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10:1日目 捜索開始

 イレブン氏の屋敷は南門近くの高台にある。

 ジーナとハルは急ぎ足で向かう。

「急にどうしたんですか。さっきは興味ないって言ってたのに」

「別に今でも興味はないさ。カリームのやつの鼻を明かしてやりたくなっただけだ。これ以上舐められてたまるか」

「そんな失礼な態度にも見えませんでした。むしろどういうわけかカリームのあなたへの好意すら感じましたけど」

「そんなわけないだろ。あいつは女とみれば全部あんな感じだ」

 ジーナはさらに速度を速めた。

「あたしはあいつにも誰にも負けるわけにはいかない。あたしはこの街を守り続ける」


 イレブンの屋敷は成り上がった豪商の家といった風情で、比較的最近建てられた立派な建物だった。

 庭は花壇が整えられており、季節の花が色とりどりに咲き乱れている。

 ひょっとしたら花の手入れはディアナがやっていたのかもしれないな、とハルは想像した。

 

 イレブン氏はいかにも厳格そうな初老の職人といった風情で、冒険者2人を値踏みするかのように眺めていた。

「こんちは〜。冒険者ギルドの方から来ました〜」

ジーナの雑な挨拶に顔をしかめたイレブン氏は不満そうだった

「ギルドマスターの話では精霊剣士カリームが来るという話だったが?」

「いや〜カリームは昨夜食べた唐辛子ソースが当たったみたいでね。朝から便器を抱いてたものですから、あたし達が先遣隊としてやってきたんですよ」

 ジーナは息をするように嘘を並べると、主人の許可も待たずにズカズカと屋敷の中へ入っていき観光客のようにキョロキョロと見回した。

「すげ〜。金持ちのお宅にはなかなか入る機会もないもので。息子さんと二人暮らしの割には広いですね」

「少し前までは使用人も雇っていた。ディアナが来てからは家事全般は彼女にまかせとった」

「へ〜ホムンクルスってそんな便利なんですか。あたしも手に入れて部屋の掃除してもらおうかな」

「1000万ゴート以上はたいて買ったんだ。取り戻してもらわんと困る」

「そりゃあたしがクエスト全部解決したって払える金じゃなさそうだ。ナイト君、とりあえず全部の部屋を捜索するよ」


 ジーナは豪華な客間には興味がないらしく、食堂へ向かう。

 机の上はきちんと整理されており、棚には磨かれた食器が並んでいる。

「気に入らないね。毎日使う食堂をこんなに生活感なく整頓できるものかね」

 そりゃあなたの部屋と一緒にされても困る……とはいえ、ディアナの家事能力が高度なものだったことがうかがえる。


 食堂の奥の扉を開くと炊事場と食糧倉庫につながっていた。

 ここもキチンと整頓されている。

 ただ食糧倉庫の隅に、ぼろ布のようなものが置かれているのだけは違和感を感じた。

 ジーナはすでに食糧庫への興味を失っているようで2階への階段へ向かっていた。

「食糧庫の棚を見たら、また腹が減ってきた。さすがに何かくすねるわけにもいかないから退散しよう」


 2階は主人と息子の個室となっているようだ。

 ユーリ少年が冒険者たちを出迎えてくれた。

「お兄ちゃんは、あの時の」

「やあまた会ったねユーリ」

「お願い!お姉ちゃんを探して!」

 ユーリはすがるようにハルたちを見つめている。


「これ、ユーリ!部屋に入ってなさい」

 背後からついてきていたイレブン氏は不機嫌そうに息子を自室に追い立てた。

 冒険者など本来無頼の者たちだと考えるのは当然だ。

 父親としては真っ当な行動といえるだろう。

「ボクたちがお姉さんを探し出す。安心して待っていてくれ」

 ハルは少年の眼をしっかりと見て、決意を伝えて見送った。


 ジーナはイレブン氏の個室の戸棚などを調べているようだ。

 数えきれないポケットがたくさんある魔人の鍵師に戸棚を漁られるのは、主人も心穏やかではいられないだろう。

「それでご主人、なにかなくなったモノはありますか?」

「いや、わたしが知る限りは無いな」


「念のため、これも使っとくか」

 ジーナはポケットから青白く光る石を取り出す。

「なんですか、それは?」

「魔力探知石だ。ほれ、受付やってた探知術師のクリスっていう少年がいるだろ。あいつに探知魔法を石にこめてもらったんだ」

 クリスは女の子です、と突っ込む暇もなくジーナは石を割って魔力を放出する。

 さすがの新米のハルでも石に魔力をこめて使い捨ての道具として使えることは知っていた。

 魔術師は1日に使える魔法の数が決まっているが、翌日に使用数を持ち越すことはできない。

 だから石などに魔法を込めて保存しておくのは合理的というわけだ。

 そんな貴重な石をジーナが持っているということはクリスと良い関係を保っているということだろうか。

 性別すらもよく把握していないくせに・・・

「これで犯人が幻影魔法なんかで痕跡を消していてもわかるってわけだ。まあ魔力を探知してくれるだけでどんな魔法なのかまでは教えてくれねえけどな」

 せっかくの貴重な魔力探知石だったが魔力反応はナシ。

「賊が物理的に押し入ってディアナをさらった形跡もありませんね。ということはディアナは自分で家を出たことになりますね」

「お人形が家出するとも思えないが、家の外に呼び出されたところを持っていかれた、というのはあるかもしれないな」

 イレブン氏が不機嫌そうに合いの手を入れる。

「ホムンクルスは命令もなしに外出することはない。だが、たしかに知っている者に窓の外などから呼び出されたら家の外に出るという事はあるかもしれんな」

「心当たりでも?」


 ハルは思い出した。

 そういえばユーリと出会ったとき、彼は何かの助けを求めていた。

 あれはいったい何だったのだろう

「ユーリ君が何か知っているかもしれません。イレブンさん、少しだけ息子さんと話をさせていただけませんか?」

 ハルの物腰柔らかな態度はイレブン氏の警戒をいくぶんか和らげたようだ。

 主人は黙ってうなずき返した。

 ハルは個室をノックするとユーリから話を聞いた。

「あのね、少し前に誰かがお姉ちゃんを訪ねてきたんだ。たぶん男の人」

「ユーリ君、それはどんな奴だった」

「黒いフードをすっぽりかぶってたから顔は見えなかったよ。でも声がすごく怖かった」

「少年、どんな声だった?」

 ジーナが口を挟む。

「うーん、うまく言えないけど風邪ひいた時みたいだけど、もっと怖い感じだったよ」

 イレブン氏はなぜそれを早く言わなかったんだとユーリを叱り、かわいそうにユーリは泣き出した。

 おそらくユーリはこんな恐ろしい父親に相談するのがためらわれたのだろう。だから、通りすがりの冒険者ハルに助けを求めた。

「まあとりあえず手がかりが出てきたじゃないか。ナイト君の恋敵のご登場かもしれないね」

「黒いフードの男・・・いかにもという感じですね」

 ハルは後半の冗談をまるっと無視して答えた。


「よし。ここでやれることはもうなさそうだ。街で聞き込みするか」

「待ってください。ディアナ本人の部屋をまだ捜索してないですよ」

 ジーナが何を言ってるんだ、という顔で見返してきた。

「ナイト君、食糧倉庫にあったぼろ布はなんだと思った? 」

「まさか・・・あそこでディアナは・・・」

 ホムンクルスは人間として扱われていない。

 頭ではわかっていてもハルの中では割り切れていなかった。

「まあそもそも寝る必要があるのかも知らないが、お人形の待機場所は必要だよね」

 ジーナもまたディアナをモノだと意識しているようだ。

 おそらくギルドマスター、そしてカリームですらも。

「ジーナさんはディアナに会ったことがないから、この異常さがわからないんですよ。彼女は普通の人間と変わらなかった。

こんな扱いは狂ってますよ」

「今はナイト君と口喧嘩する気はないよ。でもこれだけ言っておく。人形は人形だ。それを忘れるな」

 振り向きもせず階段を降り始めたジーナを、ハルは黙って追うしかなかった。


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