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11:1日目 酒場で聞き込み

 イレブン氏の屋敷を後にしたジーナはフードの男の手がかりがどこで得られる可能性が高いのかを考えた。

 街中でわざわざ顔を隠す必要があるのは、よほどの事情があるか、後ろ暗い職業のやつだ。

 今回の場合は間違いなく両方だろう。

 この街にいるしゃがれ声の種族といえばリザードマンしかいない。

 善良なリザードマンはいくら自分たちが少数種族で目立つからと言って顔を隠したりはしない。

 奴は後ろ暗いリザードマンだ。

 ジーナはそう確信すると街の西側を目指した。


「ジーナさん、聞き込みはどこで?」

「とりあえず酒場”狼の巣”亭だ。ろくでもない連中が集まる定番の場所さ」

 ジーナはものすごい速度で歩いていた。もうほとんど走っているに近い。

 鎧を着こんだハルがなんとか着いてこられる速さだ。

 ハルの鎧は軽量化魔法が付与されているとはいえ、強歩には向いていない。

「ずいぶん急いでますね。なんだかんだでディアナを心配してくれているんですか?」

「んなわけないだろ。カリームだよ!あいつの精霊魔法がどんなインチキか知っているか?あいつが聞き込みしようと思ったらな、

風の精霊を使役とかぬかして、街中一瞬にして捜査しちまうんだよ。自分はソファに座ってすかした詩集でも読んでる間にな」


 ジーナは酒場”狼の巣”亭の看板のかかる路地裏の建物をハルに示す

「ここだ。いかにも頭の悪そうな店名だろ」

 ジーナがスイングドアを勢いよく蹴り飛ばし、戻ってくるドアを華麗に避けてドヤ顔を決める。

 後ろについてきていたハルは、慌ててドアを受け止める。

 薄暗い店内は煙草の煙が充満しており、まだ昼だというのに怪しげな男たちが賭けカードに興じていた。

 客たちはジーナと黄金の鎧の男を交互に一瞬だけ見ると、関わらないことに決めたのか自分たちの手札をじっくりと確認することにしたようだ。


「ちっ、ジーナ。お前この前ぶっ壊した机の金もらってねぇぞ」

 カウンターの奥にいる店主の大男がジーナに悪態をつく

「ドミナス、あれはアタシを女衒に紹介しようとしたバカな新入り野郎が自分の頭で砕いちまったんだ。事実を曲解しないでほしいな」

「ふん お前は厄病神だよ。せめて酒くらい頼んだらどうなんだ」

「そういうなよドミナス。今度厄介な客が来たら無料で追い払ってやるからさ。それより人を探してるんだ」

「手短にしてくれよ。そんなことよりその後ろにいる金ピカの兄ちゃんはうちの店じゃ目立つから外で待っててくれねえかな」

「こいつはアタシの新しい連れだ、気にするな。それより黒フードのしゃがれ声……たぶんリザードマンだ。来たか?」

「ああ昨日来たぜ」

「大当たりだな。特徴は?」

「“甘い香り”のやつだ」

「ははっ。助かったぜ、なんかあったらいつでも呼んでくれ、ドミナス」

 ジーナはハルの肩を軽く叩いて、店を後にした


「どうだ?あたしの“風の精霊”もなかなかのもんだろ」

「甘い香りのリザードマン、ですか」

「ああ。この街にはリザードマンなんて数えるほどしかいないからな。楽勝だ」

 ジーナはこの後行くべき場所がはっきりとわかっていた。

 “甘い香り”とは文字通りの意味ではあるが、裏社会ではハシームという違法の麻薬を指す。

 違法といってもこの街には積極的に取り締まる衛兵はいないし、冒険者達もクエストでなければ捕まえたりすることもない。

 とはいえハシームを摂取すると独特の甘い香りがするので常習者はすぐにわかってしまう。

 そこで「ハシーム窟」と呼ばれる販売と接種ができる施設が存在する。

 ハシーム窟の場所を知っている冒険者はこの街と周辺を知り尽くしているジーナだけだ。

 しかしカリームがその気になればハシーム窟にだって容易にたどりつけるだろう。

 急がなくては。

 目的地は一度イレブン氏の屋敷やギルドに続く目抜き通りに出て、街の南門へ向かい、外壁から出た森の中にある教会の廃墟だ。

 ジーナも中に入ったことはないが、そこがヤク中の溜まり場になっているという話は知っていた。


 二人は来た道を引き返して目抜き通りに出る。

 そこで、ジーナは今一番会いたくなかった男に出くわしてしまう。


「麗しのジーナ!そんなに急いでどこへ行くんだい!」

 満面の爽やかな笑顔を湛えた精霊剣士カリームだった。

 今からイレブン氏の屋敷へ向かうのだろう。

 ジーナはイレブン氏がカリームに腹の具合を尋ねないことを少しだけ願った。

「ああ、ギルドへ戻るんだね。ミス・メイリィが心配してたよ。キミがちゃんとポーションの棚卸をやってくれているのかどうかって」

 今一番興味がなく優先順位が低いクエストだ。

 しかしここはごまかすためにも興味があるふりをしておくのが得策だ。

「そ、そうなんだ。今街の一番の脅威はなんだかんだで病気だからな。大事なクエストだよ」

「うん。わたしもホムンクルス捜索がひと段落したら手伝うよ。たまには狭い部屋でじっくりと君と二人きりで協同作業をおこなうのも有意義な時間になりそうだからね」

 そこまで言った後で、カリームはハルの黄金の鎧がようやく目に入ったようだ。

「もちろんハル君とも王都の今と昔について語り合いながら薬瓶の数を数えようじゃないか」

「はい!ぜひお願いします!」

 ジーナはハルが話の腰を追ってくれたチャンスを生かすことにした。

「よし!じゃあアタシは急いで戻るから、これで。早く見つかるといいな、お人形が」

「ああ、また後で・・・ごほごほっ」

 突然カリームは笑顔を消すと、咳きこんだ。

「おい大丈夫か?」

 カリームはすぐにいつも通り背筋を伸ばして胸を張った体勢に戻った。

「問題ない。朝食のシチューに香辛料を少し利かせすぎたようだ。それじゃ」

 

 ジーナはカリームを見送る間もなく、麻薬の巣窟へと急いだ。

「ポーション数えるクエストとか興味なさ過ぎて忘れそうだ。とはいえやんないと首になっちまうかもしれないから。ナイト君、あたしが忘れてたら教えてくれよ」

 二人で街の南門を抜ける。

 昨日ハルはナドゥに連れられてここから入ってきたのだろう。

 衛兵たちは出ていく者には関心がないので、特に何か聞かれることもない。

 ホムンクルスも素通りだったとしても不思議はない。


 街の門を出て、10分ほど歩くと教会の廃墟に到着した。

 一見、人の気配は無いが、中はクズ共のたまり場になっているはずだ。


「これから麻薬中毒者の群れに飛び込むからな。最悪、戦闘になる心構えをしておいてくれ」


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