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26:2日目 忘れ物を探せ

 早朝の食事を満喫した二人は、早速現在抱えているクエストを確認した。


 現在のジーナのクエスト:


■闇ポーション販売事件

流行り病の予防ポーションが闇ルートで販売されているという情報が入った

闇ルートをつきとめ首謀者を捕らえるか、不可能な場合は殺害せよ

報酬:10万ゴート

発注者:ギルドマスター


■子豚盗難事件

農場の柵が破壊され子豚が盗難されている

子豚泥棒を捕らえるか、不可能な場合は殺害せよ

報酬:5万ゴート

発注者:ピギー牧場


■ギルドのポーションの在庫数を数えよ

報酬:3000ゴート

発注者:ギルドマスター


■なくしたハンマーを探せ

報酬:なし

発注者:トラビス


■消えたホムンクルスのディアナを探せ

報酬:100万ゴート

発注者:イレブン氏


 

 

 このうちポーションの在庫数は昨夜数え終わっている。ちょうど出勤してきた執事ミルミドンに帳簿を渡す。

 これでクエストひとつ完了だ。


「ジーナさん、ハンマーを朝イチでトラビスさんに渡すって……」

「いけね。そうだった」


 ギルドマスターの大事なハンマーは、ジーナがストーンゴーレム討伐のクエストの折、管理者のトラビスから無理を言って借りたもの。

 死闘の末、ハンマーを忘れてきてしまっていたのだ。

「場所は覚えてる。取りに行くか」

 街から南西。森のはずれにある荒地。

 昨夜のピギー牧場やディアナが姿を消した森も近い、魔物の多いエリアだ。

「よう、朝からご苦労さん!」

 昨夜はこっそり通り抜けた西門だが、今朝は堂々と衛兵にあいさつしながら通過する。

 衛兵たちの眼には魔人であるジーナへの警戒がいまだ色濃く残っていた。

 

 街道をしばし南西へ進み、ブナの木を目印に岩が立ち並ぶ荒地へと足を踏み入れる。岩陰には、巨大な腕を象った石像のようなものが転がっていた。あのゴーレムの残骸だった。

 ギルドマスターメイリィの虎の子の武器――”巨人砕き”と呼ばれるハンマーでからくも倒した難敵。


「ゴーレムは魔術師が仮初めの命を吹き込んだものですよね? 何でこんなところに?」

 ハルは初めて見たゴーレムの巨体を眺めながら疑問を投げかける。

「さあな。ご主人様をうっかり踏みつぶして、野生化でもしたんだろ」


 二人はあたりを探し回ったが、ハンマーはどこにも見当たらなかった。


「ほんとに何も覚えてないんですか?」

「ああ。あの大岩から飛び降りてゴーレムの頭をたたき割ってやったんだが……、最後のあがきで吹っ飛ばされてね」

 ジーナは詳しくは語らなかったが、その時瀕死の重傷を負っていた。

 魔人の驚異的な回復力で街へ戻ることはできたが、ハンマーの事までは頭が回っていなかった。


 ハルは地割れでできた崖を見つけた。もしここに落ちていれば、探すのは困難だ。

「どうしますか?」

「ないもんはない。トラビスには悪いがあきらめよう」

 あっさりハンマー探しを打ち切ったジーナは、せっかく来たのでそのまま森の捜索に行くことにした。

 昨日カリーム取り巻きシスターズがディアナの帽子を見つけた地点へ向かう。

「あの人たちも捜索に来ていますかね」

「いや。たしかあいつらの一人がギルドの受付のシフトが入っていたはずだから、いないと見たね」

 

 という事はクリスは今日は非番という事か……

 ハルはぼんやりと、初めて会ったとき彼女が英雄譚の話題で目を輝かせていた様子を思い出していた。

 

 森は朝日が差し込んで、輝いていた。

 ジーナは迷うことなく進み、やがて現場にたどり着こうとしたその時――


「待て、誰かいる」


 予想外の先客がいた。


「カリーム!?」


 倒木に力なく腰かけたその様子からは、いつもの華やかな精霊剣士とは程遠い。

 何週間も水をやり忘れて萎びた観葉植物のようにうなだれた姿。 

 人の気配を感じてのろのろと頭を上げたカリームは、それがジーナとわかると何とか微笑を浮かべた。

「……さすがはジーナ。来たんだね」


「お前……寝てなくて大丈夫なのか……?」

 流行り病にかかり高熱で倒れたと聞いていたが、どう見ても治っているようにはみえない。

 いつもは隙なく着こなしている服も、今日は皺だらけだった。

「ああ……何とかここまでは来たが……風も……水の声も……もう何も聞こえなくなってしまった」

 精霊は心身共に強健な者にしか応じない、という。今の彼にはその声が届かない。

「カリーム、今は私たちがディアナ……ホムンクルスを探します。どうか安静に」

 ハルの気遣いにハイエルフは苦笑を浮かべる。

「そうするしかないようだ……。でも、ひとつだけ風が最後に告げてくれた」

 いますぐそれを教えてくれ、とジーナは尋ねたい気持ちをこらえた。借りは作りたくない。


「ふっ、ジーナ……君に頼みがあるんだ」

「なんだよ」

「手がかりは君に託す……。そして、わたしは宿に戻って静養する。だから……」

 彼は、ふと口をつぐんだ後、振り絞るように言葉を続ける。

「……少しだけでいい。見舞いに来てはくれないか。私の部屋に」

「はぁ?」

「――ごほっ、ごほっ!」

激しく咳きこんだカリームを、駆け寄ったハルが背中をさする。

口を押えたカリームの手には、血の痕がにじんでいた。

「お前……っ」

「カリーム様!」

 取り巻きシスターズの一人、女狩人のジェシーが駆け寄ってきた。

 カリームの不在に気づき、追ってきたのだ。

 ジェシーに支えられながらカリームはゆっくりと立ち上がる。立ち去る前に彼はジーナを振り返って告げた。

「ジーナ……ここから真北。森の奥に巨大なトロルがいる。風は告げた。その腹は大きく膨らんでいると」

「腹をふくらませたトロル……」

「くれぐれも気を付けてくれ。そして……来てくれるよね、ジーナ」

「……ああ」

 カリームはジェシーに担がれて、森を後にした。


「どう思うよ、ナイト君」

「考えたくないですが、ディアナが食べられた……という可能性は否定できません。しかし、私はトロルの腹の中にいるのはピギー牧場の豚だと思ってます」

「どっちもありえるが、問題はトロルに勝てるのかって話だ」

「そんなに強力な魔物なんですか」

 ジーナはため息をひとつつき、言った。

「準備が必要だ。いずれにせよもう食べられてるんなら急ぐ事はない」

 ハルはそれには異論はあったが、強敵に対して準備をせず挑むのが愚かしいことはわかっていた。

「いったん街に戻って準備をしよう。それと……」

 ジーナは続けた。

「お人形が森で消えたからって、今も森にいるとは限らない気もしてるんだ。もうひとつ、思い当たる場所があるんだ」



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