17:1日目 か細い手がかり
「頼みは《探知術の石》を作れ、ですね」
「察しが良くて助かる。キミはかわいいだけでなく有能だね」
クリスは一日に探知術を5回しか使えないが、ジーナは3個の石を要求した。
探知術が使えるのはギルドでクリスしかいないので呪文のストックがなくなるのはリスクがある。
しかしよくよく考えれば現時点ですべてのクエストを受諾しているのはジーナなので他から声がかかる可能性は低いといわれれば、反論はできない。
クリスが石に術を付与する儀式を行うのを待ちながら、ハルはジーナに問いかけてみた。
「ジーナさんは王族に認められたことがあるんですね。元王都騎士団員として興味があります」
「少年が余計なことを教えたみたいだね……まあこの石でチャラにしてやるか」
「私の一族でも王族に認められたのは祖父だけです。ジーナさんは一体何を成し遂げたのですか?」
「その話はあんまりしない事にしてるんだ」
ジーナはクリスが石に魔力を込める様子をじっと見つめたままハルを見なかった。
「まあ白金級になれば自分の部屋がもらえたから……それだけはありがたいよ。今まで自分だけの部屋ってなかったから」
「……」
「あ、独房は除いてな」
これ以上聞いてはいけないようだ。
クリスから石を受け取ったジーナは礼をいうと、酒場へ向かったのでハルは黙ってついていった。
冒険者たちの姿はまばらで、皆、病にかかるのを恐れて在宅の動きになったのだろうか。
驚いたことにあの太っちょ冒険者のナドゥは、まだ酒場で煎り豆をつまみながら酒をちびちびやっていた。よく見ると肩に鳩を乗せている。伝書鳩だろうか。
それにしても、彼は朝からずっとここで管をまいていたのだろうか。
「よぉナドゥ。たまには役に立ってもらうぞ」
「なんだよジーナ。俺はいつだって役に立ってるだろうが」
ナドゥが豆を指で弾くと、肩の鳩のクチバシが宙で捉える。器用な鳩だ。
「カリームの奴はどこまでつかんでた?」
「リザードマンの正体まではつかんでたな。だいたいお前と同じ進捗度かな」
「ちっ、やっぱり追いつかれてたか」
どういうことか、ナドゥは事情に詳しかった。
「他に手がかりはあるか?」
「カリームはイレブンの家に行く前に他の線を風の精霊に当たってたみたいだな。確度が低い情報はいくつかあるぜ」
「ちょっと待ってください! ナドゥはカリームと一緒にクエストを受けていたのですか?」
「まさか! こいつは朝からここでウダウダしてただけだ」
「黄金騎士様よ、一応俺だって《偵察員》のジョブ持ちなんだぜ。偵察員が酒場にいれば情報は手に入るもんだ」
「で、どんな線があるんだい?」
「一つは南の丘でゴブリン共の目撃情報ありだ。最近姿を現してなかったからこのタイミングっていうのは気になるよな」
「たしかに。奴らなら女の形の人形がふらふらしてたら連れて行ってもおかしくないな」
「もう一つは森に住んでる屍術師のババァが怪しいっていう噂だ。これはただの憶測だな」
「いや必ずしもシロじゃないぞ。人形は森の教会に行ってから姿を消している。いちおう覚えておこう」
「カリームが倒れちまった後も、ジュディス達は森の捜索に行ったぞ」
「ああ、いつもの取り巻きシスターズか。殊勝な事だな」
「情報は以上だ。これで朝の焼きそばパンの件はチャラにしといてくれ」
「てめ、ふざけんな」
正直ハルはナドゥに感心していた。
まったくの手がかりゼロの状態から、道が広がったのだから。
「ジーナ、真面目な話、ほとんどの仲間は在宅状態になっちまったからこれ以上の情報は追えないかもしれん」
「ん?今なんつった?」
「いや、だからこれ以上の情報は……」
「それじゃなくてその前!」
「え?ほとんどの仲間は在宅に……」
ジーナは会心の笑みを浮かべた。
「ってことは空いてるってことじゃねぇか!」
興奮気味にジーナが突然外套を脱ぎ捨てる!
「今からの時間に割り当てられてた奴らがいなくなった!」
「……まさか……!」
「風呂だ!もっかい風呂に入れるぞ!」
「え?今朝入ったじゃないですか」
「馬鹿野郎!風呂はこのギルドのすべてだ!いやメシもあるからギルドの半分だ!」
「そんな……」
「ナイト君、一緒に入るか?」
「……はぁっ!?」
「ここの風呂はいいぞぉ。まだ入ってないだろ」
「馬鹿言わないでください。男女で一緒に入るのはないでしょう」
「そんな事言って今朝入ってきたじゃあないか」
「勘弁して下さい……」
ナドゥがやり取りを聞いて笑い出す
「お前らすっかり仲良しじゃねぇか。どれジーナ、俺が一緒に入ろう」
「いや、それはない」
ジーナはくるりと受付のほうに向き直るとクリスに近づいて行った
「少年!いっしょに風呂はいろ~!背中流してやるぞ~!」
ジーナはクリスを本当に少年と思っているのか、冗談で言っているのかでだいぶ発言のヤバさが変わってくるな。
そう思いながらもハルは自分がターゲットから外れたことを少しほっとしていた。