第72話、魔王、天丼だとは思いつつもいいわけひとつ零して撤退する
ごくごく個人的な理由で抜け出していて。
それでもみんなの勇姿を見守らねばと。
右往左往、瞳を閉じたり閉じなかったりしている中。
文字通り後方待機で高見の見物をしているコアの人二人が、ちゃんと見れないでいる俺のためにかはともかく、現在の熱い熱戦の繰り広げられている、その状況について解説? してくれた。
「むむ。分け身のジエンさん、やりますね。やはり、ダンジョンバトルに明るいのでしょうか」
「ふむ、主どのの能力をある程度模倣できるとすると確か、ダンジョンフロアを俯瞰してみる事ができるのじゃったか。対する者同士、力の差がそれほどないとすると、司令塔役がおる方が有利となるのは道理かの」
正直、チューさんのうなじ越しでなんとか見える光景を鑑みても、アオイが後方見学者ムーブでプルプルしているようにしか見えないのだけど。
何だかんだで代役を押し付けることとなってしまったアオイは、今のところ問題なくやれているようで。
『ほう! 番外からの指示、という方法があったとはね!』
『凄い。いつもならしばらく膠着状態が続きますのに』
『やっぱり、何だかジエンってバトルになると人が変わったようになるよね』
『……あんな感じの、情熱的なご主人さまも素敵だね』
『ふんふん。わたしの透過能力を雪玉に? なるほどぅ。ちょっとやってみるね……ええいっ!』
『くぅっ!? 壁を、雪だるさんですらすり抜ける、だとう!?』
『凄い、これならいける! ……あ、でもシラユキさんしか掴めないのか、雪玉』
『ですが好機です、このまま畳み掛けましょう!』
『回復魔法を必要としない戦場、これはこれでスリリングだね』
『ひょわぁっ!? 何たる投擲の強さぁっ!』
『すり抜ける力があってもなくてもお構いなしじゃありませんかぁ!!』
このように、一挙手一投足、観戦されているのを知ってか知らずか。
代役のアオイが膠着状態であった展開を動かす発言をしたらしく(案の定、アオイのセリフだけぴぎぃとしか俺には聞こえない)。
みるみるうちに雪玉の応酬が激化していって。
「ふむぅ。思っていた印象より激しい戦いじゃの。あの場におらんでよかったわ。……しかし、両軍ともそれなりに被弾しているようじゃが。ダメージ、勝敗の判断はどうなっておるのじゃ?」
「あ、はい。みなさんには装備品を外していただいて、専用の戦装束に着替えてもらっていますが。あれはわたくしの特製でして。ある程度時間が経過すると、ダメージ判定が出てくるようになるのです。とりあえず目安としては、両手が使えなくなったらリタイアとなりますね」
「両手が? それってどういうこと……って、うおぉああっ!?」
一体どういう意味なのかと。
リィアラさんに問いかけようとして。
俺は思わず悲鳴を上げて転げそうになってしまう。
リィアラさんの言う戦装束という名のビブスつき体操着。
それまではいくら被弾しようとも正しく魔法の力で護られていたのにも関わらずダメージが蓄積されたからなのか、今まさにフェアリの触手による剛速球が、アイスゴーレムな雪だるさんをぶち抜きつつその裏側にいたミゾーレさんの取り巻きの一人、何とはなしに魔王というかテイマー的見方をするとナーガ系の魔物っぽい(だけど見た目は典型的なヒーラーさん)少女の胸元に直撃したかと思ったら、どうしてなのかビブスがぱんっと弾けてその勢いで上着がはだけてししっ、下着がみ、見えっ……!!?
「ぴぎゃあっ!?」
「主どの!? いったい何がっ……!」
これ以上はあかーんと。
自分でもちょっとないなぁ、とは思う悲鳴を上げてしまって。
リィアラさんにチューさんをお願いして預けてしまう形となって。
俺は一目散にその場から撤退、逃げ出していって……。
※ ※ ※
何かを忘れているような気がしつつも。
本来敵性になる可能性もゼロではなかったリィアラさんの元にチューさんをおいてまで
(とはいえ、チューさんを含む仲間たちにはこっそりしっかりがちがちにこういう時の場合の対策をバッチリ施している)その場を離脱したのは。
何もとらぶるにへたれてただただ逃げ出したわけではなかった。
一応、チューさんには念話で逃げ出す事の苦しいいいわけ……少し気になるものがあるから外に出ると伝えた(メチャ後出し)通り。
魔王の間とも言える、『リリー』ダンジョン最下層(35階)より、合戦場のある33階層より少しばかり上の階層に、今の今までこの世界で見たことがなかった、マップ上における(常に半透明で青色に染まりつつ浮かんでいる)黒い丸……それも複数発見したからで。
黒丸、かあ。
今までそんな色表示存在っていたっけなぁ。
基本的に、自身は黄色点、仲間味方は緑色点、敵意のある敵性等は赤色点で。
アイテムは水色点、その他NPCなど中立的立場の人たちは、白色点で表示されていて。
ゲームの時代に遡っても、黒い丸は初めて目の当たりにするものだった。
まず、何せ見づらいことこの上ない。
しかも、色々目移りしすぎてはっきり確認はできていなかったのだけど。
それまで白色点であったものが反転するみたいに急に変わったようにも見えたのだ。
それがどうにも気になって、確認したくて。
その場を離脱したくなると仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
「ほほう? シラユキと同じタイプの能力持ちか? 壁や天井通過できるのか。
しかもまぁまぁ早いな。倍速くらいか、それならばこっちもっと」
念には念をと。
『ヴェロシアップ(倍速行動)』のカードを重ねがけして。
ダンジョンで言う所の一ターン三回行動にしておきつつ。
おそらくは今現在30階層ほどにいて。
まぁまぁの速さで向かってくる黒色点の何者かを待ち構えることにして……。
(第73話につづく)
次回は、9月22日更新予定です。




