14:1日目 精霊剣士カリーム
精霊剣士カリーム。
自他ともに認めるソシガーナ最高の冒険者。
古の時代、この世界のすべてを治めていたといわれる神々の子ら。
その末裔とされる希少種族ハイ・エルフであるカリームは、契約により精霊たちと心を通わせる。
精霊とは地・水・火・風――あらゆるものに宿る存在。
それらを使役し、超自然の力をふるう者を、人は精霊術師と呼ぶ。
だがカリームは、それだけにとどまらない。
彼は剣の使い手でもあった。
その刺突に特化した細身の剣は立ち塞がる幾多の悪を貫いてきた。
いつしか人々はカリームを「精霊剣士」と呼ぶようになった。
そんな賞賛に満ちたカリームの人生において、ただ一人、彼を見る目が違う女がいる。
その女はカリームを頼らず、阿らず、崇めることもない。
万能なる精霊の力も使えず、敵を貫く剣の技も持たず。
それでも、ただただ街のクエストを愚直にこなしてきた。
今や彼と肩を並べる白金級冒険者の位階まで登ってきた。
彼女は、美しい……。
カリームは心の底から彼女を賞賛していた。
出会った当初は、ただの鍵師が蟷螂の斧を振りかざしている――哀れですらある、などとも思っていた。
だが今では。彼女のことをもっと知りたい。
語り合いたい。
そして、もし何か道に迷っていることがあれば手を差し伸べたい。
……いや、彼女は強い。助言など不要だろう。
ならばせめて、ただ時折、傍で支える役目でも構わない。
けれど……今は彼女の眼が自分を捉える事はない。
これまで数多の視線を集めてきたこの身が、彼女にとってはただの背景の一部にすぎない。
冒険者としても、人としても、彼女は自分より高みにいる。
ならばせめて今はこの緊急クエストを解決してみせようではないか。
そうすればギルドマスターのみならず、彼女も少しは認めてくれるかもしれない。
解決はもう目の前だ。
イレブン氏に尋ねたところ、ホムンクルスのディアナは黒いローブの人物に誘い出されたと思われる。
幸いにも氏の庭にはちょっとした池があった。
男の顔が池に映っていれば、水の精霊に尋ねて昨日の水面を再現してもらうことが可能だ。
はたして水面には彼の顔が映し出され、リザードマンのガモレスという男だった。
この男の所在を確認できれば、そこを起点に風の精霊を総動員すれば早晩ホムンクルスの行方は判明するだろう。
「カリームさん、お茶をお持ちしました」
見習い冒険者の幻術師ボーヤーがティータイムに合わせて現れた。
素直で、頭の回る、なかなか見どころのある青年だ。
「やあ、ありが……ごほっ」
……何だ……頭が割れるように痛い……関節も……肺も焼け付くように……熱いっ。
ボーヤーがお茶の盆を取り落とし、青ざめた表情でホールへ戻っていく
「た、大変だっ!カリームさんが、流行り病にっ!誰かっ!」
カリームは呼び止めようとしたが、咳が止まらず言葉は出なかった。
無念……。
予防ポーションも2回接種しておきながら、このざまとは……。
「ジーナ……」
カリームは熱に沈み――意識を失った。