第9話、勇者と魔王、同郷であると確信し意気投合
―――『異世界への寂蒔』。
魔王、池森慈円のための本拠地。
後々、チューさんや他の魔王さん達に聞く所によると、そこは舞台裏みたいなところで。
例えダンジョンが攻略されようとも、その場に勇者を招き入れるなんてありえない、とのことであったが。
生憎、常識に囚われないと言うか、この世界の常識を知る暇があったら、説明してくれるチューさんを懐に入れて自らのダンジョンを楽しむ事に心血を注いできた俺である。
結果的にその楽しみを邪魔された事による出会い。
勝手に入っておいてダンジョンクリアできなくて死に戻りを繰り返す事で壊れてしまったヤローどもはともかくとして(今頃は、ダンジョンの外で幻惑に囚われた騎士様とともによろしくやっていることだろう)、可愛い女の子なら助けるのが道理ってもんだろう。
あ、ヤローどもだって、繰り返すループからだしてやったんだから助けたっちゃあ助けたんだけどね。
どっちかって言うと、折角だからお知り合いになりたいと言うか、聞きたかった事があったから迎え入れたのだと言えなくもない。
「さて、改めて自己紹介かな。俺は池森慈円。でもってこっちは相棒兼ふところマスコットのチューさんだ。どうぞよろしく」
「……よろしくお願いするのじゃ」
勇者……自分を倒すものだからなのか、何だかチューさんが緊張していたが。
だからこそ敢えてしっかり自己紹介して、俺は机にある飲み物や、おむすび、サンドイッチを薦めてみせた。
初めは、見た目よろしくプリティすぎてそりゃふところにしまいたくもなるだろうチューさんに視線が釘付けになっていたようだったが。
明らかにこちらの世界のものではない、向こう(故郷)のコンビニなどが売っていたものを見て、あっと驚きの声を上げる。
「これって日本の……それにあんた日本人……いや、転生者なのか?」
「ああ、やっぱりそう言うキミも?」
あまり、と言うか三次元な意味では日本人に見えないが、テーブルの上に並んだものを知っている時点で俺の呟きは証明される。
それこそが、彼女に聞いてみたかった事そのもので。
勇者や魔王がたくさんいるとチューさんに聞かされた時点でもしかしたらそうかな、なんて思っていたが。
地球の人っぽいし、これでオレの目論見……魔王と勇者で敵対だ、なんて古臭い事やめにして、一緒にいろんなダンジョンを楽しもうぜ作戦が一歩前進した事になる、と思っていたんだけど。
「そうなんだが……ああ、くっそ。なんでだよ。何でオレは女になっちまったんだ。不公平だろう!」
突然の大きな高い声に、びくりとなるチューさんを宥めつつも、俺自身にも衝撃が襲っていた。
だから言動が男っぽいのかと納得できる部分もあった。
着の身着のままこっちに来た俺とは随分と違うらしい。
しかし、TS……性転換ものかぁ。
好きなジャンルではあるけど、自分が張本人になるのはなぁ。
ポニーにした桜色の髪に碧眼のお人形さんみたいな容姿を見ていると、余計にそう思う。
人の趣味をとやかく言う気はないが。
俺としては数ある転生トリップの中、自身の望んだ形でこの世界に来れるのではないかと予想していたのだ。
つまるところ、嫌も嫌も好きのうちで、しっかり髪型セットしているし、実の所は本人が望んだ結果だと思うのだが……。
その事自体に気づかない事で自分を保っているのかも、なんて可能性に至るが、余計な事は口にしない俺である。
「そう言う言い方をするって事は、キミは男だったのか? あ、ええと。そうするとなんと呼べば?」
「……ああ、すまん。誰も信じてくれなかったから、名乗るなんて事、すっかり忘れてたよ。草野悠季だ。似合わないにもほどがあるだろ?」
いや、そんな事は無いと言うべきなのか。
頷くのも失礼な気もするし。
「あー。なんて言えばいいのか。大変だったなぁ。まぁとりあえず俺はそのこと信じるぜ、うん」
一番好きなのはダンジョンゲーだが、性転換モノのラノベなどにも理解はあるほうだ。
だから、そう言う事もあるだろうと、お世辞でなく信じられる。
まぁ、別に本当でも嘘でも俺にとってみれば大勢は変わらないと言う身も蓋もない意見はやっぱり置いておくけどな。
「そうだよ、めっちゃ大変だったんだよぉ、聞いてくれよ!」
俺もそうだが、本来敵対関係にあるだなんて、どこかへふっとんでしまっているのだろう。
何だかそれにチューさんが不服そうにしていたが。
ユウキは構わずというか、そんなこと考えたこともなかった、とばかりに。
今まであったことを話してくれた……。
(第10話につづく)
第10話はまた明日更新致します。