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エンディング

現代じゃんけん大会が終わると、お婆ちゃんの容態が悪化、病室からも出られないようになってしまった。

今、僕とお婆ちゃんの二人だけが部屋の中にいる。


「いなくなったら、やだよ、お婆ちゃん」

「ふふふ……」


お婆ちゃんは既に病気で瞼を持ち上げることも出来ない程。


「私はもう、鋏に何も教えることは残ってませんから」

「……そ、そんなこと、ない……」


病室で横になるお婆ちゃんは、今にも消えていきそうなぐらい儚い。


「ふふふ……最後に、私と現代じゃんけん、しましょうか」

「え……?」


現代じゃんけん?


「で、でも……」


お婆ちゃんは目も見えないし、どうやってそんな事、するんだろう。


「ほら、早く、しましょ」

「う、うん」


でもこれまでお婆ちゃんと僕は対決したことが無かった。

だからやってみたかった。


「それじゃ、始めるわね」

「分かった」



―――病室には、お婆ちゃんの呼吸だけが聞こえる。


「ふふふ……」

「むむむ……」


開始直前からお婆ちゃんは余裕そうな笑みを浮かべいる。

どうやら僕の手が既に看破されたのか!?


「えっと、それじゃ、私はこれでも出そうかな」

「!?」


すごいや!

もうお婆ちゃんは選択したらしい!


「うーん……」


どうしよう。

僕は何を出そうかな。


すると、お婆ちゃんの呼吸が弱まっていく。


「せーの、で出すのよ」

「分かった」


そして、


「「せーの」」


「「はい」」


二人の手が出た。


僕は無意識だったんだと思う。

チョキを出したんだ。


「あ」


そしてお婆ちゃんはというと、グーを出した。

つまり僕の負け。


「え?」

「ふふふ……」


でもお婆ちゃんは、グーの状態で僕の手に近づいていき、到着する時には、パーになっていた。


「……」


そしてお婆ちゃんはその震えるパーで、僕のチョキを握ってくれた。

僕は涙を零して、泣いてしまった。


「またね、鋏」

「やだよ……いかないで……」


僕と現代じゃんけんが終わると、お婆ちゃんは笑顔を浮かべながら、天国に行ってしまった。


「ふふふ……」

「お婆ちゃん……」




―――それから数週間後。


あれから現代じゃんけん大会が終了、僕は優勝賞金を受け取った。

でも、その大金は自分の為ではなく、お婆ちゃんの為に使った。


現代じゃんけんの祖であるお婆ちゃんのことを記念して、新しい大会を創設したのだ。

その賞金の部分に、僕は使った。



―――僕の生活には変化が訪れていた。



ちゅんちゅん。



デデンッ―――!!!



休日の早朝、ベッドの上でグラスから着信音が流れた。

でもそこに僕はいない。


「あら、今日も早いのね、起きるの」

「うん」


早起きして、僕は朝食を食べた。


「ごちそうさまでした」


リビングから出て、お気に入りの靴を履き、靴紐を結び、玄関の扉を開く。


季節は既に夏が始まったらしい、薄っすらと汗が滲む気温だ。

一度額の汗を右手で拭った。


「すぅ」


そして、早朝の澄んだ空気を胸いっぱいに取り込んで、僕は一日を開始した。



「―――えっほ、えっほ、えっほ」


まだ朝が早いので、町には人の気配がない。


梢で仲良く肩を並べて囀りを奏でる小鳥たち、新緑色の綺麗な花々、心地良い風の感触。

道端で出会う自然の美しさを楽しみながら、走っていた。


現代じゃんけん大会終了後ずっと、僕は朝早起きして、ランニングするのが日課になっていた。

夜は直ぐに寝て、それから熟睡。

だから生活リズムが整い、日々の生活にも充実感が満ち溢れる。


通り過ぎた電柱には、一つの張り紙があった。



―――”第四回現代じゃんけん大会開催”



現代じゃんけんは大会の後、ますます人気を得たみたいで、未だその廃るような雰囲気は見えない。

これから第四回大会も開かれると発表もあったんだ。




「―――ふぅ」


数十分走り込んだ所で、僕は止まった。

少し息を整えて、汗を拭き取った。


「……」


でも僕の日課はまだまだこれから。


「よし……」


丁度走りを再開するため、足を踏み出そうとした時だった。


空から眩しい朝日の光が一筋、僕に舞い降りてきた。

上を見上げると、


「あれ?」


なんと、空に浮かぶ一つだけの雲がチョキの形をしていたのだ。


「ちょき?」


もちろん僕は、朝日が目に入ることを恐れて本能的に手をパーの形にした。


「もしかして」


天国からお婆ちゃんが僕に現代じゃんけんを挑んできたのかも。


「なんてね」


不思議な気持ちになった。


「……」


みんみんみん。


「あ」


すると、何処からか、蝉の鳴き声が聞こえてきた。

町には、蝉までいるようだ。


「もう、夏なんだ」


季節が過ぎていくのは早い。


「……よし、そろそろ、再開しようかな」



「―――えっほ、えっほ、えっほ……」


鋏雲が浮かぶ立夏の朝に、僕は再び走り出した。

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