第83話、ダンジョンマスター、倉庫の肥やしになっていたラストエリクサー的アイテムを使ってみたいって
「よし、せっかくだし登りきったらソリか何か作っちゃって下っていこうか」
「おぉ、いいね。ワクワクしてきたっ」
「ほんと!? それじゃあソリはあたしがつくっちゃうよ~」
「大丈夫かのう」
わしはふところへと逃げ込んでおくから良いがの。
なんて、チューさんのくぐもったつづく言葉は。
ユウキやシラユキの嬉しそうな声にかき消されていく。
だけどその時の俺は、すっかり失念していたんだ。
マイダンジョンと他の場所では我がスキルやアイテムの効果が大分違っていると言うことを。
そんなわけで改めまして雪山の、だけど寒い空気が入らないことでらしくない、そんな行軍。
どこまでも続く一面の白銀世界。
それにただただ飲まれていく映像にも見えて。
何とはなしに寒さよけ程度で作り出したいわゆる所の風の結界は。
思っていた以上に俺たちに快適さを運んでくれているらしい。
とはいえ、あまりにも視界が悪いせいもあって。
登っても登っても新たなるダンジョンの発見に至ることはなく。
てっぺんらしき場所に辿り着いて。
シラユキにボブスレーっぽい複数人が乗れそうなソリを氷で作ってもらうと。
ユウキとシラユキを後ろに従え、早速とばかりに乗り込み滑り出したまでは良かったのだけど。
快調に滑り出してすぐ。
かなりのスピードに見える割には、結界貼ってあるせいで風に打たれることもないからどれだけ進んでいるのかも実感がなく。
そんなカード……『ヴァル・シール(風防障壁)』から産まれたの風の結界は目に見えないからすぐには気付けなかったが。
初めはドーム型のものが展開しているのかと思いきや、どうやら地面の下……雪の大地までも半円な形で大きく削ってしまっていたようで。
その事実に気づいた時には。
結構な距離を雪の大地削りながら移動してしまっていて。
起こる結果は当然のごとくの雪崩である。
と言うか、そんな雪崩の上に乗っかっている状態だったんだろう。
とはいえそのまま滑り落っこちていっても。
俺たちだけならば『ヴァル・シール』のカードによる風の結界もあることだし、どうとでもなったのだけど。
雪崩ごと俺たちが向かう先に、魔物だけでなく様々な生き物が暮らすであろう森が見えてしまったから。
かなりのスピードによる、だけど現実感のないアトラクションめいた行軍にはしゃいでいる後ろの二人の声を耳にしながら。
俺は。
その時の俺は、ついつい魔が差した……これはチャンスなんじゃぁないのか、なんて思ってしまったのだ。
何せ、マイダンジョン外で使った事のないカードブック等等は多すぎて。
だけど、いざという時のために、一度どういった効果を及ぼすのか知りたい、と。
そこからは。
自分で言うのもなんだけど、大分気合入れて。
あるいはムキになって頑張ったと思う。
手始めに、もはやお馴染みの『ヴェロシアップ(倍速行動)』のカードの使用。
そして、ユウキとシラユキ……その際にさっとユウキのふところへと丸預けしていたチューさんに何かあってはいけないと『ヴァル・シール』のカードを更に重ねがけして強化。
白一色の世界の中からまぁまぁ大きめの樹が見えてきた所で。
その枝葉に大量に乗っかっている雪の塊と、俺を『ウェルスランバー(場所置換)』のカードにより場所替えして。
これからしでかしてしまうかもしれない自分の失態は自分で拭かねばとそこから普通に方向転換。
『ヴァル・シール』、風の結界に近しいとも言える、前方……180度はカバーできる見えない刃を持つと言う、『レインボウ・ガイアット・ランス』+11を取り出し装備。
(ちなみにダンジョンで言うのならば、180度カバーとは5マス分にあたる)
更に、『ヴェロシアップ』のカードを使う時はほとんどコンビで使うことも多い、『パワーブランド(底力開放)』のカードも使用して。
最早小山のような雪の塊と化した『ヴァル・シール』により作られた風の結界を迎え撃つ。
初めに『ヴェロシアップ』のカードを重ねがけしたのは。
そんな風の結界内で、俺の突然の行動に大層びっくりしている三人を傷つけず。
後ろに従えた森を守りながらしっかとその雪山を受け止めるための布石である。
そして更に。
「『ダブルエッジ(諸刃調整)』のカードをくらえぇ!」
ついちょっと前に、体のいいレベルアップモンスターと勘違いして滅してしまったアクマやらエンジェルやらにも使用した、受けたものをいわゆる所のHP1、極限まで弱らせる代わりに俺自身のHPを半分にしてしまうもので。
迫り来る雪山に効くかどうかは見切り発車な所はあったけれど。
でもそれでも、何とか一人で受け止められそうなほどには雪が舞って小さくなっているような気がして。
「ぬうぅおおおおおぉぉっ!!」
そこからはがっぷり四つのタイマン。
思い切り叫んだその瞬間。
いろんなところの血管が切れるような感覚に襲われつつも。
構わずに勢いもって。
下手に惜しんであまり使った機会のなかった虹色の槍を強く握り締め振るうのであった……。
(第84話につづく)
次回は、11月27日更新予定です。




