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19/52

19:1日目 ゴブリンの巣へ

 二人は再び南門を出て、森へ向かった。

 ゴブリンが目撃されたという丘は、ホムンクルスのディアナの消息が途絶えた廃教会からそう遠くはない。

 道すがらハルは戦いの予感に興奮を抑えきれずにいた。

「ジーナさんはゴブリン退治の経験はありますか?」

「まあね」

「私は騎士団時代によく殲滅作戦に参加していました。奴らのことはわかっているつもりです」

「あ、そ」

「注意すべきは四人以上で同時に襲ってきた時です。まあ指揮官役がいない場合は連携が取れていないのでこちらも威嚇をからめれば……」

 ジーナはハルに振り向いて顔を近づける。

「いいかナイト君。あたしたちはゴブリンの巣を焼き払いに行くんじゃあないんだ」

「そうなんですか?」

「まだゴブリンがお人形を持っていったかなんてわからないだろ」

「ディアナをさらっていようがいまいが、ゴブリンを見かけたら殲滅するのは当然ですよ」

 どういうわけか二人の間にはゴブリンに対する見解の相違があるようだ。

「とにかく、あたしの指示があるまで、絶対にそのご立派な剣を抜かないこと。いいね」

 そうぴしゃりと告げると、ジーナは歩調を早めた。

 確かにゴブリンを侮るべきではない。しかしジーナにしては慎重すぎるのがハルには気になった。むしろ進んでゴブリンの巣に飛び込んでいくような女だと思っていたので意外だったのだ。


 ジーナは迷わず丘の中腹まで進むと、古びた洞窟の入り口を指し示した。

 洞窟の周りは植物のツタが繁茂しており、何も知らない者が探し当てるのは一苦労だろう。

「キミはここで見張っててくれ、ナイト君」

 彼女はハルに待機命令を出すと、一人で丘を上がろうとしている。

「一人で行動するのは危険ですよ」

「二人しかいないんだから仕方ないだろう。その穴からディアナが出てくるかもしれないから見張りが必要だ」

「わかりましたよ」

 ハルは渋々了解した。

 するとジーナがすぐに引き返してきて念を押してくる。

「いいね、あくまで見張りだよ。何か見かけても絶対にキミ一人で戦おうとかするなよ」

 そうしてすぐに行ってしまった。

 なぜそこまで慎重なのか理解できないが、さすがのハルも準備も無しに洞窟の中に踏み込むことはしたくない。

 中は暗いし、罠があるかもしれない。

 それでもディアナの悲鳴が聞こえでもしてきたらわからないが。

 天気は上々で、木々の上ではカケスがゲーゲーと呑気に鳴いている。ハルは所在なげに辺りをうろついてみたり、洞窟の中をすがめて見たりしていたが、そのうちに妙な事に気がついた。

 ゴブリン達はお行儀の良い種族ではない。それなのに、この洞窟の周りは頻繁に何かが出入りしている形跡もなく、食べ散らかしやゴミも無い。奴らが好んで立てがちな汚い軍旗やトーテムの類も見当たらない。

 つまり、ここはゴブリンの巣なんかじゃない。

 だとすると、なぜジーナは自分をここへ待機させたのか。


 理由はわからないが、ジーナは嘘をついている!


 なぜ?


 ハルの胸の奥に、古く冷たい痛みが広がった。


 騎士団にいた頃、どれだけ理不尽でも上官の命令には誰も逆らえなかった。

 それでも自分は、信じていた。

「間違っている」と思えば声を上げることが正しいと。

 それが原因で追放された――それでも、自分が正しくなかったなんて思いたくなかった。


 ハルはジーナを信じ始めていた。

 だらしないし、計画性もなく、無神経な冒険者。

 だけどこの街を守るという信念だけは同じ仲間になれると思っていた。

 でも、自分をここに残して、ゴブリンの巣へ向かい何をしている?


 怒りと不安が、同時に込み上げる。


 ジーナが進んで行った丘の上。

 その向こうに、狼煙の煙が、静かに立ちのぼっていた。

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