お婆ちゃんの最後の教訓
現代じゃんけん大会決勝戦直前、お婆ちゃんが入院することになった。
お婆ちゃんの様態はさらに悪化していく一方。
「お婆ちゃん、入るね」
「どうぞ」
放課後、お見舞いに来ていた。
「お婆ちゃん、体調どう?」
「ふふふ……」
体が悪くても、お婆ちゃんはいつも笑顔を浮かべている。
ラジオからいつもの歌謡曲が部屋に流れている。
「これ、お見舞いね」
「あらま」
ちょこん。
そう言って、僕はお見舞いのじゃんバーをテーブルに置くいた。
「あの、僕これから大会の決勝なんだけどさ、何か、アドバイス欲しいなって」
「ふふふ……」
ベッド脇の椅子に座って、そう訊いた。
するとお婆ちゃんは少し真剣な表情になって、
「そうね、後残っているのは、これぐらいかしら―――」
「―――いい、これからの現代じゃんけんでは、自分の力で考えるのが大事、よ」
「なるほど」
かきかき。
つまり独り立ちするという事だろう。
「もっと、僕に教えてよ、お婆ちゃん」
「……」
とお婆ちゃんに頼んだら、今度は笑顔で、
「これで私は、鋏に教えることはないわ」
「え?」
そして、
「鋏はもう立派な現代じゃんけんの達人ですよ」
「そ、そうかなぁ……」
僕はお婆ちゃんから褒められて、つい赤面してしまった。
「ふふふ……」
「……」
その時だった。
笑っているはずのお婆ちゃんの表情が、少しだけ、悲しく見えた。