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22:1日目 仲良しのための料理

 狼煙をあげていたのはギルドの女冒険者の二人組だった。

 たしか戦士のビエラと狩人のジェシー――カリームの取り巻きの二人だ。

 ビエラは朝ビキニアーマーを盗まれたとか騒いでいたが、予備のアーマーを着てきたのだろうか。

 どうでもいいが。


 カリームがジーナに絡むのを見るたびに冷たい目で見てくる連中だが、目の良いジェシーが丘の上にいるのを見かけて呼んだのだろう。どういう風の吹き回しだろうか。

「あんたには用はないわ。用があるのはそこの金ぴかの新人君よ」

「私ですか?」

「ナドゥに聞いたけど、あなたホムンクルスと会ったんでしょ?これを見てほしいの」

 ジェシーが指差した先の木の枝には、毛皮の帽子が引っかかっていた。

 忘れるわけがない。ディアナの被っていた帽子だ。

「どうやら正解だったみたいね」

 二人はハルの表情を見て満足そうにうなずき合うと、もう用はないとばかりに帽子を持って街へ戻っていった。

 もう暗くなるので明日から捜索をするつもりなのだろう。


~~~



「ジーナさん、あれは間違いなくディアナの帽子だと思います」

 ハルは確信していた。

 珍しい造りの帽子だったから偶然他の帽子だったという可能性は低い。

 あのイレブン氏の事だから、ディアナが自分の持ち物だと示すために特徴のある帽子を被せていたのだろう。

「てことは、お人形は森の中か。どのみち暗くなったら危険になる。あたしらも今日はギルドに戻ろう」

 ディアナの事は心配だったが、今やれることは限られている。

 それに今日は疲れた。

 ギルドの酒場で夕食にありついてぐっすり眠りたい。

 ――ハルのそんなささやかな願いが、叶う事はないのだが。


~~~



 ジーナたちがギルドに戻ると、心配性の冒険者トラビスが走り寄ってきた。

「ジーナ、ギルドマスターのハンマーは持ってきてくれたか?催促されてもうこれ以上耐えられそうにない」

 そんなクエストは完全に忘れていたジーナだったが、そこは歴戦の冒険者。

 表情にはおくびにも出さない。

「心配するな、トラビス。今日はもう遅いからギルマスもおねむの時間だ。明日の朝イチでも間に合うだろ」

「たのむよジーナ!」

 トラビスはこの街に妻子を抱えている男だ。

 メイリィの怒りを買って路頭に迷う事を怖れているのだろう。

「ああ、それからジーナ。メイリィが、ポーションの在庫数の報告がまだないって怒ってたよ。明日から販売が再開するから今日中にないと大変なことになるそうだ」

 そのクエストも存在を頭の中から無意識に消してしまっていた。

 トラビスもこのまま捕まえて一緒に数えさせようかとも思ったが、家族が待っている者を引き留めない程度の慈悲はジーナも持ち合わせていた。

 「わかってるって。今日中に終わらせるつもりだったよ」

 「それなら良かった。あとギルドマスターは明日の朝に緊急クエストの進捗報告をするように、とも言ってたゆ。確かに伝えたからな」

 役目を終えたトラビスは家路についた。

 仕方ない。ポーション数えは少々頼りないがナドゥにでも手伝わせるか。

 すがるような気持ちで酒場を見たが、ナドゥは今日は店じまいとばかりに酒を何杯も空けているようだ。

 これでは使い物にならない。

 とりあえず空腹が限界に近づいていたのでハルと二人でカウンターへ向かった。


 シェフのルピタは飢えた二人を温かく迎えてくれた。

「おつかれさま。あんたたちまだ初日だって言うのにずいぶん仲良くなったみたいじゃない」

 ルピタがハルの顔の痣を見ながら意味ありげな笑顔を見せる。

「うるせえ。飯だ、早くしてくれ」

「はいはい、そんなあんたたちにちょっと特別なの用意してあげるね」

「特別って何だよ……いやな予感しかしねぇ」

 ジーナが警戒したように眉をひそめる。


 ルピタはにっこり笑い、二人の前に大皿を一枚どんと置いた。


 中心には丸ごと焼き上げた骨付き鳥のもも肉。皮はパリパリに香ばしく焼かれ、表面にきらりと光るのは溶けた肉汁とハーブの油だ。まわりには火を入れた野菜――甘く焼き色のついた赤茄子や、じゅんわり柔らかい黄根菜、彩りのよい青菜の葉――が花のように盛り付けられている。


「……これ、一皿か?」

 ジーナが呟く。


「そうよ。一皿。仲良く分けて食べると、心がもっと近づくのよ」

「お前、ふざけ――」

「ありがとうございます。いただきます」

 ハルが深く礼をしてフォークを取ったので、ジーナは言いかけた言葉を飲み込むしかなかった。


 ルピタは続けて小鉢を二つ置いた。

 熟れた赤実と白いやわらかい乳固めを、香り草の油で和えた前菜。

 見た目も鮮やかで、まるで恋人同士の食卓に出てきそうな雰囲気だ。

 もうひとつはころころと丸く焼いた芋団子。ほんのり甘く、香ばしい焼き目のついたそれは、なぜかハート形になっていた。

「……なんかこれ、妙に……仲良しこよしって感じの……飯じゃねえか?」

「なんだか……気恥ずかしいですね」

 ハルが困ったように笑った。


 しかし――味は。


「……うま……」

 もも肉は、箸が要らないほどやわらかく、噛んだ瞬間に旨味のしみた肉汁が舌に広がる。皮は香草と塩で下味がついていて、脂をまとっているのにくどくない。

 野菜はそれぞれの食感と香りを引き立てるように焼かれ、蒸され、ほんのりと甘く仕上がっている。

「くっ……塩加減が絶妙……っ」

「ジーナさん、食べるの早すぎ」

「うるさい、しゃべるな。食いにくい」


 芋の団子もまた、表面はかりっと香ばしく焼かれ、中はほくほくと温かい。どこか懐かしさを覚える味で、気がつけば、ハート形のひとつをつまんでいた。

「……くそ……なんだよこのふざけた団子……カリームにでも食わせとけよ」

 ルピタは、何も言わずにカウンターの奥で笑っていた。

 ありがた迷惑な品ではあったが、皿の上にはもう何も残っていなかった。

 味に負ける、とはこういうことかと、ジーナは静かに敗北をかみしめながら、スプーンを置いた。


ジーナのクエストジャーナル


■闇ポーション販売事件

流行り病の予防ポーションが闇ルートで販売されているという情報が入った

闇ルートをつきとめ首謀者を捕らえるか、不可能な場合は殺害せよ

報酬:10万ゴート

発注者:ギルドマスター


■子豚盗難事件

農場の柵が破壊され子豚が盗難されている

子豚泥棒を捕らえるか、不可能な場合は殺害せよ

報酬:5万ゴート

発注者:ピギー牧場


■ギルドのポーションの在庫数を数えよ

報酬:3000ゴート

発注者:ギルドマスター


■なくしたハンマーを探せ

報酬:なし

発注者:トラビス


■消えたホムンクルスのディアナを探せ

報酬:100万ゴート

発注者:イレブン氏

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