第90話、ダンジョンマスター、壮観なレギオンを見つめほくそ笑む
エルヴァやアオイも含めた、おしゃべりできる頼もしい仲間たちに集まってもらった俺は。
みんなの顔を然と見渡しつつ、敢えて少し偉そうに口を開いた。
「みんな、聞いてくれ。いや、ディーにもう聞いている人もいるだろうが、この第二ホーム付近に求めていたまだ見ぬダンジョンがあったみたいなんだ。本格的に挑戦する……と言いたいところだが、せっかく第二ホームがあることだし、まずはお試しで少し潜って見たいと思う。ディーは第一発見者として確定として、その他に同行したい人はいるかい? 今回はあくまでも様子見だから……そうだな、定員としてはあと2~3名かな」
「ふむ? その定員にはわしは入っているのかの」
「オレは? 俺はそもそも当然入ってるよね?」
「いや、ホームがここにあることでマイダンジョン……『異世界への寂蒔』にも挑戦できるから、今のうちに自らを高めたいってことならそちらを優先してもらってもいいかな。もちろんチューさんもね」
取り敢えずは本格的な探索前の様子見である。
この後、リィアラさんに教えてもらったメインディッシュ、友人がコアであると言うダンジョンの事もあるし、第二ホームができたことでここでのマイダンジョンへの挑戦ができるから。
それも含めて第二ホームの管理をチューさんに任せたい気持ちは確かにあった。
思えば、そんなリィアラさんと邂逅した時には気づきのきっかけはあったのかもしれないが。
幼いのにお姉さん気質なチューさんがいつまでもふところにいるのも、というか。
毎度毎度探索の度にふところにいてもらうこともないといいますか。
人型のチューさんが幻のたぐいではないと然と認識してしまった以上、気恥ずかしい部分があったのは確かで。
「ふむ。確かに様子見であると言うのならばコアはコアらしく我が城へ引っ込んでいることにしようかのう」
「……自らを高める、か。諸刃の剣な部分もなくはないけれど大事だよね。うん、ぼくはご主人さまのダンジョンで鍛えることにするよ」
「う~ん、そうか。あんな風に理不尽に守られるのはたくさんだし、オレも強くならくちゃ。ジエンとはけっこうレベル差もあるし」
「あっ、それならわたしもマスターのダンジョンにはあまり行ったことなかったし、ホームに残っていようっと」
きっと、チューさんは俺のそんな心持ちを分かった上でたまには良いじゃろうとばかりに。
俺のそんな誘導尋問っぽい要望に応えてくれて。
フェアリやユウキは、つい先ほどの結果的に見れば選択ミスの凡ミスを大分重く受け止めたようで。
そんな二人に感化されたらしいシラユキもホームに残る、とのことで。
恐らくは、そう言いつつも未だよそ様のダンジョンに挑戦、探索に参加したことのないメンバーに気を使っている部分もあったんだろう。
つまりは、そうなってくると。
「はいはーい。のんはこんかいこそごしゅじんさまについてくからねっ」
「……守りの要であるフェアリ殿の不在ですか。その代わりが務まるとは思えませんが、精一杯使命を果たします」
「大丈夫だよ、ディーなら。ご主人さまのことだから一人だけで無茶するだろうから、しっかり見ていてね。のんのこともよろしく」
「は、はいっ」
「うんっ。ごしゅじんさまにくっついてるよ~。ちゅーさんみたいに!」
何だかんだで、一番のお姉さん(チューさんはそう言うと怒るだろうけれどきっとみんなのお母さん)しているフェアリの言葉に、素直に従うヴェノンとディー。
特にヴェノンことのんは今までちょくちょく『魔物魔精霊』バッグの内なる世界から顔を出してくれていたけど。
一緒にダンジョンに潜る機会は結局なかったし、ちょうどいいのだろう。
「んー。それじゃ、わたしもごしゅじんについてく」
「まぁ、しょうがないわねっ。ピプがそう言うのならあたしもついていくことにするわ。感謝しなさいよね、マスター!」
「おお。ありがとうスーイ、ピプルも」
「っ、ちょっと! そこは今までなら素直に返すところじゃなかったでしょうに。……やっぱりマスター、かわったわね」
「わたしも、気づいてた。今までのごしゅじん、あんまりわたしたちのこと見てなかったけど、今はちがう。だからわたしもごしゅじんのことよおく見ることにした……って、スーイが言っていた」
「ちょっとピプ! あたしはそんなこと……考えてなくもけどっ! ええ、そうよ! マスターがわたしたちのことを今まではあまり必要としていない感じだったから、特にピプば拗ねちゃって、マスターに呼ばれてもピプは応じずに逃げ回っていたのよ!」
「ち、ちがっ……くはない。今までのごしゅじんはわたしたちのこと好きじゃないのかな、とは思っていた」
「……重ね重ね申し訳なかった。みんなには迷惑をかけてしまったけど、やっぱり一度『復活蘇生』使って舞い戻ってきたのが良かったのかな。おかげさまで目が覚めたよ」
「そんな事言ってあんなこと二度としちゃダメだから。あの時のジエン本当に死んじゃったかと思ったんだから」
「いや、うん。ダンジョンには即死系トラップはつきものだから必要な備えではあったんだが……」
「いいわけしない!」
「ああ、うん。すまなかった。改めて俺は復活系のアイテムスキルを使わずに済むように立ち回ることにするよ」
「まだちょっとズレている気がしなくもないけど、とりあえずはそれで納得しておくから、ピプルさんもスーイさんもジエンのことよく見ててね」
「うん」
「まあ、あんなに心配させたんだから当然よねっ」
ひとたびダンジョンに潜ったのならば。
どうしようもなく詰められてしまう状況は少なからずあるんだろう。
故に『リヴァ』の薬などのいざという時のアイテムスキルの効果のほどは確認しておきたかったわけだが。
なんがかんだ怒られつつ予想を超える効果を発揮してしまいつつもその目的は達成したので。
祝福の覚醒がてら、ユウキが言うように。
今度はすべてを使い切ってどうしようもなくなった時のためにと。
復活系のちょっとずるい気がしなくもないアイテムスキルを使わなくてもいいように立ち回るようにしよう、なんて。
結局ちっとも懲りていない俺自身がそこにいて……。
(第91話につづく)
次回は、1月9日更新予定です。




