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エンドロールには早すぎる~一万回挑める迷宮に棲まう主(まおう)は、マンネリ防止、味変したいと人様のダンジョンに突貫す~  作者: 大野はやと
メイン:エンドロール前

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第88話、魔王、ある意味生まれ変わって魔王的本格化する



これが、自身の大概に過ぎる能力による酔っ払いめいた状況であったのならば。

調子に乗りまくって触り返すことくらいはしてしまっていたかもしれないけれど。


チューさんの言うどっちつかずとは、苦手だと言いつつもそうではない。

ある意味で魔王化してしまっている俺自身を指していているわけだけど。


その原因は何であるのかと。

女の子が苦手になってしまった理由に深刻なものがあるのだとチューさんは判断したらしい。

遠慮しつつもそう聞いてくるチューさんに、俺はあえてあっけらかんとしてみせて。



(いやいや、そんな。どこぞの主人公みたいな重たい過去とかエピソードがあるわけじゃないんだ。だけどまあ、俺が魔王としてこの世界へ呼ばれたことについては、分からなくもないんだよ。ここへ来る前のことはあんまり思い出せないんだけど、裏を返せばダンジョン……ゲームばかりの日々でさ。恥ずかしながらそれこそ魔王だなんて呼ばれてもおかしくないくらいには女性との接点、なかったんだよ。きっと間違いなく数十年単位で、女の子と会話すらしていなかったはず)

(……うぬぅ。そうじゃったのか? 初めて会うた時はそのような印象、なかったがの)


思わず、と言った風に唸り首を傾げるチューさん。

もしかして、魔王の選ばれかたまでは知らなかったのだろうか。

いや、まぁ、現実の世界でも魔王と呼ばれてもおかしくなかったからなんて感じで選ばれているのは俺だけかもしれないし、故郷で本当に魔王の資格を得るまで生きられたかだって、定かではないんだけども。


そんな風に自虐的に呟いておいて、その実凹んでいる。

その事も、きっとチューさんにはバレバレで。


 

「スーイ、悪いが次はわしに順番を譲ってはくれぬか?」

「……!? えぇっ、急にどうしたのよっ」

「何だかんだで見ておるばかりじゃったからの。わしも膝を貸したくなったのじゃ」

「……チュートがそこまで言うならば仕方がないわね。だけど、その次はあたしの番だからね!」

「うむ。分かっておるよ」

「チューさん、なんだかお母さんみたい?」

「ふむ。それも存外悪くないかもしれんの」

「……(えぇっ!? どうしてそんな展開に!? ってかチューさんひゃっこいいぃ! だけど慣れてる! 膝枕慣れてるうぅっ!?)」



ヒヤッとしたのは、ほんの一瞬。

刹那の後に柔に過ぎる感触。

ピプルが思わず口にしたように、どうやら俺の情けないしかない部分が、チューさんの母性を刺激してしまったらしい。

辛抱たまらなくなって、とうとう目を開けてしまったら。

 


さかしまの、聖母とみまごうチューさんの笑顔。


魔王的な俺は。

だけどその時ばかりはいつもと違って、穏やかに眠りにつくことができて……。






               ※      ※      ※





この新たなる拠点、第二のホームへとやってきて。

何度目のめざめとなっただろうか。

温泉+みんなの膝枕効果で、元気全快になった俺は。

早速とばかりに次なるダンジョンへ向かわんと算段していたところ。

第二ホームとその付近で各自自由行動をしていたみんなの中で。

ホームの外の警戒に自主的にあたっていたらしいディーが、青銀の全身鎧をしっかり着込みつつ駆けつけてくるではないか。


流石に警戒任務の時は俺の妄想……じゃなかった、進化した結果である女の子の姿をとっていないというか、しっかりヘルムを被っているんだな、なんて思っていると。

さっと片膝を付いたディーは、かしゃんと面差し上げて菫色の髪を後ろ手にまとめた……サムライガールなユウキとはタイプの違う、騎士めいたきりりとした相貌を見せてくれて。



「お休みの所申し訳ございません。外界の警戒任務に当たっていた所、主様がお求めになっておりましたダンジョンを発見したのです。いかがいたしますか? お望みならばまずは偵察を。此度はその許可をいただきたく」

「おお、新しいダンジョンかな! ありがとうディー、お手柄じゃないかっ。偵察と言わず、一緒に行こう。まあ、どれくらいの深さか分からないし、第二ホームのこともあるし、他に向かいたいメンバーがいるなら選抜する必要はあるけども」

「はっ、了解いたしました。早速皆を集めて選抜のための話し合いを……っ」


もとの彷徨っていそうな全身鎧なイメージがあったからなのか、ディーは一見するとお固くて冷たい印象だったけれど。

こちらを見上げてくるその大きな瞳は、温かみを感じるアメジストの光彩がきらめいていて。


……ああ、今までの俺は一体何を見ていたのかと思わずにはいられなかった。

視線を向けているようで、周りのみんなのことですらちゃんと見ていなかったんだなぁと反省していると。


何故かふっと顔を伏せるディー。

不思議に思って首をかしげていると。


「……はっ。申し訳ございません主様! 何か私めに至らぬ所、お目汚しな部分がおありでしょうか!」

「え? いやいや、そんなんじゃないって。むしろ悪いのは俺の方だったんだ。ディーがこんなにかっこよくて可愛いのに、 まともに目すら合わせられなかったんだから」

「かっ、かかっこかわっ!? し、し失礼! 皆を呼んで参りますぅっ!!」



返す返す今までの自分は何をやっていたのかと。

文字通り目が覚めた気分で。

今までの自分ならば口にはしなかったであろう言葉がまろび出てくる。


……もしかすると、今まで魔王化などとのたまっていたものは。

緊張や遠慮、恐怖や羞恥をとっぱらった素直な俺自身なのかもしれない。


それまでのきりりとした怜悧な雰囲気などどこかへ行ってしまって。

さぁっと赤くなった顔を青銀の面差しで隠しつつ皆を呼びにがしゃがしゃと駆け出すディーの背中を見守りつつ。

しみじみとそんな事を再確認する俺がそこにいて……。



    (第89話につづく)








次回は、12月27日更新予定です。


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