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元防衛大臣との一騎打ち開始(3)

―――”50戦目 開始”


―――”現代じゃんけんが始まります”



「ここまでか……」


僕が頼りっきりだったテクノロジーは完全に死に絶え、手を打つ手段が消え去った。

自力で相手に挑もうとしても、じゃんけんの神様は先出し、僕には到底、手が届かない。


「……」


緊張していた全身から力が抜けて、筋肉が一気に弛緩していく。

これまでずっと勝利に対して必死にしがみついてきたのに、もう、勝てる希望が見えない。

足元がふらつき、顔を地面に向けた。


「空富士……」

「相手が強すぎるのよ……」


僕を応援している東帝、蒼桜中学生は絶望に暮れる後ろ姿を見て、励まそうとする。

しかしそれによって鼓舞される事はない。



「……」


―――”残り時間 10分”


―――”現代じゃんけんの手が選択されました”


「私の勝ちのようだ」


そして真壁守は最大の暴挙に出た。


50回戦目が開始した直後に、先出しを放った。

まるで正解を最初から把握しているかの如く。


「……!!!」


これまで築き上げた現代じゃんけんの教訓は音を立てて崩れていく。

この世の中には、決して、自分の才能では届かない領域があるという当たり前の事実の確認だった。

現代じゃんけんというエリアでは、僕は何処にでも跳躍できる、なんて思い上がっていたのだろう。


でもこれが現実。


熱に浮かれた僕に、非情な現実が牙を剥けた瞬間だった。

軟な精神をその鋭利な牙が切り刻むと、傷口から出てくるのは色鮮やかな鮮血ではなく、濁流色を宿すどろどろとした血。


「……もう、適当でいいか……」


あまりの神業に、あまりの才能に、完全にやる気を失い、僕は半ば自暴自棄になりながら、グラスに表示される選択肢を選ぼうとした。

グー、チョキ、パー、別にどうだっていいじゃないか。


「現代じゃんけん、さようなら―――」


そして、僕の指先が一つの選択肢へと触れようとした瞬間だった。



「―――おい空富士!!!」


後方から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。

指先が画面から離れていく。


「……?」


しかし、応援ではないようだ。


「―――こっちを向け!!!」


垂れ下がっている頭を持ち上げながら、反射的に振り向いた。


「……!?」


すると、会場入口から何か大きな物体が台車に乗せられて運ばれてきている。


「な、何だ、あれ?」


……兵器?

と一瞬、身構えてしまった。


ただ巨大な四角形の物体。

黒々として、明らかに自然物とは乖離した人工物。


「持ってきたぞ!みんな!こいつを見て、驚け!!!」


青門がその巨大なパソコンの後ろから姿を現し、大声で叫びを上げた。

どうやら二人で台車を押しているらしい。


「あいつは!!!」

「嘘でしょ!!!」


遂に会場の入り口から、メインステージへと台車が入っていった。

それと同時に、会場全体から驚愕の反応が沸き起こる。


「―――スーパーコンピューターだ!!!」


台車を押してきた青門が会場に、堂々と宣言したのだ。


「す、スーパーコンピューター!?」


僕は唾を飛ばしながら、驚きの声を上げた。


会場に運ばれてきたのは、なんと、巨大なスーパーコンピューターだった。




「「「―――空富士負けるな!!!」」」


広大な会場に、二中合同の応援が轟き渡った。

一方的な試合展開によって死にかけていた応援団が息を吹き返したのだ。

それは生徒達も同じで、


「そうだ!空富士!」

「まだまだ、試合は終わりじゃないぜ!」


後方から大きな声援が押し寄せる。





「―――こいつはただのスーパーコンピューターじゃないぜ」

「で、でかい!」


台車を二人がかりで何とか押しながら、僕の隣までやってきた。

高さは僕の身長よりもかなり高く、二メートルぐらいあるように思える。


「現代じゃんけん専用のスーパーコンピューターだ」

「せ、専用……!?」

「ああ、現代じゃんけん用に作られた特別仕様さ!」


そして続いて、


「……まぁ、まだ少しだけ調整する余地はあるんだけど―――」

「―――す、凄すぎる!!!」


現代じゃんけん用にだけ特別チューニングされた最高のテクノロジー。

演算力は、普通のパソコンはもちろん、そして普通のスーパーコンピューターまでも、遥かに凌駕する。


「ほう、面白い物を持ってきたようだな」


しかしその圧倒的な戦力の加勢に、真壁守は臆することなく、笑みを浮かべた。


「これであんたも、おしまいだ」

「ふっふっふ」


東帝中学生が複数で、台車に乗せられているスーパーコンピューターをゆっくりと降ろしながら、宣言した。


「よし、降ろすぞ!」

「よっこいしょっと……」


そして、メインステージに最終兵器が配置された。


「こ、こいつは、人類史上最高峰の演算力を誇る、化け物だ」

「ほう」

「勝てるんもんなら、勝ってみろ!」




―――”残り時間 5分”


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



ウィィィィィィン!!!



「な、何だこの音!!!」


スーパーコンピューターが奇怪な唸り声を轟かせて、遂に起動した。

チェーンソーのような暴力的な音にも似ているそれは聴覚を不快に刺激する。



グィィィィィィィン!!!



「いだだ!!!」


そして、数秒後、起動音にも優る稼働音が鼓膜を乱暴に弄った。


「おい空富士!耳塞げ、耳!」

「う、うん!」


どうやら傍に立つものは、耳を両手で塞ぐ必要があるらしい。

大切な五感の一つを守るために、簡易の耳栓を用意した。


「これ以上、騒音が大きくなったら、鼓膜破れる!!!」


僕は激しくなっていく稼働音に、己の身の危険を感じた。


「うわぁぁぁ!!!」


そして稼働音が頂点に達した瞬間。



……ピッ。



「……」


厳つい起動音、稼働音とは裏腹に、一般家庭で良く聞く馴染みのある音を奏でた。


「あ、可愛い……」


これがギャップ萌え……?


なんと、僅か数秒で演算が終了、スーパーコンピューターが最高の一手を生み出した。

複数のパソコンでも躓いた所を難なく越えていく。

伊達にスーパーなんて名前がついているわけじゃない!


……仕事も滅茶苦茶出来る。


「……」



―――”相手はグーを出す確率が一番高いです”



……それに、なんて丁寧な物言いなんだ。

仕事の速さだけでなく、性格もいいらしい!


「あ、その……お仕事……お、お疲れ様です……」


僕はその立派な仕事っぷりに、声を掛けられずにはいられなかった。

体をくねらせながら、赤面させて、そう呟いた。



―――” ”



「え―――?ほ、本当ですか?」


……なんと相手は、僕の心遣いを無言で受け止めてくれた!

もしかして、シャイなのか!?

あんなガンダムみたいな、ごっつい外見を、体に宿しているのに!?


「……」


ギャップ萌えのパラメーターが振り切れている!

正の無限大だ!


そしてそれは一つの究極的な感情へと、僕を導いた。


「―――き……」


……僕はもう、スーパーコンピューターに恋をしてしまったのかもしれない!


「スーパーコンピューター大好き!!!」



ぽち。



無機質な機械に対して、一方的な好意を抱きながら、

僕は有り余る制限時間の中、僕は画面に表示される選択肢を押した。



「―――お願いだ……現代じゃんけんの神様……」



目を瞑り、両手を合わせて、現代じゃんけんの神様に願をかけた。


僕に勝利を恵んでください……


「……」


……あ、現代じゃんけんの神様って、僕のお婆ちゃんだった。

そして彼女はもちろんご存命だ。



「―――お願いだ……じゃんけんの神様……」



目を瞑り続け、両手を合わせて続け、今度は、現代じゃんけんの神様に願をかけた。


「……」


……あ、じゃんけんの神様って、対戦相手だった。

そして彼はもちろん、目の前でご存命だ。


それなら、一体僕は誰に願いを込めれば良いんだ……


「……焦れったい……」


非科学的な祈り、最先端テクノロジーへの偏愛など、対立、矛盾した思考、行為を縦横無尽しながら、僕はただその時を待ち侘びていた。

まるで恋文を送り、恋人からの返事を恋焦がれて待つ若人のように。



―――”残り時間 4分”


―――”現代じゃんけんの手が選択されました”



もちろん僕の浮ついた願いなど聞き入れられる訳などあるはずもなく。



―――”結果発表”



―――”真壁守 グー”


―――”空富士鋏 グー”








”50戦目 結果発表”


”引き分け”



「よくも僕を騙したな!!!この尻軽スーパーコンピューター!!!」



―――僕の純粋な恋心を弄んだスーパーコンピューターに向かって、罵倒を投げつけた。



「僕の恋心を……どうしてくれんだ……」



―――僕の初恋は、スーパーコンピューターに儚く散ってしまった。





「―――ば、ばかなっ!!!」

「そんな訳ないだろ!!!」

「スーパーコンピューターだぞ!それと対等の勝負をしているだと!?」


最終兵器の登場により、この長期戦にも終止符が打たれるだろう、と予測していた観客達は、思いっ切り裏切られた。


「ふっふっふ、面白くなってきた」

「…………」


僕はなんて、顎が床につくのではないかと思うほど、口が大きく開いているのに。

相手はさらに情熱を燃やし、



―――”残り時間 三分追加”


―――”51戦目 開始”


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



「スーパーコンピューターでもまだ勝てないだと!?」

「一体、どうなってやがるんだ!!」


最終兵器を持ってきても状況が打開できない。

後ろの観客達、そして僕も頭を抱えて、悶え苦しんでいる。







―――そして現代じゃんけん大会準決勝、超長期戦の火蓋が切って落とされたのだった。




「よし!そのまま食いつけ!真壁!」

「スーパーコンピューターなんか蹴散らしてしまえ!」


真壁側の応援が勢いに乗り、会場を支配し始める。



”59戦目 結果発表”


”引き分け”



「真壁!!!勝負に出ろ!!!」

「あの少年を潰せ!!!」


既にアナウンスの声は観客の喧騒によってかき消され、何も耳に入らない。

ただ画面上に表示されるメッセージを見て、今、どこまで引き分けが続いているのかを確認している。


「ふっふっふ」

「相手に弱点はないのか……」




―――”残り時間 三分追加”


―――”60戦目 開始”


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



「―――絶対に私の生徒に負けるんじゃないぞ!」

「え?」


あれ?

今、後ろから、対戦相手を応援する声が聞こえなかったか?

そう思って、首だけを後ろに回すと、


「真壁!!!お前なら勝てるぞ!」


そこには、立ち上がり、咆哮を上げる校長先生の姿。


「と、どうして!?」


って、校長先生までもが対戦相手に応援し始めている。

後、教頭先生も隣で校長先生に加勢していた。


「学生になんか負けるな!!!」

「そうだ!絶対に勝つんだ!!!」


さらに蒼桜中学と東帝中学の教師陣も、同じく席から立ち上がり、対戦相手を擁護し始めたのだ。


「ちょっと、どうして仲間割れしてるのよ!私達は生徒を応援しに来たんでしょ!」

「空富士!気にするな!!!」


しかし傍の生徒達は依然として僕を裏切ることはなく、依然として僕についてきている。


「……」


後方の席では二極化していた。

片方では対戦相手にエールを送り

もう片方では、僕に。


境界線を設け、移動、別々の所で観戦をしている、


「ど、どうなってるんだ……」


僕は大きく口を開き、そんな光景に呆気を取られていると、


「ん?」


先程まで問題なく稼働していたスーパーコンピューターが調子を狂わせ、

耳に不快な音を放出していたのだ。



ジィィィィィィィン!!!



「いでで!!!……はっ!!!」


両手で耳を塞いだ。

しかし、それはスーパーコンピューターだけじゃない。


「くそ……」


ここに来て、やっと、じゃんけんの神様にもはっきりと異常が現れた。


「え―――!?」


「……」


表情に大きな翳り。

そして全身を小刻みに震わせ、呼吸も乱れてきている。

ポケットからハンカチを取り出し、それを額に移動させ、汗を拭き取っているのだ。


もしかして。

相手は限界に近いのか……?


「いける……」


一縷の希望が胸中に宿る。


これまで絶対的な神として、僕の前で君臨し続けた。

だた圧倒されて、絶対に勝てないと思ったが、望みはある。


「僕の勝ちが近い!!!」


これまで抑圧されてきた様々な感情が同時に胸中で迸り、つい鋏を空高くに上げてしまった。


「やったー!」



ジィィィィィィィン!!!



「いでででででで!!!」


その希望に満ち溢れた勝利への雄叫びはスーパーコンピューターの稼働音によって、掻き消された。


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」







「―――それでは、今回も先出しさせてもらおう」

「はっ!!!」


だが、依然として、真壁守は僕よりも早く、選択肢を選んできている。

その少し後に、巨大なスーパーコンピューターが答えを弾き出した。


「僕には、スーパーコンピューターがついているんだ。心配する必要はない!」


ぽち。



”60戦目 結果発表”



「「「……」」」



会場の熱気が嘘のように静まり返り、沈黙が訪れた。

誰もが口を閉じて、勝負の行末を見守っている。


もし真壁守が勝利すれば、歴史的な快挙。

あらゆる困難を乗り越えて、己の力のみで時代の流れに打ち勝った事を証明できる。

数万人の観衆の目の前で。


しかし引き分けになれば、さらに試合が延長。


そして運命の瞬間。



”引き分け”



「うそぉおおお!!!」

「またかよ!!!」



―――”残り時間 三分追加”


―――”61戦目 開始”


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



「すげぇ!!!じゃんけんの神様はまだまだ最強のままだぜ!!!」


一瞬で、東京ドームに熱狂が撒き散らされた。






「―――ふっふっふ……」


真壁守は燃えていた。

これまでの圧倒的な人生の中で、出会った最大の対戦相手に。

それは、目の前の少年を指しているのではない。


「―――倒してやるぞ……」


彼の汗で滲んだ双眸には、人類の叡智の結晶である、機械が映し出される。

彼の頭脳には、機械と己、その構図が鮮明に刻まれていた。


「―――私は時代の流れに屈しない……」


切り拓いてやるんだ。

己の人生を、己の力で。







”76戦目 結果発表”


”引き分け”



―――”残り時間 三分追加”


―――”77戦目 開始”


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



「―――ここで、決着をつけてやる……」


そして彼は限界を越えた。

絶対に勝とうとする情熱的、そして崇高なる決心が、彼の心の鎖を打ち破ったのだ。



―――果てしない平行線をたどる超長期戦。

誰もが永遠を期待した試合で、奇跡が東京ドームに舞い降りたのだ。


「……」

「あ、あれ……?」


どういうことだ。

これまではずっと僕達を完全にリードしてきた、あのじゃんけんの神様が。


「……」


今回に限って、先出ししてこないのだ。

両手を頭部の側面に押し当て、未だに長考をしている。


やはり、彼も既に限界を迎えているのだろう。



―――”残り時間 2分”


―――”現代じゃんけんの手を選択されました”



「今回は僕が先出しだ!」


僕はこの超長期戦で、じゃんけんの神様よりも圧倒的に速い先出しを繰り出した。

気持ちが良かった。

だって、超越者よりを出し抜いた気がしたから。


「……」


相手を見てみると、諦めている様子は一切なく、寧ろ、これまで以上に真剣な面持ちで長考に入っている。


「……」


口元が微かに動いている。

何か小さく呟きながら、計算しているのだろうか。

同時に彼は虚空を覗き込んでいる。


「じゃんけんの神様……?」


その超然的な光景を目の当たりにすると、自然と、僕の口元から言葉が零れてきた。


「御光……?」


まるで彼の背後に御光が差し込んできているかと、勘違いしてしまった。

目を擦ってみると、光は消えている。



―――それは、じゃんけんの神様による長考だった。





―――彼はあろうことか、人類の最先端を突き抜ける技術に、拮抗するだけでなく、出し抜いたのだ。

驚異的な計算力に加え、複雑怪奇な人間の精神を掌握する悪魔的な能力。


「……ぜぇ……ぜぇ……」


しかし彼のピークはとっくの昔に過ぎていた。

老体の身となった彼は、錆びついてゆく頭脳を必死に動かしながら、勝利への光をがむしゃらに求める。


「……越えて……見せる……」


日に日に衰えていく自らの圧倒的な才能を削りながら、巨大な舞台で輝こうとしている。

本当の神が、それを見て、感動でもしたのだろうか。


―――遂に、彼の頭の中に正しい答えが、真実が、宿ろうとしていた。



「ふっふっふ!!!」


そして再び真壁守は確信した。



「私こそが、最強だ―――!!!」



―――じゃんけんの神様は、現代じゃんけん大会で、鈍く光り輝いた。





「―――そ、総理……大丈夫ですか……?」

「……ぐ……」


日本のトップに君臨する総理大臣がその光景を目にして、涙を零した。


涙によって霞んだ総理大臣の双眸に映し出されるのは、時代の流れに逆らい、己の生き方を貫こうとする一人の姿。

機械に頼らず、純粋に己の努力によってじゃんけんを極めようとする姿。


「……」


それに対して、対戦相手は、完全に時代の潮流に身を任せている。

最新の技術を駆使、周りからもサポートを受けて、あらゆる手段を駆使。


隔絶した壁。

真壁守の眼前には、圧倒的な壁が聳え立つというのに。


それなのに、彼は活力に満ち溢れた表情で、勇敢に時代の流れに立ち向かう。


「「……」」


彼は長考を止めることはない。

その果てに、一閃の光が待ち構えているという希望を信じて。


「めるな……」


総理大臣は、ぼろぼろと大粒の涙を目元から零し、右手の拳を力強く握った。




―――真実が彼に辿り着く、その一歩手前。


「勝利……!!!」


彼がとうとうその指を画面上に近づけ、究極の長考の末に辿り着いた正解を掴み取ると同時に、

選択肢を選ぼうとしたのだ。


「これで私の勝利―――!!!」


そして、歴史的偉業が歴史に刻まれれようとした瞬間―――


「―――真壁!まだだ!諦めるな!」

「……っ!!!」


固く口を閉じて観戦していた総理大臣が声を上げたのだ。

拳を握りながら立ち上がって。


「すごい……あの総理大臣が現代じゃんけんで応援してる……」

「いっつもテレビで見る時は落ち着いているのに……あんな顔、初めて見た……」


現日本のトップの一言は極めて重かった。


「まじかよ!」

「俺も真壁のこと、応援したくなってきたかも!」


少年の味方に回っていた観客達さらに、態度を翻し、敵を応援し始めたのだ。


「―――!?」


背中から突然叫び声。

すると、辿り着こうとしていた答えが、どこかに消えてしまったのだ。


最高の舞台、最高の頭脳、最高の思考、最高の長考、そして最高の真実―――手―――。


「……」


全ては最高の答えへと繋がっているはずだったのだ。


真壁守は本能的に、総理大臣を睨みつけた。


「……!」


圧倒的な集中力、雷神の演算力、研ぎ澄まされた読心術。

それらの神がかり的な能力達が、会場の雑音によって、鋭さを失ったのだ。


結果、本領発揮寸前の所で不発、この世の高みである山頂へ駆け上る事が出来なかったのだ。


真壁守は嘆いた。


「一体、じゃんけんはどうなってしまったのだ……」


昔から受け継がれてきたじゃんけん。

自分で物事を考え、そして相手を出し抜く。

最も簡素にして、最も深みのある崇高なるじゃんけん。


「……」


真壁守は、大きな溜息を零した。

そして熱狂する観客達を再び睨みつけた。


「頑張れ!」

「応援してるわ!」


「……」


だが、見てみろ。

この現代じゃんけんなんていう、愚かな遊戯を。


それに目の前の少年達もそうだ。


「良し!これで結果が弾き出されたぞ!」

「選択完了!」


「……」


自分の力で未来を切り拓くのではなく、他人に頼り、正答を生み出そうとする。


「……愚かだ」


真壁守の全身に汗が滲み、視界まで曇る。

それもそのはずだ。


ここまでの長期戦は彼にとっても未知の領域。

例え半世紀以上のじゃんけんの経験があるとしても、77回戦まであいこになることは確率上、不可能に近いからだ。


それに加え、彼はじゃんけんの神様と他称されてきた。

普通のじゃんけんの試合では、速攻で決着が決まるのが常。



―――しかし、神様と呼ばれていたのも、それはあくまでじゃんけんの話。



「現代じゃんけん、か……」


真壁守には一つだけ誤算があったのだ。



―――彼が参加している遊戯、それは、じゃんけんではなく、現代じゃんけんだったということ。




”結果発表”



―――”真壁守 グー”


―――”空富士鋏 チョキ”



―――”勝者 空富士鋏”


―――”おめでとうございます”



「私は……負ける……のか……?」

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