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第二ステージ始動

「―――一体どうやって、対戦相手が決まるんだろうな!」


翌日の学校。

昼間になると、例のごとく現代じゃんけんで熱狂に包まれた。


「うぉ、なんか位置情報訊いてきたぜ、このアプリ」


対人戦である第二ステージの相手の選出方法は、現代じゃんけんのアプリに搭載されている機能によって決まるらしい。

どうやら物理的に近い相手と組まれるような仕組みになっており、

回戦を重ねる毎に徐々に遠くの相手と当たるような具合なのだろうとの事だった。


なので学校においては、生徒は生徒同士、職員室に居る先生方は先生同士の組み合わせ。


って、もし周りに誰も居なければどうなるのだろう。

と思ったが、そういう時はオンラインでも可能なはずだ。


ちなみに僕の最初の相手は、隣の席の理沙だった。



―――”現代じゃんけん大会第二ステージが開始します”


死闘の火蓋が切って落とされた。

第二ステージ一回戦。


人と人とが戦い交じる、遊戯の真骨頂である。


専用のアプリを開いたままにしていると、アンテナのマークが表示されて、

周囲のアプリユーザーの位置情報を獲得。

そしてその情報を元に、対戦相手を探し、最適な組み合わせを弾き出した。


「よろしくね、空富士」

「うん。こちらこそ」


弁当箱を開きながら、お互いが戦いの意思を確認した。


制限時間は5分。


はて、どうやって現代じゃんけんを攻略すればいいのだろうか。

遊戯が開始してから、そうやってのんびりと思考を開始させた。


意外と5分って長いな。

なんて頭の中で呟いてしまった。


やはりこういう時には四回戦までで問われた心理学や、確率、情報を駆使して戦いたいのだが、

正直な所、彼女にはあまり欠点のような箇所が見当たらず、こう、つけこめる隙間がない。


彼女も特に僕に何もしてくることはなく、ただただ時間が過ぎていく。

少し経過すると、僕達は弁当を食べ始めて、他愛もない会話をしていた。


「あ、今日もサンドイッチなんだ」

「うん」


今日はツナの入ったサンドイッチ。

シンプルだけど飽きない美味しさのせいで、いつでもどこでも食べたくなる。

僕は基本的に弁当にはパン派だ。

それも断然と形容されるほどの。


その理由は極めて簡単。

白米だと固くなって、どうしても味と食感が劣化してしまうから。

最初の頃は我慢していたのだが、途中からご飯に対して失礼に思えてきて、お母さんにパンとお願いしたのだ。


「うげ、また白米じゃん」

「失礼ね、パンより白米の方が美味しいし」


理沙は相変わらずの白米。


「今日は手作りなの?」

「少しだけね。このおかずとそっちの一品だけ」


と、彼女は小さな可愛らしい弁当箱の中に人差し指を指した。

その細い指先には、


美味しそうだ。


「いる?」


どうやら僕の顔を見て、察したのだろう。


「いいの?」

「サンドイッチ一つと交換なら」

「はい、これ」


彼女と僕は弁当を食べながら、他のクラスメートが現代じゃんけんをしているのを見ている。


「みんな、やってるね……もぐもぐ」

「うん……ばりばり」


そこには色んな戦術を駆使して昼休みの時間に戦うクラスメートの姿が映る。

心理戦に持ち込もうと喧嘩まがいのことを口走ったり、

数学の教科書を開いて確率の概念をおさらいしながら現代じゃんけんに挑む者

はたまた、相手の癖を探るためにだろうか、体を半ば密着させてながら敵の動作を観察する者もいる。


錯綜する現代じゃんけんのスタイルが教室中に迸っていて、観戦するだけでも面白かった。

そんな感じで僕達は現代じゃんけんを完全に放棄、観戦とただの昼食の時間に成り下がっていた。


―――”結果発表”


それから数分後に結果発表の時間になった。


同時に学校内で地震のような微かな揺れが起き、耳を刺激する騒ぎもあった。

ガッツポーズをして勝利を祝ったり、負けて泣き喚く生徒だったり。


そんな中で僕達は全くの冷静を保ちながら、お互いの結果を確認していた。


「あれ、ねぇ、見てよこれ」

「どうしたの?」


そして結果画面を見ると、そこには


―――”エラーが発生しました。もう一度対戦をしてください”


と赤く書かれた文字で通達が入っていた。

どうやらバグか何かなのだろう。


「ちなみにさ、何出した?僕はチョキだったけど」

「そうなんだ。私はグーだったよ」


つまり。


「ってことは僕は負けていたってことか」

「そうみたい」


そんな結果を知っても、お互いの表情には一喜一憂はしなかった。


「どうしてチョキて決めたの?」

「だって、あんたの名前は鋏じゃん。だから鋏出すのかなってさ」

「なるほど」


言われてみれば、僕は無意識的に出したのだろうか。

全く見当すらしなかった。


第二ステージにおける引き分けは、両者が負けとして扱われるので、

バグ以外は全ての試合は消化されていったのだ。


そうすると一組だけバグのせいで現代じゃんけん大会の進行が滞ったらしい。


「おい、あいつらだってよ、バグを起こした奴」

「まじかよ」


みんなの注目がこちらに集まってきた。


がやがや

がやがや


「それじゃ、もう一回しよう」


制限時間が自動的に始まり、選択肢が表示されると、彼女は


「ううん。別に私あんまり興味ないからさ、勝利譲ってあげるよ」

「いいの?」

「別に現代じゃんけんとか好きじゃないしさ」


彼女はかなりどうでもいいらしい。

正直僕もそこまで真剣ではないので、同意である。


「でも僕もそこまでやる気あるわけじゃないから」


だから提案してみた。


「どっちが勝利を譲るか、じゃんけんで決めよう」

「……なにそれ、現代じゃんけんの勝敗をじゃんけんで決めるっていうの?」


言われてみれば、何だこの状況は。


「それじゃ、適当にやろ」

「分かった」


二人は目を閉じて、適当に選択肢を選んだ。


ちなみに現代じゃんけんでは無作為に選ぶという選択肢は無い。


「よし、選択肢選んだよ〜」

「僕も選んだよ」



―――”奈良園理沙 パー”


―――”空富士鋏 チョキ”



―――”勝者 空富士鋏”


―――”おめでとうございます”



結果は僕の勝ちだった。


「あ、僕の勝ちだ」

「……」


理沙はこっちを向いて、呆れた表情を浮かべている。


「……って、あんた、またチョキ出したの?」

「うん、適当にやったら、鋏が出てきた」


「まさか二連続で同じ手を使うなんて、予想外だったわ」

「僕もまさかと思った」

「……」


という感じで、偶然の力によって僕は一回戦を勝ち抜いた。



「―――ねぇ、もう一つサンドイッチ頂戴」


二人は勝利の結果などどうでもよく、現代じゃんけんを済ませると、昼食の時間へと戻っていった。


「いいけど、次はそれ欲しいな」

「これがいいの?う〜ん、仕方ないわね」


そんな茶番を見せられていた周囲のクラスメートは気落ちし、

直ぐに各々の席へと戻っていき、普通の昼食の時間になっていった。



グラスの画面に表示されている大会の生存者数の推移。

一千万人から、500万人弱へ遷移。


一億人いた生存者数はまるで嘘のようだ。



―――それから数分経過。

第二ステージ二回戦が始まった。


「久しぶりですね、空富士君」

「うん、久しぶり」


あまり接点のないクラスメートと会話をこうやってしているのは、現代じゃんけん大会のお陰だった。

前回と同じ様に位置情報を用いて、最適な組み合わせをアプリが見つけ出した。

その結果、僕の前の席の女子が選ばれた。


紀伊島花

彼女は成績優秀、特に理数系の科目が得意で、いつも定期考査などでは上位に食い込むほどの人物。

でも体育とか運動系はあまり得意ではないらしい。

教室では輝いているのだが、体育館やグラウンドではいっつも、彼女の真上に曇天からストーキングされている。


「それでは勝負を開始しましょう」

「うん」


お互い席に座りながら、机を挟み対面する形で対戦している。


「頑張って、空富士」


横からあまりやる気の無い応援が掛かってきた。

理沙は適当に弁当を食べながら、こっちを観戦しているようだ。


彼女はこれまでの戦いを勝ち抜けてきた人物だ。

油断は出来ない。


……といっても、昨日は運任せで僕は勝敗を決めてしまったけど……


彼女は直ぐに長考に入ったようで、こちらの方には視線を傾けずに、ただひたすら自分の世界に入り浸っている。

どうやら机に置かれている教科書や参考書類を見る限りだと、何か計算をしているらしい。

これまでの僕の戦歴などはアプリ上から見ることが出来るので、それを参照しながら、確率でも計っているのだろうか。


「……」

「……」


僕は彼女の方に体を向けながら、その計算過程を盗み見ていた。

といっても数学に疎い僕にとって、それは宇宙人の言語である。

全く彼女のやっていることが理解できない。


「出来た!」


彼女は計算を終えると、大きく声を出して、天井に両手を掲げた。


「あんた、やばいんじゃない?」

「うん、やばい」


「それじゃ、早速選んでっと……」

「……あ!」


早速計算を書き連ねたノートを僕に隠しながら、彼女が現代じゃんけんの手を選んだ。


「ど、どうかしましたか?」

「え、えっと、何でもない……」


でも彼女は幾つかの大きな欠点があるように思える。

まず相手以外を見ておらず、自分を完全に優先しているということだ。

二つ目に、これも同じようなのだが、彼女自身に癖があるという事実に気づいていない。


「今、彼女は目線を……」


現代じゃんけん手の選択した時に、目線を使って選択してしまったのだ。

右に視線を送り、三択の一つを選んだのがはっきりと見えてしまった。


もし彼女が手で選択すれば、今僕は絶望の淵に佇んでいた所だった。


「まぁ、勝てるなら、勝とうかな―――」

「―――ちょっと空富士、あんた本気で勝つつもりなの?」

「へっ?」


選択肢を選び、決着をつけようとした時。

突然、隣の席に座る理沙から、耳打ちされた。


「今、私も見ちゃったのよ。彼女が目線で操作してた所」

「や、やっぱり……」


つまり相手の選択肢は当然、パー。


「負けてやりなさいよ、可哀想じゃん」

「え、で、でもさ……」


催促されてしまった。


「あんた、別にやる気もあんまりないんでしょ?」

「まぁね……」


それは否定できない事実だった。

正直に言うと、僕よりも対戦相手の方が圧倒的に情熱を持ってこの現代じゃんけんに取り組んでいる。

あそこまで計算して、それで答えを導き出したんだ。


「どうしようかな……」

「悩んでるなら、私が選んであげるわ」

「え?」


僕が決めかねていると、彼女が席から立ち上がり、僕のグラスに手を伸ばしてきた。


「ちょ、ちょっと!」

「いいじゃない、負けてやりなさいよ」


「な、何するの、うわ!」

「ほら、私が押してあげるから、じっとしてなさい」


対戦相手が見ている前で、取っ組み合いに発展。


「あ、あの、どうしたんですか?二人とも?」


「ちょっと事情があってね……」

「そ、そんなんだ……」


「……それにさ、ほら、彼女が現代じゃんけん大会に勝ち進んだほうがさ、未来ありそうだし」

「た、確かにそうかもだけど……」


それも否定できない。

ただ、他人から選択されるのは、あまり良い気分じゃない。

後、敢えて負けても相手の為にはならないし。


「大人しく、観念しなさい!」

「い、嫌だ!」

「だ、大丈夫ですか?」


―――気付けば、制限時間まで十秒。


カチ。


「「あっ!!!」」


そんな感じで取っ組み合いになっていると、偶然、理沙の手がチョキの選択肢に触れられてしまった。



―――”紀伊島花 パー”


―――”空富士鋏 チョキ”



―――”勝者 空富士鋏”


―――”おめでとうございます”



「わ、私の究極的な計算が……」

「か、勝っちゃった……」


今度は幼馴染の手によって勝利を収めた。


第二ステージ二回戦後に、さらに生存者数の情報が更新された。

500万人弱程度から、250万人弱へ。

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