでしょ」

 さすが守銭奴のギルマスは金に結びつけるのが早いな、とジーナは口には出さない程度の分別があった。

「果たしてそうでしょうか?」

「そうだよ。金目的はない。白金級のあたしの勘がそう告げている」

 ジーナが人差し指をメイリィに向けて、大見得を切ったその時――


 執事のミルミドンが入室してきた。


「お話中失礼します。イレブン氏の自宅に先程、身代金を要求する手紙が届いたそうです」


 部屋の空気が凍りついた。


 手紙には、ホムンクルス返還の条件として百万ゴートを用意しろと書かれていた。


「嘘だろ……」

「この手紙は誰がここに?」

「狩人のジェシーです。カリームの指示で、こんな事もあろうかと定期的に訪問していたそうです」

「さすがはカリームですわね」

 メイリィが聞こえよがしにそう言ったが、ジーナはカリームの見舞いに行く約束をしていた事を思い出して気が重くなった。


「どうしましたの、ジーナ、首なんか傾げて。勘が外れて調子が狂いましたの?」

「いや、なんかおかしいぜ、ギルマス。この金どうやって受け取るつもりだよ。絶対その時捕まるだろ」

「まさか本人が取りに来ないでしょう。使い魔とか方法はいろいろ考えられます」

「金額も微妙にショボい気がするし……」

「いいかげんになさい。とにかく、次に連絡が来た時、確実に解決してくださいね」

「わかってるよ」


「それからもう一つ。昨日貴女が数えたポーションの数ですが、二箱分ずれていましてよ」

「いや、それはない! あたしだけじゃなくてハルもチェックしたからな」

「今日のポーション接種前に確認したらずれていたと報告を受けています」

「ギルドマスター、私からも申し上げます。昨日の数量に間違いはありません」

 ハルまで助け舟を出したので、メイリィはしぶしぶ矛を収める。彼女はため息を一つつくと、話を打ち切った。

「話は以上ですわ。引き続きクエストを進めてこまめに報告をお願いしますね」

 そう言ってメイリィはジーナに背を向ける。

 彼女の背に刺繍された文字を見て、最後のピースが揃い、ジーナは上着の謎が解けた。


「了解であります! ジャスティン王子、命!」


 メイリィが「ちょっ……!」と慌てて振り返ったときには、ジーナの姿はもうなかった。


 残されたハルは、困ったように笑うと、静かにその場をあとにした。


〜〜〜


 自室で待っていたジーナと合流したハルは今後の方針を相談する。

「やる事が山積みですね。まずはトロール退治に行ってはどうでしょうか」

「同感だ。暗くなったら相手に有利だからな」

「では門を出る前に私の宿に寄ってください。盾を持っていきます」

 ハルは街での探索が主となっていたので荷物としてかさばる盾を置いてきていた。


「失礼します、ジーナさん。お茶をお持ちしました」

 いかにも見習いといったローブ姿の冒険者がノックして入室してきた。

 青い髪をした、まだ少年と言って良い年に見える。(クリスと違い正真正銘の男の子だ)

 くりっとした目で愛嬌がある、なかなか可愛い顔立ちだ。

「お、ありがとな。ボーヤー、紹介するよ。こいつは……」

「ハルです。見習い同士、どうかよろしく」

「うわ〜、金色の鎧、かっこいいですぅ。幻術師のボーヤーです。よろしくです」

「幻術師か。このギルドは若い魔術師が多いんだね」

「ダンジョン攻略では、幻術が役にたつと聞いて勉強したのです……でもこの街のクエストでは使い道があまりないのです」

 幻術は魔術体系の一つで、文字通り幻を見せる魔法を専門とする。幻影で囮を作ったり、モノや人を隠したりといった便利な魔法が使える。

 たしかに街中でのクエストではあまり使い道がなく、どちらかと言えば犯罪者に重宝されそうな魔法かもしれない……とハルも思ってしまったが――


「あたしはそんな事ないと思うぜ。怪しいヤツの家に忍び込んだり、こっそり証拠を探したりはよくあたしもやってるけど、お前みたいな魔法が使えれば助かるけどな」

「うゎぁ。ジーナさん、ありがとうございます!そう言ってくれて嬉しいです!」

「だから早く一人前になれるよう頑張れよ。お茶汲みなんてやらなくてもいいんだ。勉強したり初級クエストを受けたり……暇なく動いた方がいいぞ」

 ボーヤーを叱咤激励するジーナを見て、ハルは少しの違和感を感じた。なんだかジーナらしくない、と思ったのだ。とはいえ彼女とはまだ二日に満たない付き合いだ。こういう一面もあるのだろうか。


「……はい」

ボーヤーがはにかみながら出ていくと、ジーナはぼそっとつぶやいた。

「……あたしの思い違いだったらいいけどな」

「え?」

「なんでもない。さ、いよいよ満腹のトロール退治だ」

ジーナはお茶のコップを置いて、立ち上がった。

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