第81話、ダンジョンマスター、新たな家族を迎え入れることは有難いと知る
何だかんだでみんな優しいからか。
滾滾と言って聞かせられるような機会はなかったわけだけど。
何せやらかしてしまっている自覚は確かにあったので。
俺は言われるがままに『ユキアート』の魔王、ミゾーレさんのパーティーメンバーのひとりである、担当としてはやはりヒーラーになるらしいリーズさんに改めて会いにいくこととなって……。
「驚きましたでしょう? ジエンさまのおかげで、リザさまもミゾーレさまも本来のご自分として過ごされるようになりましたの」
「いやぁ、はは。迷惑をかけっぱなしな俺が良かったです、なんて言ってもいいかあれなんですけども。勇者と魔王のパーティーメンバーの皆さんが、共に暮らしていらっしゃるのには驚かされましたね」
「あら。『リングレイン』の勇者さまと魔王さまだって共に過ごしていらっしゃるのでしょう?」
「あぁ、確かに言われてみればそうですね。もう、家族のような感覚に近いのかもしれません」
「ふふ。実はわたくしたちもそうなのです。物語の舞台上ではバチバチですけれど。……あ、これは内緒、オフレコですからね」
「はい。分かっています」
実は、リザヴェートさんとミゾーレさん以外のそれぞれのパーティーメンバーは。
あるいはチューさんがフェアリを始めとするみんなを、我らがダンジョンにスカウトしてくれたように。
リィアラさんが、氷雪ばかりの街であった『ユキアート』で、冒険者をしていた子達に声をかけた事から始まっているらしい。
最終目標は『ユキアート』の街の活性化、ダンジョンの活用とそのダンジョンで繰り広げられる物語にて一山当てる、とのことで。
それに賛同したリーズさんたちは、云わばダンジョンと言う名の舞台の役者さんであるとも言えて。
そんなみなさんが暮らすお屋敷に邪魔したわけだけど。
開口一番リーズさんのセリフは。
こうしてリーズさんと一体一でお話する機会をいただく前に迎えてくれた、リザヴェートさんミゾーレさんがふとした瞬間に手を繋げそうなくらい距離が近かったことを言っていて。
リィアラさんから全てが自分の趣味ばかりではないと聞かされていたからこそ。
『ユキアート』の勇者であるリザヴェートさんの願いが、前世で叶わなかった恋愛をしてみたいと言ったものであることにも納得できたし、言うほど驚きもなかったのは確かで。
「そんなわけでして。申し訳ないです。せっかく新たな家族の一員となること、お誘いいただきましたのに。わたくしはこの街が好きで、可愛らしい二人を見守っていく方が性にあっているようでして」
「あぁ、こっちこそすみません。相手の気持ちも汲まず、軽率な行動をしてしまったこと返す返す申し訳なかったです。その上で、ええと……随分とうちの子たちに脅かされたんじゃありませんか?」
それは果たして。
新しいメンバーが増えるかもしれなかった事への嫉妬のようなものなのか。
俺たちのパーティーメンバー……家族になることが冗談抜きでしんどくて生半可な覚悟では務まらないってことを意味しているのか。
流れに流されてうちのパーティーに加わるかもしれないとなって。
リーズさんは特にフェアリと念入りにお話されていたようで。
再度頭を下げつつそう言うと。
リーズさんは笑って手を振って見せて。
「いえいえ。そんな事ありませんわ。確かにわたくしも勢いに任せてはしたないことを言ってしまいましたし、ジエンさまたちと共に在る覚悟がないのも確かでしたから」
きっかけは、水に濡れたことによるとらぶる……あれやこれやだったけれど。
リーズさんは改めて自分の立ち位置について考えることができて、かえって良かったのだとさらに笑みを深める。
俺はそんなリーズさんと今更ながら一体一でいることに仰け反りつつも。
魔王化して暴走していたとしても、誰彼構わずテイムしたがっているように見えて実はそうではないことを思い出し、俺は改めて口を開いた。
「でも、今更こんなこと言うのもあれなんですけど、リーズさんと出会ったのがマイダンジョンで、あるいは初めてダンジョンで会ったのが俺だったのなら、我が軍にお誘いしていたのは間違いなかったとは思いますね」
「あら。嬉しいことを言ってくださいますのね」
そう、フェアリたちが時折口にしている、俺のものになれ(誇張表現)と言った言葉は。
あながち酔った勢いでの戯言というわけでもないのだ。
初めて会った時に、あらゆる幻術の類が効かない俺に実のところリーズさんの正体が見えてはいたのだけど。
リーズさんが明かすことはないだろうし、こちらから敢えて伺うことももうないだろうけれど。
リーズさんは、『人型』以上の魔物魔精霊で。
恐らくは回復や補助の魔法に長けたタイプ……フェアリと異なるのは、回復魔法一極集中型ではなく。
バフやデバフにも長けた能力を扱える種、なのだろう。
もっとはっきり、はじめに見えていたのは。
ピプルと似た、蛇の特徴を持った種族。
今のパーティーメンバーを考えても、ポジション的にいないタイプであったのは確かで。
故に、発した言葉は嘘偽りないもので。
少し惜しいことをしたかなぁ、なんて苦笑を。
リーズさんは柔らかい笑みで受け止めてくれて。
「……まぁ、ないとは思いますけれど、もしもお二人に飽きられ、お暇をいただくことがあればそちらにお邪魔することもあるかもしれませんね」
「ははは。期待して待っています」
最初はどうなることかと思ったけれど。
お互い、周りのみんなのフォローもあって。
何だかとっても良い感じに、『ユキアート』滞在の、その最終日を迎えることができて……。
(第82話につづく)
次回は、11月15日更新予定です。




