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翌日の異変

翌日になると、前日よりも異様な光景になっていた。


がやがや。


「はっ!」


普段は目覚まし時計に頼って起床時間に起きようと努力しているのだが、今日はその必要はなかった。


……あ、ちなみに目覚まし時計に起こされることはないんだけど。

だって、グラスの着信音でいつも強制的に睡眠を中断させられるから。


「な、何が起こったんだ?」


重たい瞼を擦りながら、上半身を起こして、部屋の窓から周辺を確認していく。


「―――楽しみだぜ!」」

「今日から現代じゃんけん大会、開始だもんな!」


道には、登校している小学生達が熱心に会話している姿。


「あら、今日は学校へ行くの、早いのね」

「あ、お母さん」


どうやらその子供の一人の母親がごみ捨てをしていたらしく、親子が道端ですれ違った。


「現代じゃんけん大会が楽しみで、学校でみんなと話したいからさ」

「へ〜。今日の現代じゃんけん大会、頑張るのよ。私も勝ち進めるから」

「うん!じゃ〜ね〜」

「気をつけて登校するのよ」


という具合に、和気あいあいとした家族間の会話を目撃したのである。


「……」


そのせいで僕は普通の時間に起床してしまった。


なんて迷惑なんだ。

これじゃ、二度寝出来ないじゃないか。

僕が学校に遅刻出来ない責任を、どう取ってくれるんだ。


とベッドの上で、理不尽にふんぞり返っていると、


「ふぁ〜」


あ、あくびが出てきた。

やっぱり、二度寝をかまそうかな。


「おやすみなさ……」


がやがや。


「……」


また邪魔された。

町の中で喧騒が続いている。


「ふぁ〜」


あ、またあくびだ。

今回こそは、二度寝してやるぞ。


「おやすみ……」


がやがや。


「……」


……寝ようとしても、町の中で騒音が止まらず、ずっと二度寝出来ない。


「起きるか……」


ということで素直に余裕を持って登校することに決めた。




「―――あぁ〜、だるいな〜、また校長のスピーチだよ」

「今日のホームルームの時間、どれくらい潰してくれるかな」


朝の体育館では、眠気を我慢しながら肩を並べて座る全校生徒の姿。


丁度今日は朝会のある日だった。


「朝の会なんて、余裕だよ。もう何回も踏み潰してきたんだ。多分今日は、一限まで食い込むね」

「うそ〜、そこまでは流石にないでしょ」


校長のスピーチの長さを予測する生徒の声も多数。


「ええー、それでは今日も朝会を始めて―――」


そして始まった。

校長の話。


校長先生は、腹がたるんでいて、狸のような体型をしている。

髪型は短髪で生え際あたりから白髪が生えており、年寄りと言うよりかは、威厳があるという形容が相応しい人だ。


最高級の漆黒のスーツに身を華麗に包み、整えられた口ひげが彼の偉大さをさらに際立たせている。


実際に校長先生は昔、球技系のスポーツで活躍していて凄かったと、風の噂で耳にしているが、

そこまでの興味は無かったので、ネットで調べるなどの行為には至らなかった。


「いやー今日も、素晴らしいスピーチですね」


そしてその校長先生の直ぐ隣には、いつもの教頭先生がくっついている。

どうやらカツラをしているという噂の人物で、かなり細身の体型。

いつも校長先生に対してごまをすっている。


「いやー最近、現代じゃんけん、なんていう話題が巷で話題に―――」


相変わらずの校長の長ったらしいスピーチの内容の大半は、


昔やったじゃんけんの思い出

現代じゃんけんについて

自己顕示欲

長い

眠い

だるい

帰りたい


そんな感じの箇条書きでまとめられる内容のものだった。


「それで、私の住んでいた時代では―――」


眩しい朝日が窓から差し込んでいるのに、校長先生はいつも朝会の話で時間遡行をするのが得意である。

SF作家並にぐるんぐるん時間軸を歪めては、過去と現在を行ったり来たりするのを繰り返す。

ちなみに未来へ行くことは殆どない。


そんな様子に痺れを切らした生徒の一人が、


「教頭先生!早く校長の独裁を止めてくれ!」


体育館の何処からか、罵声を放った。


傍にいるゴマすりの教頭先生は、校長が予定時間のスピーチの長さが越えても、注意することはないどころか、

寧ろ、それを褒め称えているような印象まで受ける。


「ふぁ〜」


全校生徒はもちろん、なんと教師陣までもがあくびをしながら、ただ校長の独壇場を眺めていた。


「いやー、あの時の私は、じゃんけんが強くてね―――」


でも意外だった。


「―――ふはは」


普段の校長先生は真面目であまり笑わない人なのだが、今日のスピーチでは終始笑顔が絶えない。

じゃんけんの話題のせいだろうか。

あ、それと現代じゃんけんの話題も。


「そんでもって、あの日、私がじゃんけんでグーを出したら―――」


何というか、大人である校長先生がまるで童心に帰ってきて、

友達に話しかけてるような雰囲気を出していた。


「ねぇ、あんな校長見たこと無いよね」

「うん、何か、新鮮だよね」




「―――ええー、それでは短くなりましたけれども、今回はこの辺で終わりにしたいと―――」


―――キーンコーンカーンコーン。


「あ」


一限開始を告げるチャイムによって校長の終わりが遮られた。


「うわっ!アブなっ!」

「ああ、校長、大丈夫ですか!」


幾度となく時をかけた校長先生は流石に悪い気を起こしたのか、そそくさとスピーチを終え、段差に躓きながら降壇、遂に朝会が幕を閉じた。


「―――よっしゃ、予測が当たったぜ」

「し、信じられないわ……」


そして今日のスピーチは普段よりも更に長く、終わる頃には、一時限目が既に開始していた。






―――運命の全国じゃんけん大会の開始時刻まで後、僅か。


学校にも異変が舞い降りていた。

現代じゃんけん大会のせいで。


今日の午前の授業はずっと、そわそわと、ただ時間だけが過ぎるのを待っているような雰囲気があった。

生徒達はもちろんなのだが、なんと、担当教師までもそうで、横目で何度も時計を気にしながら授業を進めていた。


「この問題では、このように代入して―――」


チラ。


只今四限の授業中である。

数学教師が一言一言の隙間に、時計へのチラ見を入れながら、ある数学の問題を解説している。


「それから、さらにここにも代入して―――」


チラ。


黒板に書かれた文字は、みみずみたいに、にゅるにゅるしており、昼食前に眺めてあまり良い気分はしなかった。


「最後に、整理された式を丁寧に、落ち着いて計算していくと―――」


チラ。


そして遂に、数学教師の集中力が微分の如く連続的に跡切れて完成した究極の答案が、黒板に披露された。


「先生―――」


一人の生徒が挙手をしながら席から立ち上がり、こう告げた。


「―――どうした、金田?」

「それ、間違ってます―――」


「―――うそっ!?」


黒板に堂々と書かれた回答。

それには、



パー > チョキ



ファイナルアンサーだった。


「チョキの方が強いと思います」


そして勇敢なる一生徒は、絶対なる教師の答案に、異を唱えた。


現代じゃんけん不等式?

時空を超える普遍的な科目である数学によって導かれた、深淵なる現代じゃんけんの最終証明は、ルールの根底を覆すものだった……?


「先生、うける!」


クラス中から笑いの旋風が巻き起こった。

グラスで写真を取って即座にSNSにアップロードする生徒、腹を抱えて爆笑する生徒、そしてその中で相変わらず惰眠を貪りつくす僕の姿。


「むにゃむにゃ……」


数学教師は若いのに、いつも公式のように顔と性格が硬く、あまり感情を表す行動はしないのだ。

それなのに今、顔を紅花色に染め上げて、数学の授業中に阿波踊りを踊っている。


「エット、アット」


関節の角度を離散的に曲げて、まるでパラメーターがあまり多く指定されていない、ぎこちないシミュレーションみたいだ。

他に例えるなら、スターウォーズに登場するあの金色のロボット、C-3POを彷彿とさせるキレッキレのダンス。


「ふにゃふにゃ……」

「ちょっと、空富士。見てよ、あの先生が顔を赤くしてるわよ」


隣の席の理沙が、深い闇の中に閉ざされる僕を、ゆさゆさとゆすり起こそうとしている。


「って、全然起きないし……」


すげー。

これも、じゃんけんの力なのか?

あんな知的な大人をも魅了するじゃんけん大会。

恐るべし。


あ、現代じゃんけんだった。



……って今の声、誰の?

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