堕天 2/?
車での移動は楽しいものだった。
音楽を聴いたり、ゲームをしたり、旅の目的を再確認した。
「絶対にお父さんは生きてる、なんかそんな気がするの」
エリナさんは自信に満ち溢れている。
瞳を見ればなんとなくわかる
「ジノ……ジノンは?」
「……?」
「旅の目的は?」
目的もなしに旅はできない
辞書のことわざ欄にそう書いてあった。
目的は最初から決まっている
「…………」
「なるほどね……」
『マズレイから声と記憶を取り戻す』
これが旅の目的
記憶が戻ったらまた何か変わると信じて
三回太陽が昇ったある日
砂では無い大きな何かが見えた。
「あれじゃない?」
事前にアデルおばさんから聞いていた情報のうちの一つ
『北東に行くと、壁に囲まれた国か村がある』
これかもしれない
僕らは心躍らせ、エリナさんはアクセルを思いっきり踏み込んだ。
「ちょっと飛ばしすぎた……」
壁の前でぐったりするエリナさん
速度を急に上げたせいで、少し酔ったそうだ。
「ジノっちは強いね……」
「………?」
「あ、あぁごめんね〜、私心の中でずっと『ジノッチ、ジノッチ〜』って呼んでたからさ、つい出ちゃった」
ペロッと舌を出して「許して」というエリナさん
「………」
「えっ!いいのジノッチ?」
いやもう言ってるじゃん
「よし!この流れでこの壁を乗り越えてやりましょう!」
「………?」
「んなわけない無い、多分門があるはず……」
そう言って再び車に乗り込むエリナさん
すると壁の一部がガタッと揺れた。
「……!」
「おぉ旅の方ですか?」
壁から男の顔がでてきた。
顔の位置はかなり高く、どうやら僕ではなくエリナさんを見ているようだ。
「はい!」
「では少々お待ちください……」
そう言うと男がスっと消えた
そして大きな音を立てながら、壁の一部が開いていく。
エリナさんの車も入るぐらいの大きさだ
「では入国審査をいたしますので、どうぞこちらに」
「はい」
「ここにお名前と、入国理由を………」
男は僕を見た
男は口をあんぐりと開けたまま動かなくなってしまった。
「次は?」
顔を上げ男の顔を見たエリナさん
エリナさんもこちらに振り向き、「あちゃ〜」と手を顔に当てた。
「は……羽……?」
別に隠しているつもりでは無いが、羽がバレると色々めんどくさい事になる
……気がする
「ちょっとそこで待っててください!」
また男が壁からいなくなって、後ろの方から出てきた。
意外と小柄なのね
「し、失礼します……」
そう言って男は僕の羽に手を伸ばす。
「……うぉっ……本物……?」
「まぁそうですね」
「そうすると、あのマズレイの仲間ですか……?」
「………!」
「マズレイって天使の?」
「はい……」
驚いた
まさかマズレイのことを知っているなんて
「少しお待ちください、上の判断が出るまであなたがたを国に入れる訳には行きませんので」
「どれぐらいかかります?」
「今回は特別なんで、10分もかからないでしょう」
そう言って男はまたどこかに走り去って行った
しかしマズレイがこの国にもなにか影響を及ぼしているに違いない
「………」
「マズレイ……」
エリナさんも同じ考えのようだ。
ゴゴゴゴゴ
前方の壁が開き、男が出てきた。
「ようこそ我々の国へ」
「うっわー、なにあれ?」
エリナさん指差すのは、すごく高い何か
至る所で光が反射している
「あれは我が国の誇りでありライフライン、全変換機です」
「………?」
「あの機会の中に例えば、このような砂を入れて、なって欲しいもの、欲しいものを選択すると、砂が別のものになっているのです!」
「えっ!すごいじゃんそれ!」
「えぇそうでしょう、しかし原理は全く不明なのです。いかんせん我が国のロストパーツの1部ですから」
「………?」
「ロストパーツと言うのは各国、集落に存在する原理不明の超高度ななにかのことです。それが我が国だと全変換機と言うわけです」
ロストパーツ………
ドンッ
ロストパーツがある建物を眺めていたら、前から歩いてきた男に気付かず、肩をぶつけてしまった。
「………!」
謝ろうとしたが、いかんせん声が出ないので謝意が伝わらない。
「……チッ」
男からは舌打ちが聞こえた。
「なにあれ、雰囲気悪い」
「あれは今のこの国の一番の問題ですね……」
「………?」
男は小さなベンチに座り、長話を始めた
「この国は全変換機のおかげで楽で安定した生活を手に入れました。ですが次第に人は全変換機に甘え、ラクでだらけきった生活を送るようになったのです。さらにアバイスという離れていても会話ができるツールが生み出されたことにより、家に引きこもる若者が増えたのです。」
「じゃあなんであんなに雰囲気が悪いの?」
「他者に興味が無くなったからですよ、アバイス漬けの生活で自分以外のものへの興味が次第に薄れていき、アバイスさえあればいい、みたいな中毒者も現れ、次第にやつれていったんですよ」
気づいてみれば人はほとんど、と言うか0に近い。
「今町に出ているのは、物好きで仕事が好きな連中ばっかりですよ、それにもう1人の門番もアバイス漬けで、ろくに仕事をしてくれません。」
案内人の男は少し俯きながら、悲しい声で言った。
「ありえないね、この国……」
「………」
エリナさんがいた町は、町中の人みんな家族のような町だったので、この国の有様を見て絶句している。
「じゃあさ、その全変換機ってのはどこで見れるの?」
「街の中心部に行けば、標識がありますよ」
「ありがとうございます」
あの人が仕事好きで本当に良かった
車に乗ってエンジンをかける。
だが
「えっ?なんで?」
電源はつくのだが、エンジンがブブブブと空回りして、全くつかない。
「え〜うっそ〜!」
頭を抱え大きく仰け反る。
「大丈夫ですか?」
「え、あ、あー大丈夫……じゃないですね」
案内人の男が声をかけてくれた。
そもそも広場の真ん中に大きい車が動かないままの方が困っちゃうか
「ならレッカー呼びましょうか?」
「いいんですか?」
「………?」
「あぁレッカーって言うのは、車が何かあった時に修理する所まで運んでくれるサービスだよ」
それは世界共通なのかな……?
「まぁ広場の真ん中に車ある方が困るんでね」
やっぱり
「じゃあレッカー来るまで待っててください」
「あ、はい」
優しい国民だ、国の手本のような人だな
レッカーが来て車を運んでもらった
そして今は
「ようこそ我が国の誇り、全変換機をご覧になりたいのですね」
レッカー車に乗った男の粋な計らいで全変換機が見学できる場所まで送ってくれた。
「この国、仕事好きは本当に優しいんだよね」と愚痴を漏らしていた。
「ではどうぞ」
「えっ?入場料とかいらないんですか?」
「えぇこの展示物も建物も全て全変換機から作られたものですから、お金をとる理由なんてありませんよ、国外からのお客様なら尚更です」
「本当に……」とエリナさんは少し泣きそうな顔をしている。
館員について行きながら、国の歴史と全変換機についての色々を学んだ。
意外だったのは全変換機は国ができてから見つかったらしい
街の中心部にいきなり生えてきた、と書いてあった。
「信じられないね……」
「我々も同じ気持ちです、次は全変換機がもたらした良い面と悪い面を紹介します」
展示は次のブースに進み、歴史の深い部分に迫っていく。
「この国は砂漠にポツンとあったオアシスを中心に発展したと書いてあったが、初めの全変換機の使い道は新しい未知の食材や珍しくなかなか手に入らなかった物を生成していました。」
見たことの無い魚……?
それに気持ち悪い虫
これをわざわざ生成して食べようとしたのか……
「次第に食材にも飽きていき、次に技術を生成していきました。」
「……?」
「えぇ、技術を生成するのはできません、しかしその技術を用いた機械を生成し分解して汲み上げる。これを繰り返すことでその技術を習得、活用できるようになったのです」
目の前には何回も分解された機械が展示されている。
正直、見ただけでは全く理解できない。
分解するのも相当な技術が必要なんじゃ……
「それであんなに大きい街ができたんですね」
「それとこの街ができた要因はもうひとつあるんです」
男はポケットから石を取りだした。
「これは……?」
「これはマイカイト鉱石と言い、この地域でよく採集される鉱石です」
「これがなんかすごい能力があったとか……?」
「いえその逆、なんにもないんです」
「「?」」
「この石は何にもなりません、加工しようにも脆く溶かしてコンクリートのようにしてもすぐ気体になってしまい、オマケに磨けど磨けどくすんだ色のままです」
「…………?」
「ですが一つだけ、ただ一つだけ特徴があるんです」
そう言って男は奥にあるガラスを指さした。
「あれってこの石?」
「ええ、では見ていてください」
男がスイッチを押した。
すると左右から何かが出てきた。
「……?」
「少し熱いかもしれませんのでご注意を」
男が警告した次の瞬間、左右の何かから炎が石目掛けて燃え上がった。
「うわっ、なにあれ…」
「これがマイカイト鉱石最大の特徴です」
そこには大きく膨れ上がった何かがあった。
「えっ!?これさっきの石!?」
僕もエリナさんも驚く
「そうでしょう!そうでしょう!」
男は嬉しそうに笑っている。
「この鉱石最大の特徴が体積が何十倍になるんですよ」
「けどこれがなんで街の発展に繋がるんですか?」
「全変換機には大きさに対応しているんですよ、ならどうなるかわかりますか?」
「?」
「あ!」
エリナさんがなにか閃いたようだ
「でっかい機械なんもかんもこのちっちゃい石ころで生成できる!」
「ええ、変換効率がとてもいいんですよ、アホみたいに高いビルも建築に必要な重機もインフラも何もかも豊富な資材と積み上げた技術力であっという間に築き上げたのです、その期間わずか一年」
「一年!?」
ここに来るまでに見たあのビル群や道路はたったの一年できたなんて信じられないな…
「では実際に見てみましょうか?」
「?」
「いいんですか?」
少し大きめのドアを開けて、全変換機に近づく
男は機械に触り、石を出てきた何かに入れる
「何にしますか?」
「えっ、なんでもいいんですか?」
「えぇ、どうせ誰もません、お好きにどうぞ」
「じゃあ〜さん」
ピーピーピー
「「「!?」」」
エリナさんが何かを言おうとしたその時
機械からけたたましい音と共に、赤色のランプが激しく点灯する。
「なになになに!!??」
「落ち着いてください!今すぐ対応します、少々お待ちください…」
「……」
さすが仕事人と言うか、緊急時の対応が手早い、それに焦っていない
凄まじい速度で機械に何かを打ちこんでいる
「あ……おさまった……」
音とランプはものの数分でおさまった
「……」
「すみません……お客様がいる時に限ってこんなことがおこるなんて……」
ぷしゅー
さっき石を入れていたところから白い煙と共に石が戻ってきた。
「これは大丈夫……?」
「えぇ、石を即座に加熱して膨張させてから変換するので、この煙は必ず出ます……」
男はまだ機械を触っている
「はい、もう一度やってみましょう」
「いいんですか?」
「えぇ、問題は無いはずですので……」
「じゃあ秋刀魚!」
「秋刀魚ですね……」
男が機械に何かを打ちこむ
石を機械に入れる
すると機械が青白く発光し、数分で白い煙に包まれながら何かが出てきた。
見てわかった
さんまが何かわからないので見てもどうしようもないことに今気づいた
「久しぶりの秋刀魚〜ってえええええええ!!!!」
エリナさんが絶叫する
「どうかされましたか……!」
男の機械を触る手が止まった、と言うか止められた。
男は煙の中から飛び出してくる何かに吹き飛ばされてしまった
初めて視界に入った時は「エリナさんこんなの欲しがってたのか」とも思ったが、悲鳴と男の現状を見て悟った。
こいつはさんまとかじゃない
「………」
エリナさんは気絶しているだけだが
男は何かに吹き飛ばされ、血を流している
今は逃げるのが得策だろう……
煙がなくなり『なにか』の全貌が現れる
「………」
まず目の前のエリナさんを腕で抱え、羽を使ってブレーキをかける
未だに羽の感覚はないが、自分の意思で動かせるようになっている
………らしい
今も走っていた勢いを殺せていたので使えてはいるのだろう。
体を反転させ、男の方へ駆け寄る。
『なにか』は立ち上がった。
男を担ぎ上げ、片足でドアを開ける。
ジリリリリリリ
非常事態を知らせる鐘と赤色のランプが激しく鳴っている。
さすがに二人を抱えたまま走るのは厳しいものがあるな……
そのまま来た道を全速力で戻り、入口のドアを蹴り開けた。
「動くな!」
外に出た瞬間、大勢の人がいた。
何やら黒くて騒々しい
並の人間じゃない気がする上
相当警戒しているというのが表情から読み取れる
大人しく従うのが吉だな
「手を上げろ!」
二人をそっと地面におろし、手を上げる。
「お前か、サイレンの正体は」
首を横に振る
「じゃあ一体何が」
「!」
入口のガラスを全て割りながら『なにか』が来てしまった。
「打てぇ!」
奥にいた男がそう言うと、後ろの『なにか』にむけて何かが飛んでいる。
『なにか』は飛ばされた何かに当たると、青色の液体を撒き散らしながら苦しそうに悶えだした。
「~~~~~~~」
言語化はとてもできそうにない絶叫の後に『なにか』は地面に倒れた。
「処理班」
「はっ」
奥に構えていた男がこちらに近づいてくる。
「これは失礼いたしました、私、『治安維持部隊』のアズマと申します、お名前は?」
「………」
国に来る前にエリナさん渡された紙とペンを使って名前を伝える。
「声が出ないのですね……」
アズマと言う男は少し悲しそうな顔をしたあと、またすぐ元に戻った。
そこからはアズマに何があったのか色々と事情を説明した。
後ろでは『なにか』の処理がたんたんと進んで、体はどこかに行ってしまった。
「なるほど……ではそのお嬢さんは着いてきてもらった方が良さそうですね」
「……?」
「ではジノンさん、あなたのお話を聞かせてください」
「?」
話ならさっきした……
「国王陛下に、」
「!」
「事情は順を追って説明いたします、まずは車にどうぞ、あぁ心配には及びません、そちらのお嬢さんも着いて来てもらいますよ」
「……」
「国王陛下連れてまいりました」
車で十分足らずで国王の元についた
が、なんだかしょぼいな
「国王」というものだから、立派な豪邸の中に入るのだと思ったのだが……
「………」
「……………またか」
男は立ち上がりため息をつく
「申し訳ないな、国王陛下はただいまネットに夢中なようだ、この国が心配だよ……」
国王ですらネットにハマってしまったのか……
「………?」
「すまないな、事情もろくに説明せず連れてきてしまって……」
アズマが頭を下げる。
周りの男たちは座り込み呑気に喋って、
さっきまでの雰囲気とは違い、その場には和やかな空気が流れている
「………?」
「つい先日「マズレイ」という天使を名乗る男がこの国に訪れてな……」
「!」
「やっぱりその反応、何か知っているな……連れてきて正解だったよ」
城門で出会った男もマズレイの名を口にしていた。
あの時は入国時のあれやこれやで聞くことが出来なかったが、やはりこの国にもマズレイが訪れていたようだ
「まぁそりゃそうか、その黒い羽は?」
「………」
「ほう、記憶を……じゃあマズレイとはどんな関係なのか覚えてないのか?」
「………」
「マジかよ……やっぱり何もしなくて正解だったんだな……」
アズマは少し胸を撫で下ろしながらそう呟いた。
そんなアズマにこの国で何があったのか聞いてみる
「まぁそうだよな、一応話しておく」
「昨日の昼に突如空がパックリと割れたんだ」
後ろの男も話に入ってくる
「あーあれはマジでビビったわ、世界終わったと思ったもん」
「そしたら男……マズレイが降りてきて「御神の望みを叶えるため下りてきた」とかなんとか言って、信仰を広めようとしたんだ」
「それで国中大混乱」
「ネットもあまりの混雑に、サーバーがひとつ燃えたもんな」
「あれは火事屋が不憫で仕方ないよ……」
「………?」
「あぁ、すまん」
「それで国の判断としては1週間の期間を設け、その間に協議しあい、決定するってなったんだ」
「それがちょうど6日前」
じゃあ明日には……
「マズレイが来る」
「………?」
「国としての判断は進行を概ね認めるという話だが、国内世論は反対意見も少なくは無い」
「何も情報が少なすぎるからな~」
「俺たち治安維持部隊も判断をあぐねている状態なんだ」
「そこであんたが現れたんだ」
「色は違えど、羽がある、これだけでなにか掴めるんじゃないかと期待したんだがな……」
「今更国の判断をひっくり返すっていうのも難しい話だろうからな……」
場に重たい空気が流れる
「「…………ん?」」
車からうめき声がする
僕以外の人は素早く武器を手に取り、車に向けて武器を構えた。
「私……ん……………?」
車から顔を出したのは、さっきまで気絶していたエリナさんだった。
その場にいた全員が安堵の息を漏らし、武器を地面におろす。
「…………!」
その瞬間アズマの頭蓋が宙を舞った。
「!」
うめき声はひとつじゃなかった
もっと早く気ずけていれば……
エリナさんを抱きかかえひたすら逃げる。
アズマの仲間は武器を手に取り、反撃する。
アズマの体が引きずられて、車の方へと運ばれていく。
4mはあるその巨体の中心が開き、アズマの体を喰らう。
攻撃がやんだ。
恐怖のあまり、武器に引き金を引けなかったのだ
バキギャッボキッグギャッ
アズマの骨が砕ける音がする
仲間の目からは涙が流れている。
仲間を無惨な姿を想像して
口を開けたまま、何も出来ないでいる自分に泣いている。
咀嚼音が止むと体の中心から舌のような何かが隊員を襲った。
我に返った隊員は必死に攻撃を続けた。
あんな奴がいる以上、ここに安全な場所は無い。
エリナさんはまた気絶してしまっている。
気絶しているのなら多少乱暴しても怒られないだろう
窓に向けて走り出す。
後ろでは隊員が次々と喰われている。
断末魔もなく、骨ごと砕かれ喰われる。
窓ガラスを突き破り脱出を試みる。
「!」
が、想像以上に高い場所に部屋があったようで、体は真っ直ぐに地面へと落ちていく。
『ねぇ知ってる?』
『耳たぶあるじゃん、あれ動かせるんだって』
『なんか遺伝的な話で、昔はみんな耳を動かしてんだけど、だんだんその機能を使わなくなって、今ではその機能を使える人は極わずかなんだって』
『だから忘れてるだけで、いつかみんな耳たぶを動かしてるかもね』
「!」
落下するスピードが遅くなった
滑らかな風に乗りながら、前へ進んでいる。
後ろを見ると、黒く、大きな羽が生えている。
皆が言っていたのはこのことだったのか……
動くかな……
「!?」
右の羽がパタンと閉じた
この羽は自分の意思で動かせる
「…………」
だからなんなんだ
このままゆっくり降りれればそれでいいのだ
両腕にエリナさんを抱えたまま、ゆっくり地面に足をつける
「…………ん?」
あ、起きた
「私なにがどうなってるの?」
生きてますよと伝え、ビルから飛び降りて、羽で飛んだことも話した。
「え!羽で飛んだの!?やっぱり飾りじゃなったんだね〜」
確かにこんなに大きくてなんにも役に立たないのはちょっと……
バリーン
上の方で何かが割れる音がする
まさか……
「え?ちょっと速い!」
エリナさんの手を強引に引っ張って、この場から逃げ出す。
「〜~~〜~~~〜~~」
言語化できない絶叫があたりにこだまする
「え?なにあれ!?」
アズマを喰ったやつが、こちらに向かってきている
エリナさんは困惑しながらも、必死に走っている
左に曲がり、路地に入った
大きな建物が並び、道幅も狭い
これで少しでも距離を開ける……と思ったのだが
「ギャーーーーーー!!!」
建物をなぎ壊しながら追ってくる。
「無理無理無理無理!!!」
路地を抜けて10分
やつの視界から逃れることに成功した。
息を荒らげて座り込むエリナさん
20分以上走り続けたのだ無理もない
「……!」
なにかの気配を感じた。
気配の方に目をやると、人が立っている。
「何してるのあの人」
エリナさんも気配に気づいたようだ
やつを見ているのか、僕らを見ているのか
どの道早く逃げないと、建物ごと死んじゃう……
「死んじゃうよ!さっさと逃げなって!」
エリナさんが、張り裂けんとばかりの声量で逃げるよう促す。
だがあの人たちは動かない。
よくみると、アズマが持っていた端末と同じものをこっちに向けている。
「動画撮ってるの?」
動画……
「〜~~〜~~~〜~~~」
エリナさんの声で居場所がバレてしまったようだ
絶叫が猛スピードで近づいてくる
「ごめんなさ〜い!!」
「こっちだ!」
「「!?」」
向こうの建物から男が手を振っている
エリナさんと僕は今日最高時速をマークして、男がいた建物へ入った!
「この下だ!」
勢いそのまま階段を駆け下り、男のいる部屋へ入り込んだ。
「息を殺してじっとするんだ……」
「…………」
上でやつの地面を擦る音が聞こえる。
間違いない、真上に奴がいる
ズズズズズ……
音が次第に遠ざかっていく
そして完全にしなくなる
「行ったみたいだな」
「ありがとうございます……」
「まぁ仕方ねぇさ、しかし兄ちゃん、その羽って…」
男は俺の羽をさわる
「おぉ……すまねぇ」
「おじさんは?」
「おじさんって俺まだ32なんだけどなぁ……」
「……?」
「俺はこの地域のネットを管理してる者だ」
「ネットってこの国の?」
「まぁカバーできるのはせいぜい壊された町二つ分ぐらいかな」
二つ分ってかれこれ20分走ってだから……
「そこそこだね」
「まぁな」
「……?」
「途中にお前らにカメラ向けてたやつがいただろ?」
あ、あれか
「アイツらがネットにお前らを上げてたんだよ」
そう言って男は僕とエリナさんが走っている映像(?)を見せた。
「これを見て助けれるって思ってな」
「おじさん……」
「おじさんは余計だ」
「…………」
僕はここで何があったのか、わかる範囲全てを話した
「そうか……アズマが…………」
「アズマってあいつ?」
「いや、お前らには関係ないな、ありがとう……えっと」
「私がエリナでこっちがジノッチ」
「…………」
「あぁジノンだな、俺はユウイ」
「ユウイね」
「急で悪いが早く国を出た方がいい」
「……?」
「化け物が居るから?」
「それもそうだが、この国はもうじき終わる」
国が終わる……?
「アズマから聞いてるよな、マズレイがこの国に来てから世論は大きく傾いている、国王もネットから出てくる気配は一向にないし、他の国民だってそうだ、俺たち仕事人以外は3日家から出ないなんて当たり前だそうだ」
「堕落しきってるんだね……」
「あぁ、だからこの国を出る、だからそれまでにあんたたちを先に逃がしたいんだ、何が起こるかわからねぇ以上、関係ないのを巻き込むのもやなんだ」
「…………」
「どうやって出るの?」
「あんたらが乗ってきた車があるだろ、俺の知り合いのとこに預けてるらしいからそれで東の門まで走ればいい。あとは出国の手続きをすればいい」
けどまだやつがウロウロしてるんじゃ…………
「それは街中にある目を利用する」
「目?」
「今ネットでは化け物がどこにいるかリアルタイムでアップされている。それを見ながら行く」
「どれぐらいかかる?」
「任せとけ、国一番の走り屋がもうじき来る」
「…………?」
走り屋?
遠くからなにか聞こえる
化け物じゃないがとても速い……
「来たか」
階段を上がり外に出る
「うっわー」
「ユウイさんお待たせしました」
「早速で悪いが、こいつらを連れて行ってくれねぇか」
「わかりました、どうぞ乗ってください」
エリナさんと僕は後ろの席に乗る
羽があるから窮屈……なんてことはなく、羽が椅子をすり抜けている。
どういう性質なんだ?
「では、シートベルトをしててください、ぶっちぎって行きますよ……!」
「……!」
走り出した途端、体が後ろに押される
少し椅子にめり込んでいるんじゃないかって言うぐらい強い
横を見るとエリナさんが椅子に半分体をめり込ませている
とても強い力で押されること3分
力が弱まる
「はい、到着です!」
気がつくと車は止まっていた
「…………あれ、もう着いたの?」
エリナさんも驚いている
「はい、僕はレーサーなんで、普段20分の道を今回は3分でやってみました!」
「それってだいぶやばい?」
「そうですね、この国でこんなことは僕以外できません!」
明るく元気なやつだな
車をおりて、レーサーの男に手を振る
「それではこれで」
そう言ってまた走り出した
「速いね……」
「…………」
客観視してみると、より車の速さが見えて、あれに乗っていたと考えると、また違った恐怖を覚えた
「じゃないわ、車だ車」
振り返り、少し大きな建物に入っていく
「失礼しまーーす」
「おぉ!待ってたよ」
大柄な男が4人ぞろぞろ集まってきた。
「この車の主かい?」
「え、えぇはい」
すると急にエリナさんの手を取り泣き出す
「すげぇの持ってきてくれてありがとう!」
つられて他の男も泣き出す
「えっええ!?」
「俺たちよ、車が大好きでこの国の車全部見尽くして飽きてきたんだ……そんな時現れたのがこいつだ……」
涙ながらに指さすのは、僕らが乗ってきた車
なんだか前見た時より綺麗になってる
「俺らワクワクしてよ「見たことねぇ車だー」って、そしたらめちゃくちゃ難しくて、久しぶりに本気出せてよ……」
また泣いてしまった
「ありがとう!心から感謝させてくれ、ありがとう!」
「「「ありがとう!!」」」
男たちが一斉に頭を下げる
「あ、えぇ……大丈夫ですから、頭上げて……」
さすがのこの展開にはエリナさんも動揺している
「すまぇね……ところでこの車の名前は?」
「名前……?」
「種類のことだ、こんな車カタログにも見たことねぇ」
取り出したのは、この国のものでは無いカタログ
おおよそ車はどの国も同じ基盤というのだが、そのどれにも属していないという
「分からないなぁ、お父さんから引き継いだ車だから……」
「そうか……ま、仕方ねぇな!」
男は豪快に笑い、修理が終わった車の箇所を教えてくれた。
「ここは意外と脆いんでな……こんなもんだ」
「ありがとうございます!」
「いいってことよ!もちろんおだい入らねぇぞ」
「いいんですか?」
「あぁ、その代わり、親父さんに会ったらこの車の製造元だけ聞いてくれ」
こうして熱い男たちに見送られて車庫を後にした。
にしても椅子やハンドル、車の中まで綺麗になっている……
車からなる音も少し軽くなっているように思える
整備ひとつでここまで変わるのか……
「あれじゃない?」
エリナさんに肩を叩かれ、前を向く
前には白く大きな壁が見える
入ってきた時と同じ感じだ
「すみませーん!」
エリナさんは車から降りて大声を出す
入国時同様、壁が開く
「出国ですか?」
「はい」
「でしたらこれにサインを」
「……はい」
「ありがとうございます……次はないでしょうね」
仕事人は僕らの出国を機にみんな国を捨てると言っていた。
おそらくこの場所で同じ国はないという意味だろう
男に一瞥し、国を出た。
「次の国は………」
地図を見る
1番近いのは、この森の中の国
名前は……
「ドンマコー?」