緒戦終了後の夕方
―――帰宅後の夕食。
「どうだった?今日のじゃんけん……じゃなくて、現代じゃんけん大会の方は?」
姉と母親、僕、そして車椅子に座るお婆ちゃんが、リビングの机を囲んでいる平和な光景が広がる。
そして母親が口を開いた。
「あ、私負けちゃったよ」
「そうなんだ、私も」
姉と母親は既に脱落したとの事だった。
すると、姉がこっちに向いて、
「鋏はどうだった?あんたもどうせ悉く惨敗したでしょ?」
悉く惨敗?
一体どうやったらそんな言葉で形容されるような負け方が出来るんだ?
「ぼ、僕は勝ち残ったよ」
少しだけ優越感を感じながら、そう答えた。
「「……」」
しかし姉と母親は顔を見合わせて、まるで万引きをした実の子供を諭すかのように、
「家族に嘘吐くなんて、酷いじゃん、拳」
「そうよ、嘘は良くないわね」
「……」
なんて濡れ衣だ。
「……嘘じゃないって、ほら、僕のグラス見てよ」
「「どれどれ」」
嘘ではないと証明するために、一番手っ取り早い方法を選んだ。
今日の戦歴を見せればいいだけさ。
なので、グラスを起動、現代じゃんけんアプリを開こうとすると、
”現在メンテナンス中”
「あ」
メッセージがグラスに表示されて、ログインできなかった。
どうやら、何か問題でもあったのだろうか。
「今なら私達、責めないからさ」
「そうよ、早めに自首しなさい」
「……」
仕方がない。
己の身の潔白を証明するには、あれを伝えるべきだろう。
昨日お婆ちゃんから教えてもらった事実。
「本当だよ―――」
「―――だって僕は、お婆ちゃんから現代じゃんけんの遺伝子を受け継いでいるから」
現代じゃんけんのうんちくを夕食中に自慢しようと思い立った。
その様子を、笑顔を浮かべながら、隣で眺めるお婆ちゃんの姿。
「は?突然何よ?」
「そうよ、お婆ちゃんと現代じゃんけんがどう関連しているのかしら?」
二人は顔を見合わせて、困惑している。
「ねっ、お婆ちゃん?」
「ふふふ……」
僕は彼女に視線を向けた。
すると、お婆ちゃんは味噌汁をすすりながら、ウインクを返してくれた。
「知ってた?」
僕とお婆ちゃんだけが共有する事実を、今、この世の中にも披露する時だ。
「何が?」
「どうしたの、いきなり―――」
席から立ち上がり、高らかに宣言した。
「―――お婆ちゃんが現代じゃんけんの創案者なんだよ」
「「……」」
一瞬の沈黙。
「うそだ〜」
「そうなんですか?お婆ちゃん?」
姉と母親が勢い良く訊いた。
「そうですよ、この私が考え出した遊戯なんです」
お婆ちゃんは味噌汁を飲み干すと今度は、女子高生の間で流行しているスイーツを優雅にもぐもぐしながら、返答した。
「へぇ〜、知らなかった」
「そうだったんですね」
下界で真実を巡り混沌が巻き起こる中、僕は迷える聴衆に向かって、一言放った。
「だから―――」
「―――僕はこの世界で現代じゃんけんの神になるんだ……」
なんて偉そうに、わめいて、新世界に舞い降りた現代じゃんけんの神ポーズを情けなく決めていると、
「―――いつこんなの考えついたの?聞かせてよ!」
「凄いですね、お婆ちゃん」
「ふふふ……」
お婆ちゃんに質問攻めする家族の姿。
「……」
少年の御託は思いっ切り無視されてしまった。