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現代じゃんけん第一ステージ二日目

―――翌日の正午。


今日も相変わらずの騒ぎが続いており、授業中、みんな落ち着かない様子だった。


どうやら歴史の先生も現代じゃんけん大会で勝ち進めたみたいで、正午を迎える四限の終盤あたりに差し掛かると、早めに授業を進めてきた。


授業内容は日本史である。

丁度今、江戸時代辺りを彷徨さまよっている。


「ええ〜、徳川幕府は、関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康が、1603年に征夷大将軍に就くことで始まりました」

「ふむふむ……」


「あんた、珍しいわね。授業中に起きてるなんてさ」

「し、失礼な」


僕が真面目に日本史の授業を受けていると、隣の席の理沙が、世界の七不思議の一つでも目の当たりにしたような顔で、そう言ってきた。


「今日は寝ないの?」

「ううん。昨日の夜にグラスが不具合を起こしたらしく、着信音が入らなくて。それで、ぐっすり眠れたんだ」

「あ、そうなんだ」


今日は久しぶりに朝気持ちよく目が覚めて、それで学校にも遅刻しなかった。

そして授業にも熱心に取り組んでいるっていうわけだ。


「えぇ〜、それから果てしなく時代が進み、今から半世紀以上前に現代じゃんけんが考案されたということですね」

「?」


さっきから時間軸が無茶苦茶になっているような気がするのは僕だけなのか?

江戸時代から現代になったり、一体、どうなっているんだ?


そしていつから現代じゃんけんは日本史の一部になったんだ?


「つまりですね、これが江戸幕府の鎖国の理由になるわけです」

「やっぱりそうだったんだ」

「日本史って深いわね」


……ちょっと待て。

たった今、脈々と受け継がれてきた日本の歴史が改定されなかったか?


「……」


と思い、周囲を見渡すと、やはりみんなは必死に、黒板に書かれた内容をノートに写している。


「ふむふむ、江戸幕府が鎖国した理由は、現代じゃんけんのせい、っと」

「これ絶対にテスト出るよな」

「ああ、間違いないわ」


「僕は夢でも見ているのか……?」


そして歴史の教員は最後、壁時計に一瞥を送ると、


「それでは、これで―――」


がらがら。

教室の扉が開かれた。


「やべっ!遅刻する!」


さっさっさ。

校則を思いっ切り破りながら、廊下を颯爽と駆け抜ける先生の姿。


「「「……」」」


そして窓から顔を覗かせ、その後ろ姿を見て、静まり返る教室の生徒達。


キーンコーンカーンコーン。


昼休みを伝える鐘の音よりも早く、教師はそそくさと教室から去っていった。




「―――はっ!!!」


その騒音で、急に別世界で目覚めた僕。


「ど、どうかしたの?空富士?」

「え!?」


隣の理沙が驚いて、声を上げた。


あれって夢だったのか?

やっぱり?


「僕って、さっきまで寝てた?」

「さぁ?」


理沙は首を傾げ、僕の発言に困惑している。


不思議な感覚だ。

まるで現実でも見ていたような。


がやがやがや。



「―――先生もこれから現代じゃんけんするんだろうね」

「ああ、間違いないね」


「職員室でもかなり盛り上がってたぜ」

「うそ、ってことは校長先生もやってるのかな」


教卓に近い席のクラスメートが声高に話している。

小さくなっていく先生の背中を生徒達が追いながら、そう噂していた。


「空富士、早くログインしなきゃ」

「ああ、そうだった」


時計を見ると時刻は正午。

いつものように現代じゃんけんアプリにログイン、大会専用のページに入った。


「よし、ログイン完了!」

「私も出来たわ」


そして、



―――”現代じゃんけん大会第一ステージ二日目へようこそ”


「待ってました!お婆ちゃんロボ!」

「また会いたかったよ、お婆ちゃん!」

「ちょっと、変な声出さないでよ」


クラスの不良がお婆ちゃんを愛らしい声で叫んだ。

どうやらマスコットキャラクターに人気が出てきたようだ。

昨日まではいじめられていたのに。


「ふふふ……それでは行きますよ」


「―――それじゃ、私は、この手を出しますね」



そして次の対戦、つまりまた問題だった


昨日同然、相変わらず相手はパーを出すと主張。

それに加えて、一つだけ真新しい違いが追加されていた。


所謂、確率の概念の紹介、とでも言うのだろうか。


じゃんけんロボの脇に、戦歴が表示されている。

過去9回戦って、9回連続して勝利。

出した手は、全てパー。


そして10回戦目も同じくパーを出し、このじゃんけん大会出場者と同時に対戦をするということになる。

じゃんけんロボは先程とは打って変わって、顔を歪ませることなく、普通のロボットの冷徹な表情を貼り付けている。


さらに画面には、


”素直に答えてね”


とメッセージまで表示されている。


つまりこれは、正直に過去の戦歴を頼りに、チョキを出せばいいという結論が出る。

再びじゃんけんのレベルが上昇していく。


「いや、やっぱり9回も連続で出したんだ、流石に10回目は違うのを出すだろう」

「そうかなぁ」

「ああ、ひっかけ問題だよ、これは」


周囲では、現代じゃんけん二回戦の答えの真偽を巡って、白熱した議論が交わされていた。


ひっかけ問題派。

そして、

そのまま派。


真っ二つに割れた。


その間、僕達二人はというと、


「別にそこまで深く考えずに、テキトーでいいか」

「うん、私もテキトー」


「「チョキ」」


という感じで、議論に混ざり合うことはなく、適当に選び終えていた。


そして数分後。


「これは、ひっかけ問題だね」

「いいや、違うよ」

「ひっかけ、だ」

「違うよ」

「ひっ」

「ち」

「「このやろー!」」


教室内で胸ぐらを掴んで争いにまで発展する始末だった。


制限時間まで後10秒。


「「うわっ!」」

「早く選ばないと!」


白熱している二人はそのアナウンスで我に帰り、急いで選択していた。



”正解はチョキ”


「ほらな!やっぱり引っ掛けじゃないって!」

「そ、そんなぁ!」


一人の生徒が床に崩れ落ちた。


第一ステージ三回戦が終了。

アプリ内で生存者数を確認して見ると、


9000万人から、7000万人へ。

ってかなり減ってきてるじゃん。




―――同じ様に学校の昼休みも後半戦に移行。

現代じゃんけん第一ステージ四回戦、つまり次の対戦である。


「ふふふ……それでは行きますよ」


お婆ちゃんロボが宣言した。


「―――それじゃ、私は、この手を出しますね」


するとあいも変わらずパーを出すのは同じであるが、

今度は、お婆ちゃんロボの脇に、異なるじゃんけんロボが立って口を開けている。

さらに、


”彼女は嘘を付く時に、舌を出す”


と枠付きで表示されている。


「……」


つまりやっと、現代じゃんけんを彩る、社会性の概念が紹介された、

ということだろうか。


まぁ、情報戦とも言えるだろう。


そしてその情報通りに、画面中央のじゃんけんロボは、ペロッと舌を出して、にやけている。


それならば、答えは明らかである。

舌を出し、癖を晒してしまったじゃんけんロボは嘘を付いている、それで最終的な答え。


パーを出すと宣言して、こちらにチョキを誘っている。

しかしそれは嘘なので、相手はグーを繰り出すはず。

最終的にそれに勝つ、パーが正解。


”現代じゃんけんの手を選択してください”


画面に表示される選択肢を指で選んだ


”パー”


例のごとく教室では混乱が巻き起こる。


「どうせ、この後ろの奴だって、スパイに決まってるよ」

「いいや、単純に親切な人だって」

「スパイだ!」

「親切な人!」

「スパイ」

「親切」

「す」

「「てめぇ!」」


似たような人達が似たような交戦を繰り広げ、答えを争う。


そして数分後の結果発表。



―――”お婆ちゃんロボ グー”


―――”空富士鋏 パー”



―――”勝者 空富士鋏”


―――”おめでとうございます”



「スパイじゃなかったのかよ!」

「当たり前だろ!」


そして脱落者が増えていった。



「―――見てよ、これ」

「なになに」


これで現代じゃんけん第一ステージが終了。

アプリ内で生存者の数を見てみると。


7000万人から、5000万人


「半分じゃん!」

「うん、かなり減ったわね」


しかしながら教室を見ると、そこまで脱落した生徒を確認出来ないけど。


まぁ、この世の中には色々な層の人が現代じゃんけんに参加しているんだし、意外と僕達は優秀なほうなのか、と一瞬だけ思ってしまった。

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