第76話、魔王、いい加減自分の瞳が言うことをきかないことを受け入れる
皆さんしっかり着替えを終えて。
シャワーなり温泉なりにつかったかのごときほかほかな感じのご登場である。
『ユキアート』の勇者と魔王。
そして、そのパーティーメンバーの皆さん。
今までの流れとその場に漂う空気に、当然のごとく離脱したくなる俺。
よくよくと言うか、直視しないように見回すと。
魔王ミゾーレさんも勇者リザヴェートさんもいつの間にやら男装をといていたけれど。
ミゾーレさんのパーティーメンバーの一人である、翼持ちし、風魔法が得意であるという、ヒーラーめいた服装に着替え終えていた女性……戦略的退避をする直前に、フェアリの惚れ惚れするような触手の一撃を受けて、衣服がパージしてしまっていた存在が、彼女であった事に気づかされる。
それもこれも、そんな彼女が俺を目に入れるや否や両腕を抱きしめるようにしつつ涙目でこちらを睨んできていたからだ。
もしかしなくても、隣のフロアでコアな二人とともにのぞき見していたこともバレてしまったのだろうか。
……いや、それ以前に俺の代役となってあの場にいてくれていたアオイが、のぞきなどといった卑怯なものではなく、ばっちりしっかりガン見していたのかもしれない。
アオイのイメージする理想的な俺ならば、漢らしく堂々としていてもおかしくない。
と言いますか、何故かダメージを受けたり盛り上がってきたりすると、戦闘装束が水分に溶けて破れ落ちてしまう仕様になっていることを不思議に思ったアオイがよくよく観察していただろうことは、何とはなしに予想できて。
その辺りのことを考えてしまえば。
そんな仕様にしたリィアラさんのせいのようにも思えるけれど。
当のリィアラさんはチューさんと一緒になって未だもふもふを提供……じゃなかった。
俺が逃げ出さないように、恐らく今回の責任を押し付けたいのだろう。
ひっしとしがみついていて、それだけで気を抜けば意識をロストしてしまいそうで。
仲間たちに、いつものことだからといった風に、ある程度好意的に許されつつ、ダンジョンコアな二人に引っ付かれている状態。
果たして、傍から見たらどう映っているのだろう。
魔王パーティーの翼持ちしヒーラーさんはもちろんのこと。
リザヴェートさんもミゾーレさんももれなく怒っているような気がして。
これから俺は、それ相応の言葉を浴びせかけられ、罰を受けるのだろうか。
そう思っていたら。
何故だか今の今まで『異世界への寂蒔』へ挑戦し続けていた事以外の記憶が蘇ってきて……。
※ ※ ※
「はっ」
突然の喪失からの覚醒。
目に映るのは知らない天井……と言うか、『ユキアート』での拠点、宿屋の一室であった。
「……じーっ」
「おわっ。ゼロ距離目つぶしは勘弁してえぇっ!? ……って。ピプルじゃないか。わざわざ出てきれくれて看ていてくれていたのか、ありがとう」
「うん。こちらこそ。あるじ、みてくれるようになったから。あるじが起きてくるまで見守るの、じぃーっと」
薄い白金の長い髪をまっすぐに流した、大きな大きな翡翠色の瞳が綺麗な少女。
こりゃまた初見のマイ妄想だ(苦しい言い訳)。
なんて思っていると、瞬きしたその瞬間。
見慣れてはいるけど引っ込み思案の恥ずかしがり屋で、滅多に顔を合わせることのなかった、真白な蛇の姿をとったピプルの姿がある。
それに、何とはなしに安堵していると。
ピプルはそのまま器用に頷いてみぜて。
「つぎの番は、ディー。ちょっと呼んでくる」
「ああ、うん。呼んでくるのはいいけどもう起きてるし、俺も一緒に行くよ」
「……ん。わかった」
何やら悩み込んでいて。
嫌がられて、今までのように逃げられてしまうかと思いきや、そんな事もなく。
ほっとしつつも、改めて意識失っている間のことを聞いてみることにする。
「それで、その。俺が寝ている間に起こったことピプルは聞いていたりするかい?
「わたしはくわしくは聞いてない。でもみんなおこって? た? スーイなんか顔真っ赤っかだった」
「うっ。スーイも出てきてくれてたのか。というか、もしかしなくてもみんな出てきてくれてるのかな」
「うん。みんなでいつもの会議中」
ふむむ。そんな会議とかみんなでしてたんだなぁ。
やっぱり寝ている間に色々とやらかしてしまって、ダンジョンマスターを首にするとかそういう感じの話し合いだったりするのだろうか。
そんな事を考え出してしまって。
戦々恐々としつつも、寝ている間にしでかしてしまったことを少しでも知りたかったので。
そんなやりとりをしつつ、そのままピプルと連れ立って。
蛇の姿と少女の姿を行ったり来たりしていたから。
俺の瞳は一体全体どうなってしまっているのかと思いつつも。
今の今までと違って、気づけば俺はそんなピプルのエメラルドめいた瞳を、しっかと見ていられるようになっていて……。
(第77話につづく)
次回は、10月16日更新予定です。




