第95話、魔王、独り言を胸の内に秘める
「……っ!」
もし、5階の地面、床が4階と同じように全床落とし穴仕様になっていたのならば。
どこまでも砕いて落ちていきそうな衝撃。
実際、トラップでもない限り『不壊』が設定してあるであろうから壊れることはなかったが。
確かに床がたわんで弾んでいるようにも見えて。
それは、気のせいではなかったらしい。
ほとんどのモンスターたちが、そんなカンストダメージに落とすアイテムごと露と消える中。
身体の軽そうなスケルトンや宙に浮いていた『ヘッド・スクイーズ』たちが衝撃で打ち上げられ、
期せずして空中戦の開始となってしまって。
「きっかりあたしたちの分も残してくれるなんて、さっすがディーね!」
「迎撃、する」
「うう~、のんも参加したいよお」
結局、夢の6回攻撃を目の当たりにすることもなく。
思えば初めての他ダンジョンのモンスターパレード(小規模)は。
あっけなく終わりを告げていて……。
※
「おお、これが主殿のお力でございますか! 正しく、音に聞く猛将になった気分です!」
「いやいや、あれは元々のディーの地力が凄まじかったからさ。いつの間にかレベルアップを?」
「はい。主殿とチュート殿のお力をお借りして、主殿肝いりのダンジョンに潜らせていただいております」
「ディーちゃん、ごしゅじんさまにまことに必要とされるまで鍛錬あるのみってずっと鍛えてたんだよ。のんも一緒にダンジョンもぐったの~」
「ディーってば自己評価が低すぎるのよ。誰よりも努力してるし、剣を扱わせたら誰よりも強いのに」
「ヴェノン殿!? スーイ殿までっ。……いえっ、しかしお二人には敵いませんから。ましてやフェアリ殿には足元にも及びませんし」
「……まぁ、フェアリはねぇ。ディーの天敵みたいなものだし」
「わたしの名前が一向に出てこないのは……いやや、そんな事よりもご主人。今がチャンス。ここまでずっと逃げ惑っていたディーのことを褒めてあげて欲しい。大丈夫、今硬いのはとっちゃうから」
「いや、その必要はないよ」
何故なら、冷たい鉄鎧越しならば俺でも勢い込んでハグできるからだ。
言葉尻で判断するに、なでなでで良かったのかもしれないが。
ここはもう生まれ変わった? それこそ勢いでゴー、である。
「ひゃわぁっ!? ち、ちょっとピプル殿ぉ! 剥ぎ取らんでくだされぇっ。あ、あ主殿少々お待ちをぉ! これはピプル殿の冗談ですから! ……やややっ! あちらに階段が! 6階層の様子を見て参ります!」
「あ、待って。ひとりは危険。ついてく」
こうして生まれ変わって意識が変わる前。
『魔物魔精霊』バッグの中に篭っていた彼女たちに対して。
好かれていないから避けられ呼びかけにも応じてもらえない、などと思っていたわけだけど。
やはりスーイやピプルが言っていたように。
それも結局俺自身の方が歩み寄っていなかった……
彼女たちから逃げて、求めようとしていなかったからこそ、なのだろう。
それじゃあ変わりに撫でて欲しいと。
わんこめいた幻見せつつ近づいてくるヴェノンをわしゃわしゃしつつ。
流れ弾が来て欲しいような、
そうでないような。
ピプルの冗談? めいた言葉が自分にも向けられるのではないかと。
(慌てふためいて先行するディーについていったからそれはないのだけど)
むすっとだんまりを決め込んでいるスーイに苦笑しつつ。
勇者じゃなくて魔王だけれど。
そのうちに勇気もって、みんなともっともっと触れ合えるようにするからと。
独り言を胸の内にしまい込みつつ刻み込んでいて……。
(第96話につづく)
次回は、2月7日更新予定です。




