16:1日目 ジーナの秘密
ジーナとハルはいったんギルドへ戻り、ジーナのアジトで状況を整理することにした。
「なんか騒がしいな。ナイト君、様子を見てきてくれ」
ジーナはポケットの非常食を補充するのに忙しいようだ。
ハルは階下に行き、受付のクリスから情報収集することにした。
「カリームが病に倒れました。みんなポーションが効かないんじゃないかと大騒ぎです」
クリスは相変わらず表情に乏しかったが、ハルに対して怒っている様子はなかった。
それよりもカリームの戦線離脱はハルも驚いた。
「他の冒険者はしばらく在宅をする人が増えそうです。ますますジーナさんが全部クエストやっちゃいそうですね」
ハルは少し顔をしかめた
「今だってジーナさんのクエストを大渋滞だよ。これ以上受けるのは無理なんじゃないかな」
クリスが顔を上げて答える。
「ジーナは必ず全部のクエストを解決するんだよ。これまでずっとそうだった」
「でも……まだ半日しか一緒に動いてないけど、行動は全部あてずっぽうで計画性はないし、身体が丈夫だからと言ってケガも厭わないし……」
(正直、ディアナも見つけ出せる気がしていない)
ハルは最後の言葉を飲み込んだ。
「たしかにジーナは乱暴だし、少しやけくそになっている感じがして自分を大事にしないところはある」
クリスのジーナ評は付き合いが長いだけに適切だ。
その時、外でギルドマスターの馬車の鈴の音がした。
直後、不機嫌そうなメイリィがスイングドアをすごい勢いで押し開けると、すごい勢いで階段を駆け上っていった。
「どうしたんだろ」
「さあ」
ハルは少し嫌な予感がしたが、クリスが話をジーナの事に引き戻してきた。
「でも本当にすごい冒険者だよ。ジーナは」
「そうだといいんだけど。昔からこんな調子でたくさんクエストを解決してきたから彼女は白金級冒険者になったのかな」
「いや。クエストをいくつ解決しても白金級にはなれないんだよ。解決数で上がれるのは黄金級まで」
「じゃあなぜ」
「ボクも詳しくは知らないんだけど、ジーナは王族の人に認められたことがあるらしい。だからギルマスも白金級にせざるを得なかったとか」
王族に認められた……あのジーナが。
王都で王族の近くに仕えながら、ハルは認められたと実感した経験などなかった。
若手では最強の騎士を目指して努力していたハルは、剣術大会の優勝や賊の討伐で王族に褒められたことは何度もあった。
しかし認められた、というのとは違う気がしていた。
認められていたのであれば、そもそも追放などされなかっただろう。
後天的とはいえ魔人という不利な出自を持ちながら王族に認められる活躍とは一体どんな事があったのか。
しかもこの地方都市で。
「ジーナはあんまりその事に触れてほしくないみたいなんだよね。ほらジーナって余計なことでも口に出しちゃうでしょ。そんな人が黙っているんだから」
「何が黙ってるって?」
ジーナが階段を降りてきて、受付にやってきた。
「それよりナイト君。さっきどういう風の吹き回しか、ギルマスがあたしにホムンクルスのクエスト受けてくれって頼みに来たんだよ。
「えっ?」
「良かったな、これで堂々と愛しのディアナちゃんを探せるね」
ジーナのウインクは腹立たしかったが、確かに悪い話ではない。
「というわけで少年、キミに頼みがある」
ジーナの笑みが自分に向けられていることに気がついたクリスは頼みを察してため息をついた。




