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現代じゃんけん第二ステージ二日目

時は正午、現代じゃんけん大会も第二ステージ二日目を迎えた。


「―――よぉ、空富士じゃねーか」

「う、うん……」


僕の席の前に屹立するのは、これまで話しかけたことのない人物。


「どうしたんだよ、そんなに怯えて」

「べ、別にそんなこと……」

「足、震えてるぜ」

「あ!」


台島拓馬。

彼は単純に言えば不良である。

そしてこの学校に番長として君臨しているらしい、と風の噂で聞いたことがあるが、

それが彼の吹聴によるものか、否か、定かではない。


顔には幾つかの擦り傷の痕が残っており、

彼がここまで勝ってきたには、何か特別な理由がありそうだ。


「試合始まるみたいね!」

「ほら、みんなこっちにきて!」


教室が大騒ぎになって、僕達の周りに人の壁が形成し始める。

既に脱落した生徒達が多くいるので、勝負ではなく、観戦に移行しているのだ。


「ねぇ、私達がサポートしてあげるわ」

「そうよ、あいついっつも授業妨害してくるしさ」

「勝ってよね」

「……」


ということで僕は既にサポートーが出来たらしい。


ちなみに僕の傍に立っている人達とは殆ど面識がない。

現代じゃんけん大会によって築かれた即興の関係である。


「分かってるだろうな、空富士。この勝負が持つ意味を……さ」

「え……?」


彼のスタイルは喧嘩まがいのもので、こちらを睨みつけてきて、相手を脅す感じだ。


その不正行為を目の当たりにするやいなや、


「うわ、またあいつ同じ方法で相手から勝利を奪おうとしてるわ!」

「邪道!」

「外道!」

「……」


周囲の女子生徒達は非難の声を上げた。


邪道……?

それとも

外道……?


「いい、空富士。脅しに屈しちゃ駄目よ」

「それにね、あいつには癖、あるんだ」

「ずっと昔からの弱点だから、信用して!」


どうやらクラスメートには彼の事を小学校の時から知っている生徒もいるらしく、

じゃんけんも何回かしたことがあるのだとか。


そして構築されていく情報。

相手の癖やら、弱点。


「それでさ、あいつって実は、喧嘩弱いらしいよ」

「うわ、そうなの?」

「……」


あれ?

現代じゃんけんに全く関係ない情報まで送られてきたぞ?


ちなみに相手にはサポートはおらず、僕の周囲にだけ多くの観客。

傍から見れば、こっちの方が情報という点で、圧倒的に有利な構図をしている。


「おい、空富士。お前が勝ったら、この拳が黙っていないぜ」

「……」


また僕に脅しをかけてきた。

擦り傷だらけの右手の拳を宙に上げて、見せびらかす。


「……って、おい!俺の応援してくれる奴はいないのかよ!?」


普段の行いが悪いのかもしれない。

彼はそんな状況を見て、流石に、自信をなくしていた。


「くそ、このままじゃ戦いは不利だ。どうすれば……」


不良は徐々に後方へと引き下がり、教室の端っこの方に追いやられる。

これまで行ったきた悪行から逃げるように。


「いい、空富士。相手の弱点は目線よ!」

「そうよ!目をみなさい!」

「……」


僕に押し寄せる情報の数々。

すると、逃げ惑っていた不良が遂に踏みとどまり、


「くくく。情報戦で圧倒的不利に立たされたなら、俺にだって策はあるんだ!」

「な、何よ、急に……」


先程までの鬱蒼とした表情をかなぐり捨て、彼は一転攻勢、再び自信に満ち溢れる表情になった。


「へっへっへ。それなら、運に身を任せれば、いいだけじゃねーかよ」

「……」


それもそうだ。

運に任せてしまえば、後は、誰にも理解できない領域に達することが出来るはず。

確率や情報、心理戦の類いは到底及ばない聖域だ。


しかし同時に、現代じゃんけんの選択肢には、無作為に選ぶというボタンはない。


無意識に選択肢を選ぶという行為には、

昔の思い出や、心の奥底に眠る大事な経験と結びついているはずだ。

それはあの時、僕がグーを出したと同じ様な現象のように。


でもほぼ他人である彼のそんな情報なんて、僕は知るはずもなく。


「よし、これに決めた!」


彼は目を閉じて、選択肢を決めたらしい。

選択後に瞼を上げて、挑発的な態度を取ってきた。


「ざまーみやがれ!これで勝負は五分五分だぜ!」


その様子を見て、女子達が、


「ずる!正々堂々と勝負しなさいよ!」

「どうせ喧嘩だって、何時でもそうやって逃げてるんでしょ!」


一斉に言葉による暴力を放った。


「う、うるせー!逃げてねーよ!」

「……」


目線に関する弱点は使えないのだ。

困った。

一体どうすれば勝利を確実に出来るのだろう。


と、長考の必要性を感じていると、


「空富士、心配ないわ。あいつには最大の弱点があるのよ」

「え?」


と、ぽつり、僕に告げ口してきた女子生徒が一人。

それは隣の教室の生徒だった。


全く面識の無い女子生徒。

えっと、誰?


「絶対にあいつ、パーを出すから」

「ど、どうしてそんな事が分かるの?」


まるで全知全能の神の如く、彼女は告げて来たので、僕はその絶対的根拠の拠り所を訊いた。


「あいつは、そういう奴なのよ」

「そういう奴?」


さっきの言葉とは裏腹に、滅茶苦茶、曖昧な物言いだった。


「も、もっと、詳しく説明してもらっても、いいかな?」

「ええ」


でもまだ説明をもらっていない。

信用するには難しい。


「私が小学生の頃の話なんだけど。何か物事を決めると時にね、彼と沢山じゃんけんをしてきたんだ」

「ふむふむ……」

「それでね、あいつは大事な事を賭ける状況では、絶対にパーを出してきたの」

「な、なるほど……」


まるで元々かなり親しかったような物言いだ。

謎の説得力がある。


「例えばさ、放課後、私の家か、彼の家、どっちの家にデートに行くとかさ」

「デートに行く?」


突然、何の話なんだ?


「きゃ―――!!!」

「―――うわっ!!!」


彼女は自分の口から出来てきた言葉に赤面させ、絶叫した。


「い、今のは、聞かなかったことにして……」

「え……? う、うん……」


どうしたんだ、一体。

彼女は体をくねらせて、もじもじしている。


「あ、そろそろ時間じゃん。まずいな……」



―――残り時間、30秒。


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



時間を確認してみると、制限時間まで僅か。

僕はそれに賭けてみようと思う。

というか、他に頼りになる情報がまったくないのだ。


「それで、あの人とどんな関係なの?」

「……」


最後に、いっそのこと訊いてみた。

幼馴染とかなのかな?

と思ったら、


「……私とあいつ、前まで付き合ってたの」


彼女は苦渋に満ちた表情を作り、そう小さく呟いた。

つまり元カノ元カレということ。


「ああ、そういう関係で……」

「だから、絶対に勝つのよ」

「……」


なるほど。

だからあそこまで執着していたのか。

全てに合点がいった気がする。


「私の事捨てて、今は、他の女と付き合っているらしいわ」

「は、はぁ……」


彼女は辛い過去を想起したようで、怒りのお面をつけた。



―――残り時間、10秒。


―――”現代じゃんけんの手を選択してください”



「あ!」

「私が押してあげるよ!」

「ちょっと!」

「いや、私が押すから!」


制限時間が迫っても僕が決めかねていると、彼女は僕のグラスを手に取り、勝手に操作してきた。


「って、勝手に押さないで!」

「良いじゃない!あいつとは道連れよ!」

「あっ!」


ポチ。


―――残り時間、0秒。


そして熱狂していた教室に、沈黙が張り付いた。



―――”結果発表”


ごくり。


誰かの息を飲む音が響いた。



―――”台島拓馬 パー”



沈黙の世界に、アナウンスが流れた。



―――”空富士鋏 チョキ”



「くくく……やっぱりね……」 


あの隣のクラスの女子生徒が一番先に、沈黙を破った。



「「「あいつがパーで、空富士がチョキってことは……」」」


周囲の観客が同時に呟いた。



―――”勝者 空富士鋏”


―――”おめでとうございます”



「うそだ!!!ど、どうして分かったんだよ!空富士!」

「……」


「「「よくやった!!!空富士!!!」」」


一気に教室中に喧騒が巻き戻り、熱狂に包まれていった。


「へへへ……私がこの学校に居ることを忘れたのかな……?」

「うわ!お前いたのか!もしかして、あれ、バラしたのかよ!」

「……」


そして再び他人の力によって僕は三回戦を勝ち抜いた。

つまり僕はさらに優勝まで近づいたのであった。



250万人弱から、とうとう100万人程度へ激減。

着実に数は減っていく。

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