第94話、ダンジョンマスター、素振り忘れてワンフロアトラップにかかる
天然の洞窟だからなのか。
今の今までこれといったトラップと言ったらゴブリンらが掘った落とし穴ぐらいだったが。
不意に今までの下層へ向かえる階段とは雰囲気が変わっていることに気づかされる。
そう言えばマイダンジョンは鬼仕様だけれど階段周りにトラップはないんだよなあ、なんて思いつつも。
「4Fの階段発見。なんとはなしに今までと環境が変わりそうだから、まずは俺が先行したいんだけど」
「主殿、お待ちください。先行は私がっ」
「ん、そうかい? それなら折衷案で、一緒に……手を繋いで行こうか」
階段周りの、トラップ対策だからと。
俺としてはそれ以外に他意はなかったんだけど。
「っっ!? て、てて手でござますかっ!? しかしそれでは刀が……いえ、ええい! ままよっ」
何だかちょっと前というか現在進行形の俺を見ているかのようなディーの狼狽えように。
気持ちが分かっちゃうなぁ、なんて思いつつディーに限らずパーティーの分散を防ぐ(それだけで完璧に防げるかどうかはまた別問題ではあるが)ためにと。
ヴェノン、ピプル、スーイにも俺か、あるいはディーのどこかに触れるように補足して。
「はっ。成る程。そう言う事でしたか」
「のん、ごしゅじんさまの背中にくっつくねー」
「だっこを所望したいところだけど、バッグハグで我慢する」
「ふん。そう言う作戦なんだから仕方ないわね! あたしの方から触れてあげるわ!」
魔精霊で言うのならば獣型……いわゆるモンスターの姿でくっついてもらった方が動きやすいんだけど。
なんて言葉は続けられそうもなかったので、結局そんなおしくらまんじゅう状態で4階への階段を下っていくこととなって……。
※ ※ ※
どのようなダンジョンであれ、ダンジョンであるのならば慎重に最大限警戒することは間違ってはいないのだろう。
だが、調子にのって両手が塞がってしまっていたことをいいわけにして。
久しく素振りしながら進むことを忘れてしまっていて。
それこそ、『異世界への寂蒔』における攻略失敗一番原因だったのに。
意識が変わってきて、少しばかり浮かれていたのもあったんだろう。
ダンジョンの様相が、聞いていたピラミッド風の土色煉瓦な壁に変わっていると気づきつつも。
階段から一歩踏み出したその瞬間。
壁と同じ材質であろう地面が、床が抜けた。
「……ブック、『ヴェロシアップ(倍速行動)』! そこから『サブスティート(能力向上)』の本! みんなもっとくっついて! ヴェノンは翼を広げてくれ!」
それでも、そんな理不尽なトラップすら想定を外れていたわけではなかったから。
まずはみんなに『ヴェロシアップ』、倍速になるバフをかけ、何をするにしてもありとあらゆる「力」が上がる『サブスティート』を発動。
仮に近くにモンスター、敵性がいたのならば。
範囲に効果があるブックであるからして彼らにもバフがかかってしまうので、ややこしいことにはなってしまうが。
お先に落とし穴で落っこちてしまっていたからなのか、幸いにもその姿はなく。
「くぅっ、このような罠がっ!」
「床全面抜けるってどういうことなのよ! フロアの意味ないじゃない!」
「もっとくっつく」
「つばさ、ひろげるだけでいいの~?」
「ああ、滑空するようにゆっくり降りていこう」
最終手段として、『セシード(内場脱出)』カード、ブックの用意はあるが。
万が一使用不可な可能性と、まだ何も成果を得たわけではないといった欲もあって。
恐らく5階へつながっているであろう階下の様子を見ていくことにする。
落とし穴の先にありがちな、落ちてきたものがダメージを受けるタイプのトラップ……剣山や毒沼が見えたが。
4階のように全ての床に設置されているわけでもないようで。
「ヴェノン! そのままはばたきを維持してくれ。移動はこちらで調整しよう」
「はーい!」
ヴェノン以外の三人には引き続きくっついてもらいつつ。
よく使っているようでいて、何気にお初使用な気がしなくもない『ミプデトナ(吹飛衝撃)』のカードをあえて自らに使いつつ。
落ちる場所をコントロールしていって……。
「モンスター、たくさんいる」
「やっぱりアンデット系統ね。やっぱりここは最近覚えた火の魔法かしら」
「小さいけどモンスターパレードだな。……いや、落っこちてきてみんな集まっちゃってるだけかもしれないが」
「主殿、露払いの許可を!」
「ああ、よろしく頼むよ」
「はっ。参ります! 螺旋飛翔!!」
地に足をつけて陣形固めてモンスターパレードに対するとしても、場所取りは必須であろう。
4階全フロアが落とし穴。
そう言うギミックならば避けようがないモンスターとの遭遇ではあるが。
ディーとしては失態を返上したい気持ちでいるようで。
ならばお願いすると頷くと同時にいち早く飛び込んでいくディー。
「……あ」
「ごしゅじん、どうかした?」
「いや、そう言えば『ヴェロシアップ』も『サブスティート』も効果切れる気配ないなって」
そもそもがダンジョンバトルで考えても、ディーは俺たちの中で唯一素の状態で一ターン三回攻撃ができるわけで。
倍速となって行動回数が増えただけでなく、落下の衝撃などに耐えうるようにと全体的に力が上昇する『サブスティート』がかかっているディーは。
正に鎧袖一触、一騎当千。
ゾンビにグール、マミーやスケルトンに混じって、ヘッド・スクイーズなどもいたが。
捻りを加えつつ落下の力を利用した突貫、刺突は。
そんなやりとりをかき消すほどの轟音立てて。
触れるものを刹那塵にしつつ、止まらぬ勢いで大地を、ダンジョンフロアを穿っていって……。
(第95話につづく)
次回は、2月1日更新予定です。




