効果絶大!よく効くお祓いの噂を聞きまして
「これは厄年? 最近どうも調子が悪い……」
S子はそう呟き、ため息をついた。最近、事故、病気、金欠、仕事上のトラブル賀続いていた。副業でライト文芸作家もやっていたが、SNSで誹謗中傷されたり、コミカライズした漫画家が編集部の内情を暴露し、炎上騒ぎに巻き込まれたり。ふんだり蹴ったり。
「これはお祓いするしかないね」
S子はそう決意し、よく効く噂の拝み屋や神社を探す事のした。S子も「千葉県柏の拝み屋さん」や「フナバシ大神宮の神様のお仕事!」などというご当地×神様モノのライト文芸を書いた事があり、一般人よりはスピ系の知識があると自認していた。
こうして作家仲間から聞いた京都にある拝み屋へ出向き、お祓いしてもらった。読者から念を送られ、逆恨みされていたらしい。拝み屋は祝詞っぽい呪文を唱え、祓ってもらった。
その直後、みるみる身体が軽くなり、京都観光も楽しんで帰ってきた。作家業の仕事も舞い込み、各種トラブルも落ち着いた。
「効果絶大! この拝み屋ガチだわ!」
S子はSNSに書き込み、平穏な日々を楽しんだ。
しかし三ヶ月後。真夏のとても暑い日。自宅の郵便ポストに封筒が届いていた。A4サイズの一般的な封筒だったが、裏をひっくり返す。
「は? 送り主が悪魔(バアル、または金の子牛、嘘つき、殺人者、詐欺師、偽りの父)って何? イタズラ?」
送り主の住所は書いてなく、変な名前が。まさかイタズラか。読者には自宅の住所なんて分かるはずもないのに。
自宅に帰ったら、一応封筒の中身を見てみた。
「何これ? 契約書? は?」
中身は契約書だった。拝み屋で祓って貰った日の事が書かれており、悪魔(バアル、または金の子牛、嘘つき、殺人者、詐欺師、偽りの父)と契約した旨が書かれていた。
契約期間は一生。地獄に行くまで続くとある。その間、仕事や健康、経済の繁栄は保障するが、人間関係(結婚、家族)と子孫の祝福は奪うという。
「は? 何この契約書は。意味不明、イタズラでしょ?」
S子はこの契約書を破って捨てたが、なぜか実家の両親が事故にあったり、兄が頂き女子に騙されたり、また不運が再開してしまう。
「まさかあの拝み屋に何かある?」
そう思ったが、なぜか拝み屋の公式ホームページの消え、エロサイトの広告だけ出ていた。作家仲間にどういう事か聞いても答えはなかった。
一方、仕事はやけに順調だった。「俺は蛇神になって追放した邪神に復讐します!〜ねえ、イブちゃん、禁断の林檎食べよう? あなたは目が開いて神になれるよ?〜」というネット小説を書いたら瞬く間にランキングが上位になり、完結もしていないのに書籍化とコミカライズが決定した。他にも既刊に大重版がかかったり、売れない作家だったのに急に状況が変わり、戸惑う。
そしてまた謎の契約書が送られてきた。「この仕事の成功の変わりにあなたの寿命を十年分いただきます」とあった。
「いや、本当に何これ? 一体何なの?」
原因不明の悪夢や金縛りもあり、S子はすっかり精神的に参ってしまったが、そんなある日。
再び作家仲間に頼り、よく効くお祓いをしてくれる女性に会う事にした。その女性はクリスチャン。牧師の娘で無償でエクソシストをしているという。
さっそく教会へ出向く。正直、キリスト教に良い印象はないが、教会は図書館のような地味な建物で、その女性の見た目も全く普通で拍子抜けした。女性の名前はM子という。
教会の礼拝堂で事情を話すと、M子はウンザリしたように頭を抱えていた。
「あなた、知らず知らずのうちに悪魔と契約しちゃったかも知れない」
「は? 嘘?」
「神社や拝み屋でするお祓いってそういうものなのよ。いわばジャイアンがスネ夫を追い返すようなもので、根本的解決にはならない。そのうちヤクザのように金品や寿命を要求しはじめて大変な事になるわ」
「そ、そんな……」
心当たりがありすぎる。確かに悪魔と契約したつもりはないが、ネット小説で書いたものは明らかに聖書を馬鹿にするものだったし、あの契約書の内容も……。
「どうする? 一応キリストに心を開き信じるっていうなら契約解除のエクソシストするけど?」
「いえ、でも」
「こういうお祓いは結局、最強のドラえもんに頼らないと無理ね。どうする? ジャイアンを怖がって無力なのび太のままでいる?」
そうは言っても。少し迷ったが、今はなぜかM子の言う事も本当じゃないかという気もした……。
「お、お願いします」
「本当はエクソシストなんて誰でもできるから、次からはご自分でやってね?」
M子はそう言うと、祈りの言葉や聖書の言葉を口にした。聖水やロザリオなどは使わず、持っているのは聖書のみだった。
「S子さんと悪魔の契約は聖霊の火で燃え尽き、キャンセルされよ!」
そうM子が言った時だった。
S子は幻を見た。あの契約書が炎に包まれ、全部灰になってしまった幻を。
「あぁ……」
S子はその場で倒れ込んだ。今までとは全く違う安心感が襲い、意味も分からず涙が出てきた。まるで大好きな両親に抱きしめられているような感覚で、ようやく帰るべき所へ帰れた気分……。
「いや、これは……」
S子は言葉がない。
「さっきも言ったけど、今度からは自分でやってね? 他のスピや宗教違ってこっちは悪魔退治もお仕事なのよね」
M子は平然と語っていたが、S子はポカンと口を開けていた。
「これは、これは……。このお祓いはガチ!?」
契約は解除できたようだが、S子は戸惑ったままだった。