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20:1日目 夕焼けの闘い

 ジーナは丘の頂上で狼煙を上げた。火が煙を吐く頃、茂みが揺れ、一体のゴブリンが現れる。


「お前の匂い、してた、ジーナ」

 にやりと笑ったジーナは、ポケットから焼き菓子を取り出し放ってやる。

「ほれ、お前の好きな甘いやつだ」

 ゴブリンは菓子に飛びつき、あっという間に食べ終えると、満足げにゲップを鳴らした。


「最近、変わりはないか? デストロ」

 ジーナがそう尋ねると、ゴブリン――デストロは怪訝な顔をした。

「俺たち、人間、襲わない。お前と約束した」

「よし、いい子だ」

 ジーナは、自分の胸ほどの高さのデストロの頭を撫でる。


「でも人間以外の獲物はどうだ? 人形みたいなやつ、捕まえなかったか?」

「そんなの知らない。でもジーナ、探してるなら、見かけたら知らせる」

「ははは、ありがとな。でもお前、あたしにどうやって知らせんだよ……まあ、気持ちは受け取っとく」

 ジーナが再び撫でようと手を伸ばしたそのとき――


「……ジーナさん! 何をしてるんですか!」


 夕陽の中、ハルが駆け上がってきた。剣を抜き、ゴブリンを睨みつける。


「離れてください、そいつから!」


 怯えるデストロが一歩下がる。ジーナが手を上げる。


「あー……ナイトくん。落ち着けって」

「ジーナさん、今笑い合って……魔族と! どういうことですか」

「こうなると思ったから、キミは連れてきたくなかったんだよ」

「こっそり会おうとしたんですか? 私に嘘をついて?」

「だからさ、落ち着けって。こいつらにも、いろいろあるんだよ……」

 ジーナは手を広げ、静かにハルへ近づこうとする。


 だが――


「ジーナさんは……半分魔物だから……街の敵とも、仲良くできるんですね」


 その言葉に、ジーナの視界が真っ赤に染まった。


 ゴキン、と音がしてハルの顔がぐらついた。魔人の拳が彼の頬を撃っていた。


「誰が、街の敵だって? 言ってみろ、もう一度!」


 次の瞬間、ジーナのローキックがハルの脚を襲う。よろめきながらも、ハルは拳を振り上げ、反撃に出た。

「そいつは話のわかるゴブリンなのかもしれない。でも次は? そいつが寝首をかかれて、次は人を襲うかもしれない!」


 魔人の顎に拳が命中する。だがジーナは、歯を食いしばって立ったまま左フックを返した。

「こっちは神様じゃないんだ、正解なんか知らねえよ! だからって、全部殺すのが正義かよ!」


 互いに血を流しながら、ついにジーナがハルを地面に叩き倒した。馬乗りになり、拳を振り下ろす。

「もし街が襲われたらだ?――ああ、その時は、あたしが責任とって、全部殺してやるよ!」


 ハルが両腕で防御し、体をひねって逆にジーナを押し倒す。今度はハルが馬乗りになる。

「……ボクは、英雄になりたくて……おじい様みたいに、この街を守りたくて……!

 振り下ろした拳は途中で止まり、ジーナの血にまみれた顔を見て、震える。

「どうした? 魔族にとどめをさせよ、英雄」

「……なんで、こんなことに……」


 力が抜けるように、ハルの体がふらりと傾く。

 脳震盪を起こした騎士の身体はジーナの上に折り重なるように倒れた。


 ジーナは黙ってその重みを受け止めた。しばらく呼吸だけが、重なり合った体の間を通り過ぎる。

 ようやく、片手でポケットを探り、芋チップスを取り出して口に入れる。

 動かなくなったハルに抱かれながら、ジーナはつぶやいた。


「……鎧が、重いんだよ。バカ」

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