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芸術の地区へ、いざ出陣!(参)

「ふぅ〜、お腹いっぱい! ありがと、鶯!」


「……同じ臓器を持ってるとは思えないな」


「店出て第一声がそれ〜?」


 ぷくっと頬を膨らませるが、それでも満足げな表情をしている。どうやら、元気になったみたいだ。


「もう暗いね〜、宿は?」


「野宿だ。安定の」


「デスヨネー」


 〈裂守〉は、まあ所謂公務員のようなものだ。そんな豪勢に経費を使えるわけではない。しかも、旅路なんてほとんど野宿だったし、なんだかんだ慣れてしまった。

 さくらが天を仰ぎ、鶯もつられて上空を見る。


「ここも、〈伊勢国〉と変わらないなぁ……。おんなじ星空だ」


「……そうだな」


 壮大な星空にとって、どんなに雰囲気が変わろうと、地区の一つや二つ些細なものなのだろう。二人にしては珍しいほどの静寂が、夜空への感動と、断念を語っていた。


「さて!」


 静寂を破ったのは、さくらだった。くるっと振り返り、輝きを宿す乾鮭色の瞳で、鶯を見る。


「明日だっけ? 〈湧泉祭〉」


「ああ」


「なら、夜更かしは禁物だね〜。んー、でも……こんな綺麗な街並みがあるのに、調査漬けっていうのはもったいなくない? 遠征が終わったら中々見に来れないし……えへへっ」


 さくらはくしゃっと笑うと、悪戯っぽく言った。


「もう少しだけ、街歩きしない?」


 星空の如き艶を持つ黒髪が揺れ、切り揃えられた毛先が踊った。少し黙ったのち、鶯が口を開いた。


「今日は大半観光だったけどな」


「ねー! 雰囲気台無し! 今さ、すっごいエモい雰囲気じゃん! 良いお姉さん感あったじゃん!」


 不思議そうに首を傾げる鶯。しかも、何も言ってこないあたり、本当に困惑してそうだ。


(あぁー、そうだ、こーゆー男だった……!)


 さくらが、心の中で地団駄を踏む。


「何を言っているかは分からんが、さっさと寝るぞ。ここよりも少し上の、あの山の麓だったら、誰にも迷惑はかけないだろう」


 鶯が指差した方を見る。旅館はおろか、古民家すら見当たらないし、おそらく大丈夫だろう。神社も特にないし、肝試しに来る子供たちもいなさそうだ。前、〈伊勢国〉の神社の近くの木の上で野宿していたら、子供たちが木の上に死体があると大騒ぎし、かなり泣かしてしまったため、反省している。


「んじゃ、行こっか」


 二人は移動し、遠征の支給品として渡された寝袋に入った。夏場だが、そこまで寝袋の中は暑くない。逆に冬場だったら大変そうだなぁ、とぼんやり思いつつ瞼を閉じた。

 暗闇に包まれ、思考の泉に浸かりながら、睡魔を待った。〈湧泉祭〉では、花火と共に灯籠を川に流し、海に流れ込むまで、人々が雅楽を響かせながら、神楽を舞うのだとか。そして海に流れたら、(かんなぎ)が〈幽世〉へ泉を流す。あの女の人の口振りから、おそらく伝承のように曖昧なものなのだろうが……明日、(かんなぎ)に彼岸がどういうものか聞いてみよう。

 〈幽世〉への道、彼岸。伝承というのがそもそも、冠婚葬祭の文化として、特色として継ぐもの。なぜ継がれるかというのも、当時の権力者が権威を見せるための場合が多いが、伝承となるまでに続くのは、何かしらの“思い”がなくてはならない。

 この地に眠る“思い”は……なんだろうか。

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