第71話、ダンジョンマスター、いつもならかわって引っ込んでいたその先を識る
結果的にあっさりとコアであることを詳らかにしたリィアラさんは。
改めて『ユキアート』の勇者と魔王、ダンジョンについて現愛進行形で健全にバチバチやりあっている映像を交えつつ。
より一層、少しばかり早口になって説明してくれる。
「チュート先輩の所と同じかどうかはわかりませんが、『ユキアート』ダンジョンコアである私の、『百合百合な物語で一旗揚げたい』、といった願いを女神さま? が聞き入れてくださって、その結果私の元へいらっしゃったのがミゾーレさんと、リザヴェートさんなのです!」
「なんじゃと? 女神の願いとな!? それは呼ばれし勇者の特権ではなかったのかの?」
「ええ、もちろん勇者さまも魔王さまにも与えられし願いはありますよ。まぁ、何分プライベートなことですので、二人の願いについては差し控えさせていただきますが。かいつまんで申しますと、ミゾーレさんとリザヴェートさんは、私の願いによる結果であるということですね」
「むう。そうか。となるとわしの願いは……」
勇者だけご褒美的なものがあることを不思議に思っていたけれど。
どうやらチューさんが勘違いしている部分もあったらしい。
確かに言われてみれば、魔王である俺の願いと言えば、ダンジョンに潜りまくりたい、マイダンジョンを思う存分楽しみたいというもので。
既に叶っている、といっても過言ではないわけだし。
まぁ、それでもやっぱり女神さま? 的存在に会った記憶は全然ないんですけども。
そう言えばチューさんの願いって何なんだろう?
チュートリアルっていうか、ふところマスコットになるってわけでもないだろうし。
……なんて、二人のダンジョンコアさん達のやり取りを耳にしつつも。
俺の視線はリィアラさんが『ユキアート』の勇者リザヴェートさんと、魔王ミゾーレさんのやり取りを逐一観察するために作ったと言うコアルーム……ではなく、向こう側からは見えないガラス張りの部屋、所謂マジックミラーのようなものなのだろう。
熱く、賑やかなる雪上の合戦(どうして今回雪合戦なのか聞いてみると、ただただ戦うだけじゃマンネリになってしまうから、どうせなら氷雪満載なこのフィールドを利用しよう、ということなったらしい)へと釘付けとなっていた。
雪合戦、などと聞いていたから。
和気あいあい、ハツラツばかりなものかと思いきや、合戦の名前の通り、ダンジョンのトラップや魔法などじゃんじゃんと扱い使っているようで。
『異世界への寂蒔』へ挑戦するための前哨として出てくるダンジョン。
あるいはエンドロールの前の出てくるダンジョンボスバトルに近いものがあるようだった。
ターン制の、ダンジョンならではのバトル。
そう見えてしまった俺には、やっぱりちょっと参加すればよかったかなぁ、なんて思っていたけれど。
「……あら? あちら側にもジエンさんいらっしゃるんですね」
「お、おぉ。主どのの分け身じゃな。……いつもの主どののように荒ぶっておるわい」
「えっ? ……あ、そうか。俺には自身の能力の効果が分からないんだったっけか」
『幻惑混乱』のカードによって生まれる、チューさんの言うところの分け身は。
そもそもがそのカードを受け入れてくれる存在が必要となる。
初めは、マイダンジョンにてテイムしてから『モンスター(魔物魔精霊)』バッグで自由にされているゴーレムさんにでも頼もうか、なんて思っていたけれど。
いつの間にやらその役目をウルガヴ・スライムのアオイが引き受けてくれていたというか。
俺が『いない』時には、自身が代わりとなるのが当たり前であるかのようなアオイがそこにいた、というのが正しいのかもしれない。
何度か話す機会もあったが。
アオイは、現在我が軍のエースにして要であるフェアリよりも早く、チューさんによってもたらされ俺が手を加えたマイダンジョン挑戦時にて、初めてテイムできたモンスター、主に1~3階層までに出現するまさにスタンダードな青スライムである。
この世で一番進化が早いと言われている『フェアブリッズ』なる魔物、魔精霊に進化する、ある意味でレアなモンスターで。
『異世界への寂蒔』。
最下層まで頼もしいリカバー・スライムでさえ、あらゆる可能性をもっていつ失うこととなるか分からない鬼仕様なダンジョン。
それを考えても、名付きのモンスターとはこれすなわちそんな厳しい世界から生還した証とも言える訳だが。
今回気づけば代役をお願いすることとなったアオイは。
その回……初回のダンジョン攻略が、これ以上むつかしいと判断して。
(例えば食料がなくなったり、テイムのための得物をロストしてしまったり、攻略に必要不可欠なモンスターを出現階までにテイムできなかったり)
『セシード(内場脱出)』のカード、あるいはブックを使って途中帰還をした時についてきてくれた初めの一人ではあるのだけど。
フェアリたちのように、スムースに話ができるようになるにはもう少し時間がかかるだろうと思っていたのでそんなアオイの成長っぷりには目を細めるばかりで。
細めて見ても、『デ・イフラ』を受けて俺の分身になっているというよりも、荒ぶってぷるぷるするほどにやる気満々なアオイが見えるだけだった。
雪上とはいえ、熱くなってきて汗で色々透けてしまっている、危険でいやんな光景は見えてはいないのです!
青いボブカットがかわいい、きらきら蒼目の、あまりに薄着にすぎて見えてはいけないぷるぷるが見えそうになっているのも、きっと気のせいなんですよ、ええ、はい。
その時の俺は。
そんな風に強がるのが精一杯で。
結局この場からも逃げ出さなくてなはならないのか、なんて思っていて……。
(第72話につづく)
次回は、9月16日更新予定です。




